先生と私⑩【葉月ちゃんの事情】

🐈 @erymylove888

1 欲しいものは与えてもらえる。 もしくは 難なく手に入れてしまえる。 それが私だった。 幼少の頃から、わりと裕福な家庭で育ち ここまでとくに挫折というものを味わったこともない。 人より外見にも恵まれて、悩む人の気持ちなんて分からなかった。 悩んでるふりならいくらでもできるけどね。

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2 なんで看護師になったかってよく聞かれるけど、 かわいいでしょ？私が白衣着てるの(笑) 合コンとか行っても私がナースってだけでちやほやされるしね。 まぁ制服やったらなんでもよかったんやけど、休みとりやすいし、給料いいし。 飛行機が怖くなかったらキャビンアテンダントしてたけど(笑)

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3 お付き合いしてきた人はそこそこいたけど、 すきーって思って付き合っても なんかすぐに冷めてしまう。 その頃には相手が私に夢中で、 けっこう面倒なんですよね…別れるの。 １人ややこしい医者がいたけど、 妻と別れるからとか言い出すし… いやいや、やめてくれって感じで(笑)

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4 ちやほやされるって気分いいし、 たくさん欲しいものも買ってもらえるし、 一人に縛られる意味とか全く分からなかったんですよね。 あの人に会うまでは…

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5 ‘’先生、今月分院から異動してきた新人です‘’ 〈小田葉月です、よろしくお願いします〉 『おださん？…な。覚えれるかな(笑) 横山です、よろしく』 ───微笑みかけられた瞬間、 何かが体を駆け抜けた。 なに？ この感覚… 看護師長に紹介された彼は隣の科のドクター。

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6 うちの科と共観している患者さんを 時々診にくるらしい。 顔も綺麗で、スタイルも良くて、 落ち着き放った言葉も、立ち居振舞いも… その全てから目が離せなくなってしまった。 はじめは私も仕事を覚えるのに必死で、 シフトの関係で一週間に一回、見るか見ないかくらいの存在だったけど…

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7 少し慣れはじめた頃、出勤の時 いつもより遅めの時間に乗ったエレベーターの人混みに彼がいた。 〈おはようございます…〉 『おはようさん』 きっと彼は他科の私のことなんて覚えてない。 他のナースにも向けられるであろう、 コピペのような無機質な挨拶に 少しイラっとした。

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8 それから日勤の日は、その時間に出勤した。 会うたびに挨拶を続けても、私は大勢の中の一人で… ある日、思いきって切り出してみた。 〈横山先生？ いい加減覚えてくださいよー、私のこと〉 可愛いって思われるのを分かってる上目遣いの笑顔と猫なで声で。

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9 『え… あぁ(笑) 知ってるよ、毎朝この時間やろ？』 私の笑顔が通用しない、余裕あるこの感じ… やっぱり言い寄られるの慣れてそう。 〈じゃあ名前、知ってます？〉 そう聞くと、胸元にぶら下がる私のネームプレートを手に取り、 『おださん…やん。知ってるよ(笑)』 〈もぉ、嘘つき…(笑)〉

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10 至近距離からのびてきた綺麗な手と、降ってくる静かな声に、 不覚にもドキッとしてしまった。 顔は… 見られなかった。 『なに？ 照れてんの(笑)』 ずっと翻弄されっぱなし。 この私が… みんなにこんな感じなのかと思うと、 やっぱりイライラする。 絶対に落としてみせる… そう思った。

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11 それからエレベーターや病棟で会うたびに話しかけ続けて、 何週間かする頃に、やっと彼から話しかけてくるようになった。 でもそれも、私が理想とするような会話ではなくて、ごく当たり障りない内容で… 歯痒く思ってた頃に、先生と何か言い合いながら仲良さそうに歩いてる彼女の存在を知る。

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12 なんかぱっとしない、背の低い彼女は先生と同じ科のナースみたい。 時々目に留まる二人に、ただならぬ何かを感じた。 その科の友人にそれとなく聞いてみたけど、恋愛関係ではなく、昔から親子のような師弟のような関係だという。 本当にそうならいいけど…

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13 待ってても何も進展しないし、 そろそろ私から仕掛けないといけないのかな。 残業で退勤が19時を過ぎた日、病院の裏口を出た通路で 偶然、私服姿の先生を見つけた。 〈あ、横山先生だぁ〉 『おぅ、おつかれさん。いま帰りなん？』 〈そうなんですよ、急変に当たってしまって…〉

