異世界トラベルした先々で自分のウンコがバカ売れして大儲けする話 【前編】

自分の世界ではなんでもないものが、異世界では突然宝になる。そういうことなんですよ。 ウンコが売れたら最高やん。
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帽子男 @alkali_acid

だがボルボはそしらぬふりをして尋ねる。 「ギヒヒ。さて、帰り道はどっちだったけね」 「さあ?召喚の座標は私どもには分かりかねます…もちろん…ご存知でいらっしゃいますよねお客様は」 「ギヒヒ。もちろん」 「それなら結構ですけど…ところで当地には乗り換えか何かでいらしたのですか」

2018-10-04 23:21:17
帽子男 @alkali_acid

「ギ…ああそう」 「それとも…取引?」 肌もあらわな衣装のおとめがにじり寄り、急に止まった。見えない壁にあたったかの如く。 「あら」 「…ギ」 どうもおかしい。

2018-10-04 23:22:36
帽子男 @alkali_acid

「取引ですね」 「ギヒヒ。なんでそう思う」 「とぼけていらっしゃいますの。取引が完了するまでは攻撃できない、独特な魔法の結界をご用意なさっておいて」 「結界…ギ?」

2018-10-04 23:24:44
帽子男 @alkali_acid

ボルボのはめた指輪が輝く。たちまちさまざまな言葉の断片が筋の通った考えにまとまる。 結界は壁。盾のようなもの。闇の国からここへ盗賊を運んだしかけには何か複雑な妖術が働いていたらしい。取引とやらにかかわりがある。 「取引、なさりたいんでしょう?そちらの品物は?」 「ギヒ…ええと」

2018-10-04 23:27:22
帽子男 @alkali_acid

ゴブリンは怯えているととられないよう、ゆっくり立ち上がり、首を巡らせた。背後には便壺だけが多数並んでいる。中にはぎっしりウンコ。正確には糞毒の素が詰まっている。 「ギヒ、ちょっとしたもんさギヒヒ」 あやしげなエルフに向かって告げてから、全速力で頭を回転させ始める。

2018-10-04 23:29:02
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 闇の国の宮殿では、王を失た妃等が慌てふためいていた。 「旦那様が岩についてた模様を読み上げたら、光って?ゆらいで?消えた?何がなんだか分からないアル」 あぜんとする道姑に、騎士は着ていた服に写しとった模様、というか文字を突きつける。 「調べよ。急いで」

2018-10-04 23:31:35
帽子男 @alkali_acid

「こうなったらツィーツィーさんだけが頼りです。魔法や妖術に一番詳しいのはあなたですから」 剣豪も横から口添えする。 エルフは人間ふたりを見比べてからしょげる。 「でも肝心なときにウチの指輪が…」 「ボルボが戻らねば指輪も還らぬ」 「うう…」

2018-10-04 23:33:17
帽子男 @alkali_acid

三人は連れだって地下の書庫へ降りる。 「年代記をあたってみるアル…都のはずれの塩の柱のあたりアルな…ちらっと見た記憶はあったアルが…」 キョンシーが石でできた本を次から次へ引っ張り出し、主に差し出してくる。 「ええと…禍…塩の柱…あった!これアル!紫鱗の龍…龍の禍」

2018-10-04 23:35:37
帽子男 @alkali_acid

「龍だと?」 驚くシルヴィアをルーナがそっと肩に手をかけて落ち着かせる。ツィーツィーは矢継ぎ早に屍の奴僕に命じる。 「闇の国の年代記第七十七巻!」 すぐ要求した本が開く。 「ふむ…ふむふむ…」

2018-10-04 23:37:13
帽子男 @alkali_acid

「何か分かりそうか」 「紫鱗の龍の禍について書いてあるアル。古き闇が開いた異世(ことよ)への門を通って、向こうからやってきた長虫…黄金の翼と牙、爪、真紅の瞳をしていて、咆哮だけですべての魔法を打ち消し、呪文であらゆる命を塩の柱に変える」 「呪文?竜が?」

2018-10-04 23:39:41
帽子男 @alkali_acid

黄の肌に切れ長の双眸を持つドーンエルフのおとめは、うなずいてまた猛然と書を漁ってゆく。 「古き闇は異世の門を開き、さまざまな力を求めたアル。最も熱心だったのは、強大な竜の力を手に入れて、しもべにするもくろみだったアル…三つの世界から天竜、地竜、海竜の卵を取引で…」 「取引?」

2018-10-04 23:41:58
帽子男 @alkali_acid

問いかけるドラゴニア人に、東洋の妖精は心ここにあらずといったようすで返事をする。 「…まだ詳しく分からないアルな…異世への門については別の書が必要ある…この妖精多次元拡散論という一冊をもってくるある。書架番号は…」 告げると、キョンシーがはねてゆく。

2018-10-04 23:44:44
帽子男 @alkali_acid

だが騎士が先んじで動き、螺旋状になった通路の柵を乗り越えると、一気に下へ降り、目的の本を引っ張り出すと、石の重さももものかは、抱えて駆け上って来る。 「これか」 息を弾ませながら尋ねるシルヴィアに、ツィーツィーはうなずく。 「ありがとう小姐」

