異世界トラベルした先々で自分のウンコがバカ売れして大儲けする話 【前編】
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得意げなボルボに、シルヴィアがせつな、身をこわばらせ、そっぽを向く。 「そうだな。ドラゴニアの現王のように」 「あんたの愛しい先王様に毒を盛り殺して、玉座をぶんどったお方だったっけねギヒヒ、人間にしとくにゃもったいねえずる賢さだ」 「…ああ」
2018-10-04 22:28:18![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ギヒヒ。そうそう、あんたの惚れてた殿様の命を奪ったのもゴブリンの糞毒。まあドグサレクサナシゲデゲデじゃねえが。ギヒヒ」 「…そうやって、私が貴様に愛想をつかすのを待っているのか」 ぼそりと騎士が尋ねると、盗賊はびっくりしてまばたきする。 「あん?」
2018-10-04 22:30:37![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
シルヴィアはいきなり拳を固めてボルボのつるっぱげ頭を殴りつけた。 「いでえ!何すんでえ!」 「すっきりした」 「ギイイ!!ひでえ!あわれなゴブリンをいじめて何の得があるってんだギイイ!!」
2018-10-04 22:31:56![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「糞毒を作って、売りさばいて…それで?」 「ギヒヒ、このうすきみわるい土地を逃げ出して、もっと楽なところへ行くのにも先立つものは金だ。金さえありゃドラゴニアのめんどくせえ軍隊もかわせるだろうし、いいことづくめだ」 「…ひとりでゆくのか」 「ギ?」
2018-10-04 22:34:20![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
銀髪のおとめはまた緑肌の若者にまなざしをそそぐ。 「私を一緒に連れてゆく気はないか。剣は役に立つ」 「ギヒヒ、人間にゃ無理だ。ゴブリンの暮らしはな。奴隷としてこき使われてえなら別だが」 「それでもかまわぬと言ったら」 「ギヒヒ、闇の国の空気に狂ってるのさ」
2018-10-04 22:36:34![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
シルヴィアは唇をかんだ。 「狂っていたから…それがなんだ」 するとボルボは連れの鼻先で指をぱちんと鳴らして見せる。 「ギヒヒ。狂った相棒なんか、おいらは欲しくねえ」 「…っ。下種のゴブリンめ」 「さあてそろそろ塩の柱だぜ」
2018-10-04 22:38:54![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
あたりは剣や槍、弓矢を構えた兵や、馬にまたがった将などが、さながら戦場の一瞬を凍り付かせたかのように凝って結晶となって、集まりあるいは散らばっている。 「…不気味だ」 「闇の国ってのはどこもかしこもおかしいのさ。ギヒ。…今日はちょいと奥まで行くぜ」
2018-10-04 22:41:54![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
一行はさらに進んで、塩の軍勢が立ち向かおうとしていた敵のいたあたり、とでもいうか、すり鉢状の穴に砂礫が流れ込んだ場所までたどり着く。 かつて環状に並んでいたらしき方形の岩塊が、そこかしこに崩れこぼたれている。 「ギヒヒ、このあたりなら糞毒を隠しておくのにちょうど…」
2018-10-04 22:44:13![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
ふと巨石の一つに目をとめたボルボが、表面に刻んである模様を目で追い始める。すぐ夢中になって、シルヴィアがけげんそうに眺めているのにもかまわず、凸凹の岩肌にへばりついた。 「おい、どうした」 小鬼の口から聞き慣れない言葉が漏れ出す。
2018-10-04 22:47:24![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「おい、ボルボ。おい!」 騎士は何度か呼びかけてから、伴侶の指にいつのまにか黄玉の指輪がはまっているのに気づく。 「叡智の指輪…解読しているのか?その石の…だが…気を付けた方が」 ゴブリンが腕を振り回しながら、得体のしれない語句を並べ続ける。同じ響きの繰り返しが多い。
2018-10-04 22:49:25![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
数字。座標だろうか。岩塊に彫ってある記号が呼応するように鈍い輝きを帯びてゆく。 「ボルボ!止めろ!ボルボ!」 長身の妃が肩を掴もうとするより先に、矮躯の王の姿は、ゆらめき、霞がかかったように消え失せた。
2018-10-04 22:51:46![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
◆◆◆◆ 気が付けばそこは新たな世界。 「ギ?ギギ?今のはいったい…」 我に返ったゴブリンが見回している。どこかののどかな村だ。闇の国とちがって穏やかな雰囲気。 「一名様ご来村でーす!」 甘やかな声。
2018-10-04 22:54:06![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
