戦時中の血液製剤の話

・アメリカの乾燥血漿とアルブミン溶液 ・血液型を利用したドイツの人種差別 ・ソ連の死体血輸血 ・ドイツやソ連の血液代替薬剤 とかの雑多な話 続きを読む
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深海さかな @dzurablk_kai

こうした手法が効を奏し、ソ連では1930年代半ばには60の大規模な血液センターと500以上の支部を有する機構が出来上がった 37年には9500リットルを超える血液が払い出しされた 死体血に関しても、38年には輸血を受けた患者が2500名に登ったという

2019-02-16 22:55:34
深海さかな @dzurablk_kai

広大すぎる国土を有する上に秋雨の時期には道がぬかるみ車が走れなくなるソ連という地勢だからこそ生み出された「血液を貯蔵する」という概念は、当初こそ衛生管理がままならず患者の約半数に細菌汚染による副作用をもたらしたものの、その後の輸血業界に文字通り『革命的な』変革をもたらしたのである

2019-02-16 23:00:00
深海さかな @dzurablk_kai

ソ連のこの「血液を瓶に貯蔵する」という手法は、じきに訪れたスペイン内乱でボランティアによる複数の事例を経てシステム化の基盤が整い、それが後にイギリスの血液バンクの設立に大きな影響を与えることになる

2019-02-16 23:04:32
深海さかな @dzurablk_kai

ちなみに ユーディンの死体血輸血には、根拠があって 1928年にウクライナ外科学会で発表された、ハリコフ輸血研究所に勤めるV・N・シャモフによる、犬を用いた死体血輸血の実験にまつわる論文がそれ

2019-02-16 23:12:39
深海さかな @dzurablk_kai

シャモフは屠殺された犬から15分おきに12日間に渡り身体の各部から血液を採取、末梢の血液は一週間以上経っても無菌が保たれていたという事実に加え、その酸素運搬能力も生前同様に保たれているという研究成果をイギリスの「ランセット」誌に投稿した

2019-02-16 23:14:49
深海さかな @dzurablk_kai

シャモフが発見した「死後は腸の付近から腐敗が始まり、末梢は最後まで細菌汚染されない」という話は。『死体格差』にもあったなあ 人間の場合は体表と腸が最も近接する右下腹部、回盲部から腐敗が始まり緑色に変色していくらしい twitter.com/dzurablk_kai/s…

2019-02-16 23:18:09
深海さかな @dzurablk_kai

@dzurablk_kai 先日買った死体格差読んでたら、人体が腐敗していく過程が載ってたんだが 『腐敗は右下腹部から始まり、モスグリーンの変色が上下に広まる』との記述に、長年の疑問が解消された そっか、検索してはいけない言葉の『グリーンお姉さん』って、そういうことだったのか pic.twitter.com/xXhzZUU3Vy

2018-12-24 19:42:11
深海さかな @dzurablk_kai

ソビエトの輸血事情といえばもう一点 アレクサンドル・ボクダノフについても触れねばなるまい 彼はユーディンの前任者で、田舎の学校教師の息子として生まれ医師・革命家・マルキシズム理論者・小説家となった人物 1908年に火星を舞台にしたSF小説で「血液交換は市民の寿命を延ばす」と述べている

2019-02-16 23:30:51
深海さかな @dzurablk_kai

ボクダノフはイギリスに赴いた折、パーシー・レインーオリヴァーという人物が1920年代に作った、輸血を要する患者が病院に来る度必要に応じて電話で要請を受け、適合した血液型の事前登録者を派遣するという組織を視察し、1926年にモスクワに中央血液学研究所という世界初の輸血入研究センターを設立

2019-02-16 23:36:48
深海さかな @dzurablk_kai

のみならず、「命の源たる交換することで国民全てで長寿を共有する、生理学的集産主義」を主張し、弟子達と12回もの交換輸血を実施

2019-02-16 23:39:33
深海さかな @dzurablk_kai

当時は既にランドシュタイナーによるABO血液型は広く知れ渡っていたものの、輸血を繰り返していく度に免疫系が過剰になっていき(不規則抗体)、副作用が生じるリスクが高まるという事実までは知られていなかった そのためボクダノフは最期の輸血から15日後に、共産主義に殉じ尿毒症で死去した

2019-02-16 23:40:58
深海さかな @dzurablk_kai

ちなみにちなみに、余談だが 当時のソ連では輸血瓶に供血者(彼らの大半は銃後の女性だった)の名前が書かれていたために、戦場で輸血を受けた兵士と供血者との間に文通やロマンスが発生したことが少なからずあったらしいw ある兵士などは以前輸血を受けたのと同じ女性からの血を再び欲しがったとw

2019-02-16 23:44:44
深海さかな @dzurablk_kai

ソ連では国民の多さから血液が潤沢に得られたために、O型の血液を全血輸血に用い、その他の血液型の血については血漿生産用に用いていたというのも、ソ連特有な特徴

2019-02-16 23:46:34
深海さかな @dzurablk_kai

とまあ前置きがとても長くなったが、ソ連での代替血液製剤の話でしたね(本当に長い 当時のソ連では総じて血液の細菌汚染の率が高く(一時は血漿輸血を受けた者の四割に副作用が出たほど)、代替血の生産もハイペースで進められていた

2019-02-16 23:48:01
深海さかな @dzurablk_kai

当時のソ連の代替血液製剤は ・ペトロフ溶液(滅菌水を用いた電解質混濁液) ・セルツォフスキー溶液(骨髄の造血作用を促進させる薬剤) ・フェデロフ・ヴァシリエフ溶液(血圧維持のためにゼラチンを用いた高浸透圧液) など

2019-02-16 23:50:26
深海さかな @dzurablk_kai

これらはアルブミンや血漿ほどの長時間の抗ショック作用はなかったものの、ドイツ軍に包囲されたレニングラードで特筆すべき活躍をした 食料難で犬・猫・鼠や家具や壁紙からこそぎ落とした膠までスープにして食べていたレニングラードでは、日に3500人が死亡、900日間の包囲戦では63万人が命を落とした

2019-02-16 23:54:53
深海さかな @dzurablk_kai

しかしながら市民はレニングラード血液学および輸血研究所に不揃いな献血の列を作り、彼らから採取された血液はペトロフ液で希釈、水増しされた上で『墜落したメッサーシュミットの配管を用いて血液製剤を分注する機器を自作したオランダのレジスタンス』よろしく作られた即席の機器で多くの命を救った

2019-02-16 23:57:47
深海さかな @dzurablk_kai

アメリカにおける戦場での全血輸血のとりくみについても触れたかったが、疲れたのでまたの機会に

2019-02-16 23:59:00
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