2018-10-04 23:46:04
帽子男 @alkali_acid

ルーナが水の入った革袋を渡しながら、抑えた声音で述べる。 「シルヴィアさん。ボルボさんはめったなことではけがもしませんわ」 「…分かっている。やつはしぶといゴブリンだ…これしき」 「ツィーツィーさんをあまり焦らせてはだめですよ」 「…うむ…」

2018-10-04 23:47:57
帽子男 @alkali_acid

道姑も水を回し飲みしながら、すぐに調べた結果を読み上げる。 「古き闇は、妖精の忘れられた魔法を蘇らせ、門を作ったアル…でも、異世で危険な敵と出くわしたときに備え、取引の掟によって守りを固めたアル」 「掟とは何だ」 「何ものも取引が終わるまで門を通じてあらわれた旅人を傷つけられない」

2018-10-04 23:49:55
帽子男 @alkali_acid

「…つまり」 「旦那様は多分、古き闇の魔法で守られているアル」 「だが別の世界にいると」 「そういうことアルな…」 「待て。取引の掟とやらが働いているなら、なぜ龍の禍とやらは起きた」 「そこははっきりしないアル…闇の国の書記も分かってなかったような…」

2018-10-04 23:51:28
帽子男 @alkali_acid

ツィーツィーはおさげをひっぱりながら眉根を寄せる。 「この紫鱗の龍が、古き闇を歯牙にもかけないぐらい強い、とてつもないやつだったとか、何らかの手段で裏をかいたか」 「竜にそんな知恵が…?確かに賢い生きものだが…」 「竜にも色々いるみたいアル」

2018-10-04 23:53:29
帽子男 @alkali_acid

とまどうドラゴニアの竜騎士に、无屍民国の霊幻道姑は説明する。 「古き闇が連れてきた、天竜、地竜、海竜は、どれも強かったが、賢くはなかったアル。呪文も操れなかった…古き闇はより優れた龍を求めて、色々な世界を探ったようアル…そして…」 「望み通り最強の龍がいる世界を見つけたのですね」

2018-10-04 23:55:22
帽子男 @alkali_acid

クレセント帝国の剣豪が後を引き取る。 「ところが、その龍は、古き闇には手に負えぬ存在だった。龍はこちらの世界にやってきて、闇の国の軍勢を塩の柱に変え、異世への門を壊した」 「多分そうアルな」 「でも、なぜかまた門は働いた」 「完全には壊れてなかったのかもしれないアル」

2018-10-04 23:57:12
帽子男 @alkali_acid

銀髪のおとめは拳を握った。 「それで…あいつは…ボルボは戻ってこれるのか」 「分からないアル…」 「こちらから追いかけることはできるか」 「それも分からないアル…」 「では!」 食ってかかるような勢いになるのを、浅黒いおとめが制する。 「シルヴィアさん、落ち着いて」

2018-10-04 23:59:02
帽子男 @alkali_acid

「すぐに何もかも答えが出るはずありませんわ。ツィーツィーさんを疲れさせてはいけなくてよ。でもあなただけが頼りです。私達も手助けは惜しみませんから、もっと詳しいことが調べられるか、やってみて下さいな」 黄の肌の娘に向き直って穏やかに告げると、すぐ威勢よく返事がある。 「承知アル!」

2018-10-05 00:01:02
帽子男 @alkali_acid

すぐ本に視線を落とし、石の頁をめくりながら、道姑はぶつぶつと独り言ちる。 「遠ざかるべき世界…冥王…雌を狂わす獣鬼…何アルか?…星々より降り来る魔女…四元の民…?…いったいどれだけの世界と取引したアル…古き闇は…」

2018-10-05 00:05:16
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「ギヒヒヒ、毎度あり」 「うふふ、ありがとうございます」 偽物めいたエルフの体から出る粉、まあフケのようなものをいっぱいに詰めた樽と、ウンコの加工品が詰まった便壺の一つを交換しながら、ゴブリンは商売人らしい挨拶を済ます。

2018-10-05 00:07:32
帽子男 @alkali_acid

「驚きましたわ。ゴブリン?さん達の体から出るものがこんな強い毒になるとなんて…増えすぎた魔物の駆除にも、不心得な冒険者への仕置きにも役立ちそう」 「ギヒヒ、こちらこそ、エルフ?さん達の体から出るもんが、きれいさっぱり身を隠せるすごい粉になるとはね。お互いいい取引だった」

2018-10-05 00:09:42
帽子男 @alkali_acid

ボルボはぺちゃくちゃ喋りながら片時も粉っぽい妖精から注意をそらさなかった。 「せっかくですから品物だけでなく、知識の取引もいたしましょ♪お客様のいらした世界の座標についても詳しくお教えいただけないでしょうか」 「ギヒヒ、座標、座標ねえ…ちょっと思い出せないなあ」 「あら」

2018-10-05 00:12:00
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