きらめく粉が飛び散ったかと思うと、いきなり周囲に人影があらわれる。背中と脇とえりぐりがものすごく開いた衣装をまとったエルフの娘等。 「あら、待って勇者様や賢者様じゃないみたい」 「ほんと。こぎたない人型の魔物」 「どうしましょう。姿をあらわしちゃった」 「殺しちゃいましょう」
2018-10-04 22:57:37![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
いきなり死角から矢が空をよぎってくるのを、ボルボは低く伏せてかわそうとした。だが飛び道具は途中で力なく落ちる。 「あれ…なんだか…ものすごく強い魔法が…」 「この魔物を守ってる」 「何かしらこれ…」
2018-10-04 22:59:09![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ギ…ギギギ…死ぬ…」 ゴブリンはぎざぎざの歯を打ち鳴らしつつ、竜の牙の短剣を抜いて身構えた。エルフといえば天敵。闇の国の外では、卑しい小鬼と貴き妖精のあいだには殺意しか成り立ちえない。 何とか応戦の構えはとったが、むこうは粉をまき散らしながら気配も残さず消える。
2018-10-04 23:00:57![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ギ…?消え?」 姿だけでなく音も匂いも、大気の揺らぎすらも感じさせない隠身。ゴブリンタウンの精鋭、腐肉漁りの鴉の兄弟団の熟練さえとても追えないだろう見事な遁法だった。 「ギ…ギ…なんだってこんなことに…」 武器を握りしめながら愚痴る。
2018-10-04 23:02:50![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
死を予感しながら、じっと伏せて、逃げ道を探る。だが勘が働かない。さっきまでいた闇の国とはまるで別の土地に来てしまったようだ。 どれほど時間が経ったろうか。意外にもエルフの群は再び出現した。弓を携えずに。 「すいませぇんお客様。ちょっと手違いがありましてぇ」
2018-10-04 23:04:36![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ギ、ギ、ギヒ、気にすんな。おいらも急に来たからな」 叡智の指輪の力で、聞き慣れない言葉を難なく操りながら、ボルボは卑屈に作り笑いをする。 「お客様は、異なる世界からいらしたんですよね?呼び出しの大釜の力で」 「ギ?大釜?あ、ああそう」 「でしたらあ、おもてなししますよ♪」
2018-10-04 23:06:16![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
妖精達と小鬼は、まったくまごころのこもっていない愛想笑いを交換する。 互いが本能でまったく信用ならないと察したようだった。 「本当にすいません。お客様がいらした経路は、かつてご先祖様が新たな世界への道を開こうとして…でも龍が怒ってしまって」 「龍!?ギ…りゅ、龍がいるのか…」
2018-10-04 23:08:35![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
エルフは安心させるように手をひらひら振ってみせる。 「もういませんわ。偉大な賢者ヤマダサン様と勇者ヒロ様とその他大勢が退治してくださいましたから」 ゴブリンは首をかしげる。 「ギ?」 「ですから昔の話です」
2018-10-04 23:11:07![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ギヒ、なるほど完全に理解した(←分かってない)」 「お客様のいらしたのは龍の墓場まで通じる道だったものですから。当時まだ健在だった龍の怒りを買いまして、ほら龍って怒ると何をするか分からないでしょう?呼び出しの大釜を通ってお客様の世界まで押しかけていって暴れたりしたみたいで」
2018-10-04 23:13:11![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ギ、ギヒヒ…そうかい」 「龍が暴れた跡はすぐ分かりますよ♪魔法の道具は咆哮で破壊されるし、生き物はみんな呪文で塩の柱にされちゃうし」 「ギ…」 最前までいた闇の国の景色を思い出す。 「ギギ、ほんとにもういねえんだろうな。その龍は。うちのところの竜より性悪だぜ」
2018-10-04 23:15:32![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ええ。ですから偉大でうるわしく、慈悲深く、果断にして私ども妖精の心の姉妹であらせられる賢者ヤマダサン様と」 「それは聞いたぜ。とにかく、おいらはちょっと立ち寄っただけでね。もう行くぜ」 「あら残念ですわ」 特にひきとめるようすもないエルフを、ゴブリンはうさんくさげに観察する。
2018-10-04 23:17:37![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
何と言ったらよいか。どうも偽物くさいのだ。貨幣や骨董ではあるまいし、妖精に偽物があるはずもないのだが、闇の国で出会ったツィーツィーなどに比べると、妙にそらぞらしく、うわついた印象だった。
2018-10-04 23:19:02