日向倶楽部世界旅行編最終話「それぞれの海へ」

第一部「世界旅行編」完結。 物語は次の海へと続いていく……
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三隈グループ @Mikuma_company

「大きな声は、出さないでよね…貴女を切るつもりはないけど、自分が危なくなれば流石に迷わない…」 日向の首筋に冷たいもの、伊勢の刀がひたりと当てられる。それは死神の鎌の様であった、ほんの少し動かせば鮮血を撒き散らさせ、命をあっという間に刈り取るだろう。

2019-05-21 21:51:59
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日向の心には怒りがあった、卑劣な伊勢に対する大きな怒りだ。しかし、状況が状況だけにどうする事も出来ない。今、自分は命を握られている、こればかりはどうにもならない。 「貴様…!」 彼女はただ、溢れる怒りを口元から零す事しか出来なかった。 そこへ、伊勢は言う。

2019-05-21 21:52:53
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「貴女って意外と頭に血が上りやすいっていうか、クールじゃないよねぇ…私が入って来た事に気付かない位には、感情的になれる。」 トン、トンと日向の頬を突きながら、生温かい吐息と共に、伊勢は耳元で挑発する様に囁く。開いた窓から風が吹き込み、カーテンが死神の衣の様に、伊勢の背後で揺れる。

2019-05-21 21:53:54
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風の音だけが響く医務室、その静寂の中、伊勢は静かに口を開いた。 「…まず初めに言っておくと、貴女のお友達には何もしないよ。目的は達成したからね…」 「何…?」 伊勢の言葉に、日向は怒りをも忘れて驚く。すると伊勢は、なんと刀をゆっくり日向の首から遠ざけ、鞘に収めた。

2019-05-21 21:54:53
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どういう事だ、日向は困惑する。伊勢は最上達に危害を加える事を仄めかしながら、自分と共に大会で優勝する事を強要してきた。 だから日向は戦った、不本意だが彼女と組み、必死に戦ったのだ。 にも関わらず、危害を加えるつもりはない?それは、何を意味しているのだろう。

2019-05-21 21:55:54
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「目的は達成した…と、言ったんだよ。」 伊勢は医務室のパイプ椅子に腰掛け、足を組んだ。その態度に、先程まであった敵意や殺意はない、日向は訝しむ。 「…どういう事だ?優勝しろと言っただろう、一体目的とは何なんだ?」 浮かぶ疑問を投げかける日向、伊勢の思惑がまるで分からない。

2019-05-21 21:56:53
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それを見透かした様に、伊勢はニヤついた笑みを浮かべる。 「私のお目当ては大会そのものじゃあなかったって事…なんとなく分かるんじゃない?」 伊勢は所々、不自然に手を抜く場面があった、それは日向も認識していた。 「…分からんでもない、だが、どういう事だ…」

2019-05-21 21:57:55
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その行動が何を意味したのか、やはり分からず日向は問いかける。どの道今戦っても勝ち目はない、ここは情報を引き出すのに専念する事とした。 伊勢もそれを分かっているのか、変わらずニヤついた笑みを浮かべている。気に入らなかったが、日向は堪えながら彼女の相手をする。

2019-05-21 21:58:50
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そこへ、伊勢は訊ねた。 「ねえ日向、貴女はその力…瑞雲の鼓動だっけ?それ、いつ、どうやって手に入れた?」 「…質問をしたのは私だ」 日向は手の内を隠すが、伊勢はため息混じりに答える。 「まあ、私と話したくないってんなら、それも良いんじゃない?」 それは、言外の脅迫であった。

2019-05-21 21:59:56
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主導権は向こうにあった、日向は渋い顔をしながら答える。 「…知らん。ある日偶然気が付いたのだ、それを試行錯誤して、使っている。」 瑞雲の鼓動は、本当に偶然見つかったものだ。だから使えても、その正体やルーツは日向にとってずっと謎のままだった。

2019-05-21 22:00:54
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それを聞き、伊勢はほほうと頷く。 「じゃあ、それの正体が何なのか…何もかも分からないって事だね」 「…まあ、そうなるな」 伊勢は関心を示していたが、日向の答えそのものは予想していた様な態度を見せる。 「ふーん…」 そして、また訊ねる。

2019-05-21 22:01:59
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「なら、そのルーツや正体が分かれば、もっと色々な事に使えるし、その力も大きくなる…そうは思わない?」 「…訊いてどうする?それを…」 日向は少しでも聞く方向に持っていこうとするが、伊勢はさせない。 「どう答えるかは自由だけど、今の貴女には"答えない"って選択肢、無いんだよねぇ…」

