#お好み焼き屋浜風 彼女たちのひよ子戦争編【艦これSS】

紅吏珠名 @chrishna_c2

「それじゃあ、これから佐世保鎮守府の軍法会議を始めるよ。提督、準備はいいかい？」 山風を膝で抱えてだっこしている提督が無言で頷くと、通算で何度目かとなる軍法会議が始まった。 #お好み焼き屋浜風

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重々しい空気の立ちこめる軍法会議室内。 そこにある人影は提督の姿と、１番から４番艦までを秘書艦とする佐世保提督の側近、白露型駆逐艦の面々だった。 #お好み焼き屋浜風

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提督の座る議長席の隣に立つのは時雨の姿。その視線が向けられる先の椅子には涼風が小さく震えながら座っていた。 「まずは涼風。今日この場に呼び出された理由について、何か心当たりはあるかな？」 時雨からの問いかけに対し、しかし涼風の口は閉ざされたまま、返答はない。 #お好み焼き屋浜風

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「涼風。僕の妹ながら君には失望したよ」 ならもう一度と、時雨は呆れるように言葉をかけると、涼風は堰を切ったように叫びをあげる。 「てやんでぇばかやろーちくしょーめ！　あたいが何をやったってんだい！　早くこの拘束を外しやがれ！」 #お好み焼き屋浜風

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「君には順番にひとつひとつ思い出してもらう必要があるようだね」 「思い出すって何をだい。時雨姉が寝てる間におっぱい揉んだり、ぱんつの色を確かめてたことをかい？」 「違うよ」 「じゃあ、合同演習の時に谷風と一緒に演習相手全員のおっぱいを揉んだことかい？」 「違うよ」 #お好み焼き屋浜風

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「じゃあなんだい、あたいがカステラが出る日の食事の配給を狙って箱ごとホールでギンバイをやったコトを言ってるのかい？」 「それも違う……というより涼風、普段からそんなコトまでしていたの？」 「やべっ。自分で自分の首を絞めちまった」 #お好み焼き屋浜風

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「その件については、今回の重大なやらかしに比べればごく些細なことさ。素直になってくれれば全部不問にしてあげてもいい」 「……」 「すべては涼風、君のこれからの態度次第さ」 #お好み焼き屋浜風

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「じゃ、じゃあ、今回のやらかしってぇのも不問にしてくれよ」 「それは、できない相談だ」 瞬間、時雨から放たれる気配が重く冷たく鋭いものに変わる。 「ひッ」 途端委縮し、反射的に椅子の影に隠れる涼風。 #お好み焼き屋浜風

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「涼風。君は先日、横須賀への出向の帰り、あるお土産を買って帰ってきてくれた。 可愛い妹が無事に帰ってきてくれること。気を利かせてお土産まで買ってきてくれること。 それ自体は、白露型の次女として、君の姉として、とても誇らしく、とても嬉しいことだ」 #お好み焼き屋浜風

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「最初に僕の考えを言おう。僕には絶対に許せないことが二つある。ひとつは、大切な仲間を傷つけること。もうひとつは……食べ物の悪口を口にすることだ」 #お好み焼き屋浜風

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「食べ物を美味しくいただけるってことは、その国が平和だという証明になるんだ。平和であればあるほど、食材や資源が豊富にあり、時間をかけて技術を磨き、調理を行い、味わいを深めることができるということだからね」 #お好み焼き屋浜風

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「こいつぁ……軍法会議というより、時雨の姉貴による一方的な詰問会ってコトじゃないのか……！」 「何をいまさら。時雨姉さんのアレって、いつものことじゃないですかー」 「春雨姉さんはこういう時でも落ち着いているんですね」 「えへへー。もうすっかり慣れてますからー」 #お好み焼き屋浜風

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「つか、時雨の姉貴が一度ああなったら涼風ひとりの手に負えない。ポジション的に村雨の姉貴。ここは白露型の三女として、二人の喧嘩をビシッと止めておくれよ」 「村雨は、今日は呉からきた足柄さんと初風ちゃんと一緒に、朝から女子会に行ってるっぽい？」 「あンのリア充」 #お好み焼き屋浜風

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「いいかい？　天龍の目の前でラーメンの悪口を言ったり、龍田の目の前でから揚げの悪口を言う場面を想像してごらん？　比叡の前でカレーの悪口を言ったり、間宮さんの前でスイーツの悪口を言ってしまう場面を、浦風の目の前でお好み焼きの悪口を言うことを想像してごらん？」 #お好み焼き屋浜風

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「……がくがくぶるぶる」 「どうやら分かってくれたようだね。僕は今、そういう心境に立たされている。僕の可愛いの妹を目の前にして。だから哀しい。とても哀しい」 #お好み焼き屋浜風

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「それでも納得いかねェ。ひよ子は東京土産だ。箱にだってそう書いてある。あたいは生まれも育ちもチャキチャキの江戸っ娘だ。東京土産を東京土産と言って何が悪い」 「それ自体が大問題なんだ。世が世ならネットで炎上待ったなしだったり、市中引き回しさえあり得るほどのね」 #お好み焼き屋浜風

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「銘菓ひよ子と言えば有名な和菓子だ。かのオリンピックのあおりを受けて東京にも製造拠点が作られるようになり、結果として東京土産として人々に知られるようになってしまった」 「なら問題ないじゃねぇか。ひよ子はひよ子。東京の土産として買ってきて、なにが不満だってんだ」 #お好み焼き屋浜風

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「そこが大きな間違いの始まりなんだ。ひよ子の大元のルーツは1912年に福岡県飯塚市の吉野堂で生まれたもの。つまり福岡土産なんだ。それをオリンピックが開催された翌々年、1966年に東京駅八重洲地下街に東京1号店が作られたことで」 #お好み焼き屋浜風

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「やがて東北新幹線の開通とともに『東京土産』だと認識する人が増えてしまった。それでひよ子を『東京土産』と誤解したまま九州は佐世保に持ちかえってくる。これがどれだけひよ子への悪口となっているか。僕の心を傷つけたか、涼風には想像ができるかい？」 #お好み焼き屋浜風

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「……。ひとつ訊かせてほしい。時雨姉は、どうしてそこまでして食べ物にこだわるんだい？」 #お好み焼き屋浜風

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「それはね……僕が『佐世保の時雨』と呼ばれているからさ。佐世保と僕はセット。できたての佐世保バーガー、熱々のレモンステーキ、コクのあるビーフシチュー、上品な味わいのカステラ、野菜たっぷり長崎ちゃんぽん……。あぁ、考えるだけでゾクゾクと感じてしまいそうだ」 #お好み焼き屋浜風

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「前々から思っていたンだけど、スイッチの入った時雨姉貴って根っからの」 「うん。だからみんな、そこには触れないようにしてる」 「涼風の大上段からマウントとってる理由も、もしかして」 「うん。なんか地雷を踏んじゃったからっぽい？」 「ああ……そいつぁご愁傷様だな」 #お好み焼き屋浜風

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「もう見てられねェ。白露の姉貴が一番上のお姉さんなンだから、皆を代表してあの二人を止めてくれよ」 「何も聞いてません何も言ってません何も見てません全部お姉ちゃんが悪かったですごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 「白露の身に、何かあったっぽい？」 #お好み焼き屋浜風

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「ふふっ……。白露姉さんが『ああなってしまった』以上、長女に代わって白露型姉妹をまとめあげるのは二番艦である僕の役割だ。それなら代表として涼風の間違った考えを改めないとね」 「間違ってなんかないやい。間違ってるのは時雨姉のほうだい」 #お好み焼き屋浜風