異世界トラベルした先々で自分のウンコがバカ売れして大儲けする話 【前編】

自分の世界ではなんでもないものが、異世界では突然宝になる。そういうことなんですよ。 ウンコが売れたら最高やん。
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帽子男 @alkali_acid

きらきらと塵を散らしながらエルフはえくぼを作ってみせる。 「座標が分からなければ帰れませんでしょう?忘れるなんてありえませんわ」 「ギヒヒ、そうだったそうだった」 「まあでも、取引は済んだことですし…もう魔法の守護はありませんわね」 「ギイ!?」

2018-10-05 00:13:36
帽子男 @alkali_acid

またも空をよぎってきた矢を二本、跳ね転がって盗賊はかわした。 「あら、やっぱり手練れ…」 感心したような声に次いで新たな攻撃が襲う前に、ゴブリンは頭に浮かんだ数字の列をでたらめに読み上げた。あたりがゆらめき、景色が遷(うつ)ろう。

2018-10-05 00:16:22
帽子男 @alkali_acid

気づくと、真暗な場所にいた。 「ギ…」 黄色い三白眼が闇に瞬く。幸い小鬼は夜目が利く。慣れてくればわずかな光でもあたりの輪郭がおぼろに分かる。 どうやら洞窟。それもかなり大きな。

2018-10-05 00:18:47
帽子男 @alkali_acid

湿気があり、温度がある。風はよどんでいるようだが、まったく流れていない訳でもない。背後にゴブリンのウンコが詰まった便壺がいくつかと、エルフのフケが詰まった樽がある。どういう妖術のおかげかついてきたらしい。 羽ばたきの音がして、何かが舞い降りる。戦意が伝わる。

2018-10-05 00:21:03
帽子男 @alkali_acid

ボルボは黙りこくったまま胸の内で邪神や魔王に呪詛をぶつけて、短剣を抜いたまま低く伏せた。 いきなり目の前に牙を生やした蝙蝠と人間の合いの子のような怪物が飛び掛かって来る。だが見えない壁が阻んでむなしく宙を打つだけだ。 「下がれ。ここは狩場ではない」 どこからか低い声がする。

2018-10-05 00:22:55
帽子男 @alkali_acid

叡智の指輪が理解を助けてくれるが、また知らない言葉だ。 どうやら闇の国に帰ってこれた訳ではないらしい。 「そこの方、ご無事でいらっしゃいますか?」 続いて優しげな女の声。女の声というだけでボルボには少々不安で、静けさを保ったままでいることにする。

2018-10-05 00:24:43
帽子男 @alkali_acid

「やっぱり、魔女って人気ないんですね」 今度は子供の声だ。いったい暗がりに何人潜んでいるのだろうか。気配は一つだというのに。 光る茸がぽんと傘を開いて、少年のかたちをあらわにする。蔦の髪に緑の肌。しかしゴブリンとはかけはなれた、エルフを思わせる美貌だ。 「こんにちわ」

2018-10-05 00:26:41
帽子男 @alkali_acid

小鬼と変わらぬほど丈が低く、いかにも華奢だが、ボルボの嗅覚は過たなかった。即座に這いつくばって情けを乞う。 「ギギヒヒヒ、ぼっちゃまお初のお目にかかります。おいらはボルボ。あわれなゴブリンにございます。どうぞ命だけはお許しを」 「あ、どうも。僕は…ええとリトリトと言います」

2018-10-05 00:29:00
帽子男 @alkali_acid

樹木の特徴を備えた童児は、美しいかんばせに、男の心を蕩かさずにはおかないような、甘い笑みを浮かべる。対する醜い小鬼は、どんな女でも気分が悪くんなりそうな卑屈な笑みで応じた。 「ギヒヒ」 「よろしくおねがいします。実は僕ちょっと友達とはぐれてしまって…道、ご存じないですよね」

2018-10-05 00:31:09
帽子男 @alkali_acid

「ギヒヒ、おいらも…ここへは来たばかりなもので」 「そうなんですね」 「ギヒヒ」

2018-10-05 00:31:46
帽子男 @alkali_acid

おっとりとした少年に向かって、精一杯いやらしい笑いを浮かべつつも、ボルボはまた難儀な取引になりそうだと内心ほぞを噛んだ。

2018-10-05 00:32:45

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