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14 話しながら歩いてるとバッグを落としてしまい、中身が散乱する。 『疲れてんのか(笑)』 一緒に散らばったものを集めてくれる先生。 〈わー、ごめんなさい…〉 わざとなんだけど(笑) 〈先生って彼女さんとかいるんですか？〉 どさくさに紛れて聞いてみる。 『なんやねん、急に(笑)』

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15 〈いや、先生モテそうだなぁって思って〉 『そうか？ よう分からんけど…』 〈彼女さんとかいないんだったら、今からごはん行きません？〉 首を傾げて誘ってみる。 『別にええけど。どっか行きたいとこある？』 …かかった。 案外簡単にのってきたけど ここまでくればこっちのものよね(笑)

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16 とびきりムーディーでお洒落な居酒屋を指定し、 〈あの席座りたかったんですー〉 いかにもなカップルシートに案内してもらう。 『女ってほんまにこんなん好きやな(笑)』 先生の左側に座り、左手でカクテルのグラスを持つ。 〈おつかれさまでーす〉 『おつかれー』 労う言葉で乾杯するけど…

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17 ふふ(笑) 二人の関係の始まりに… 乾杯。 2杯、3杯と飲み進めていくうちに徐々に右へと距離を詰め、 軽いボディータッチも増やしていく。 〈せんせー、あーん〉 ピックに刺さったチーズを口元に運ぶと、 色っぽい口でそれを捕らえる先生。 『なんや酔うてんのか、可愛いな』

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18 ぜんぜん酔ってないんですけどね。 こんな時飲めるのって役に立つ(笑) さらに飲み進めた先生がいい感じになったところで 〈せんせ… 眠くなってきちゃったぁ〉 『おい、寝たらあかんで。襲うぞー(笑)』 思い通りのいい展開。 〈せんせーにやったら襲われてもいいよ…〉

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19 酔ったふりして攻めたこと言ってみたら 『知らんで、後悔しても…』 肩を抱かれ耳元で囁かれる。 顔色変えずに飲んでたけど、先生も酔ってるみたい。 『場所、変えよか』 先生の腕に絡まってお店を出た。 病院から徒歩圏内のお店を選んだのも、 こうなることを見越しての計算。

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20 誰かに見つかって噂になれば、それも好都合。 そのまま先生に絡まって少し歩くと、 着いたのはラブホテル。 〈先生って、案外大胆なんですね… 誰に見られてるか分からないのに〉 『それは小田さんも一緒やろ… こうなること計算してなかった？(笑)』 どこまで見抜かれてるのかな…

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21 〈バレちゃいました？(笑)〉 部屋に着いて荷物を下ろすと、私の腰を抱いて、 『あんな… ええんやけど、 俺いま彼女とかそういうのは要らんねんやんか』 割りとズルくてゲスいことを、甘くて綺麗な顔で言ってくる。 〈私もそういうの求めてませんよ(笑)〉 悔しいけどそう言うしかなかった。

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22 『そっか。じゃあ、楽しもな…』 お互いに服を脱がせながら、ベッドに倒れ込む。 酔ってる彼に激しく求められるけど、 求められてるのが体だけだと実感する。 〈はっ…せんせ… キスし…〉 『やめとこ… よう言うやん？ 好きな人とするもんやって…』 はっきり断られた。 この私が…

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23 〈そうですよね… はぁん… 気持ちいいよぉー先生〉 気持ちを隠すように激しく乱れる。 『あぁ、めっちゃいい… 締まる』 そんな私の上で激しく腰を振り続ける彼は、 残酷なのに本当に綺麗で… よく分からない感情のまま、 体を震わせて感じる私。 『いったんか、かわい…(笑)』

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24 〈先生やぁ… も… むり…です…〉 『はぁっ… もう…ちょっと、やから…』 私の脚を抱え込み、さらに動きを速める。 『ああっ 出る…』 一瞬顔をしかめて達する。 しばらく体を重ねて乱れた呼吸を整える彼に、 分かってるのに、それでも私で感じてくれた事を幸せに思ってしまう。

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25 呼吸が落ち着く頃、私の中から出ていき 抜き取ったゴムをティッシュに包みなから 『小田さんって、見かけと違ってめっちゃエロいんやな(笑) よかったで』 〈先生も凄かったですよ、本当に…〉 完全に温度差のある言葉に 『惚れたらあかんで(笑)』 軽くとどめを刺される。 なにこれ…