2019-05-21 22:03:02
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武器こそチラついていないが、この問答は既に尋問となっていた。日向は苦々しく思いながらも、答える。 「…それは当然だ。科学や武術と同じで、メカニズムに深い理解があれば、より大きなものになるだろう…」 彼女がそう言うと、伊勢は満足気な表情を見せる。 「うーん、そうだねぇ…」

2019-05-21 22:04:03
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そして更に、彼女は問う。 「なら、その力を強大なものとして扱えるものは、その力を"理解"してる、貴女はそう解釈する?」 「さっきから何度も何度も、何が言いたい?」 繰り返される問答に、日向は苛立ちながら訊き返す。 だが伊勢の答えは 「答えて」 低い声の恫喝だった。

2019-05-21 22:04:57
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「…そうなるんじゃないのか」 思惑通りの動きをさせられているが、さりとて今は何も出来ない。日向は従いつつも、答えは最低限のものとする。 伊勢はそこまで聞くと、足を組み直す。 「答えてくれてありがとう…お礼に、私からも質問に答えるよ。」 そう言って、彼女は話し始めた。

2019-05-21 22:06:06
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「まず私が大会に参加したのは、ある人物と戦って、調べる為。」 「ある人物…?」 日向は訊き返してから、すぐに思い立つ。 「…横須賀利根姉妹か」 「当たり。彼等は絶対に勝ち上がる…だら、彼等と戦う為には私達も勝ち上がる必要があった、そういう事だね。」

2019-05-21 22:06:53
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日向の疑問が、一つ解決する。それなら準々決勝は絶対勝たなければならないし、準決勝では負けて良かった事にも説明がつく。 だが、まだ不明な点は山ほどある。 「なら訊く、何故戦おうとした?」 そこだ、何故横須賀利根姉妹と戦う必要があったのか、今度はそこが肝なのだ。

2019-05-21 22:07:57
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「…薄々分かってるでしょ?」 伊勢が薄ら笑って言うと、日向は呟く。 「晴嵐の波紋の事か」 ここまでの話の流れ的に、伊勢の関心はそこにあると日向は踏んだ。しかし、伊勢の答えは日向の予想を少し外れる。 「その通り…。でも正確には、少し違う。」 「何…?」

2019-05-21 22:09:00
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伊勢の答えに、日向は眉を顰める。そこに、今度は伊勢から切り出す。 「…日向、貴女はさっき、力を強大なものとして扱う者は、それに対する理解がある…これを肯定したよね」 「ああ…例えば運動をするなら、自分の身体を隅々まで理解するのが理想だ。そうする事で、身体は最大限の力を発揮する。」

2019-05-21 22:10:08
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持論を交え、日向は伊勢の問いにイエスと答える。すると、伊勢はまた問う。 「なら、瑞雲の鼓動や晴嵐の波紋で大きな力を起こす者は、それに対する深い理解がある、そう言っても良いかな。」 その問い方は主語と解釈の拡大と言っても良かったが、確かにその通りとも思えた。 「…多分」

2019-05-21 22:11:00
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伊勢が何を言いたいのか分からず、日向は探る様に答える。 そんな彼女に、伊勢はもう一つ、訊いた。 「なら訊くよ、貴女と一緒にいる扶桑って艦娘は、晴嵐の波紋についてどの程度の理解があった?」 「扶桑が…?」 日向が訊ね返すと、伊勢は続ける。

2019-05-21 22:11:58
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「晴嵐の波紋を、極めて高く大きな次元で操るあの艦娘は、あの力についてどの程度話してくれた?」 今度の問いに、日向はぼそりと答える。 「…私と同程度の認識だ」 元々、扶桑との旅は瑞雲の鼓動、晴嵐の波紋について調べる為のものでもあった。だから、扶桑も深くは知らないのだ。

2019-05-21 22:13:02
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しかし伊勢は、日向の中にあるその前提を覆す様な事を言った。 「…本当に彼女が何も知らない、そう思ってる?」 「何だと…?」 日向が驚きながら目を見開くと、伊勢は真剣な表情で話す。 「彼女は、守護神扶桑は大きな力を持ってる…晴嵐の波紋の、人智を超えた力を操る。」

2019-05-21 22:13:54
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彼女は続ける。 「あれだけの力、何の理解もなく操れるはずがない。何か知っているからこそ、守護神扶桑は強大な力を、晴嵐の波紋を操る事が出来る。」 「扶桑が嘘をついてるとでも言うのか?」 食ってかかる様に日向が訊くと、伊勢は頷く。

2019-05-21 22:14:58
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「何か知っているなら、話してくれるはず、類似する貴女の力についても何か教えてくれるはずだよ。でも、貴女は何も聞いてないんでしょ?」 「それは…」 伊勢の言葉に、日向は口を噤む。扶桑は晴嵐の波紋について深く語らなかった、自分と同じ認識だと、一緒に探してくれと、そう言っていた。

2019-05-21 22:15:59