日向倶楽部世界旅行編最終話「それぞれの海へ」

第一部「世界旅行編」完結。 物語は次の海へと続いていく……
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三隈グループ @Mikuma_company

サザナミは通話を切ると、携帯を勢い良く懐に突っ込み、舌打ちした。 「…何方でしたか」 「ケッ、三隈のヤローだよ、新しい仕事だぜ」 サザナミは低く憚る声で言い、辺りを伺いながら続ける。 「これからミテラに向かう、なる早でってお達しだ」 ミテラ、その名が出ると、シラヌイは訂正する。

2019-05-21 21:25:51
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「…国連はミテラを国家とは認めていません、あそこは現在もモートルド王国です。」 「わーってるぜそんな事は、とにかくミテラに向かう」 サザナミは自分のスマートフォンを取り出し、操作しながら小声で言う。 「…三隈がわざわざ言って来ただけに、状況が拗れてるぜ」

2019-05-21 21:27:02
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彼女は続ける。 「…テロ被害の増加を受けて、TGS(Teddy Guard Service)社がミテラの国防に介入するって話が上がってるらしい。」 「ゼロと何か関係が?」 「いや、今の所は無え。ただ、TGSがミテラに付くと、旧王国派のレジスタンスは一気に追い込まれる…そいつは三隈にとっちゃ不都合だ。」

2019-05-21 21:27:53
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要するに雑用だと、サザナミは顔をしかめる。 「ここ最近のミテラは旧王国派の壊滅にお熱、これ以上戦力が増えちゃ困るってのが三隈の本音だ。TGS…もとい、GO(Grizzly Organization)社はどの道ミテラに介入するだろうが、今はそれを止めておきたい…ってトコだろうよ。」

2019-05-21 21:28:57
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彼女がそこまで言うと、シラヌイが更に訊く。 「…博士は何と?」 「任せるだってさ。高学歴の考える事は分からねえけど、データってのはいくらあっても困らねえんだろ?なら博士としても、なるたけミテラ周りの情勢が安定するのは遅らせたいだろ、多分な。」

2019-05-21 21:30:02
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サザナミはイラつきながら溜息を吐く。 「…私らはミテラで探りを入れる。動きによっちゃ面倒な事をやらなくっちゃあならねェし、面倒ごとが無くても、しばらくはあの貧乏人の国に滞在だ…マジでやってらんねェ。」 彼女はそう言うと、自身の携帯をしまった。

2019-05-21 21:31:02
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「次の船で向かう、足が付かねえ様に迂回だ。ケッ、これから美味いもんたらふく食おうってのにツイてねえ、カスが」 悪態をつきながら、サザナミは近くにあった街灯を蹴飛ばし、足早に港へ向かう。その後ろをシラヌイは無言で着いて行く。サザナミの蹴った街灯には、深く深くヒビが入っていた。

2019-05-21 21:31:50
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やがて二人が居なくなった後、蹴飛ばされた街灯はバチバチと火花を散らし、壊れてしまった。 それからすぐ、ピンクの髪をした二人組は、ブルネイの地から姿を消した。 〜〜

2019-05-21 21:33:18
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〜〜 数日後、ヒューガリアンがブルネイを発つ日が来た。 「ブルネイには随分長く居た気がするな、一年くらい居た気がするよ本当。」 「えぇ?それは言い過ぎじゃない?」 最上と初霜は、軽い調子で話しながら船へ向かう。優勝して賞金を全額取った最上だが、様子も態度もいつも通りだ。

2019-05-21 21:34:54
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「最上殿、おはようございます」 そこへ、二人より一回り多い荷物を持ったあきつ丸が合流する。 「おはよう、今朝もトレーニングしてたのかい?」 「ええまあ…走っただけでありますが。」 大会終了後も、あきつ丸は自主トレーニングを欠かしていない。

2019-05-21 21:35:50
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大会は彼女にとって悔しいものであったし、同時にとても良い経験であった。悔しさをバネに、あきつ丸は更なる躍進を目指している。 「あら、鈴谷さんは?」 すっかり鈴谷とのコンビが板につき始めていたあきつ丸に、初霜が訊ねる。今日は珍しくあきつ丸一人だった。

2019-05-21 21:36:49
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「いつも一緒という訳ではありませんよ。鈴谷は一人で何処かに行っていた事も多いであります。」 「ふーん、そうなんだ」 あきつ丸の言葉に初霜が納得した様子を見せると、隣で最上が笑う。 「初霜だって一人で何処かに行ってたりしたじゃない、一人で過ごしたい時もあるんだよ」

2019-05-21 21:37:54
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初霜しかり鈴谷しかり、いつの間にか一人でふらふらと何処かへ行き、いつの間にか帰ってくる、そんな事も多かったし、最上自身もそういう事がたまにある。 「確かに、いつも一緒ってのも疲れちゃうものね」 それもそうだと、初霜はふふっと笑った。 〜〜

2019-05-21 21:38:52
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〜〜 そうこうしてるうち、なんやかんやとあって一行はヒューガリアンへ乗り込んだ。 「皆さん、おはようございます」 「モガミン、ハッちゃん、丸ちゃん、御機嫌よう」 ブリッジでは、扶桑と三隈が出港の準備を整えていた。天気は快晴、旅立つには良い日である。

2019-05-21 21:39:50
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「二人共早いね」 最上は時計を見ながら言った。時刻は八時を少し過ぎたくらい、まだまだ欠伸が出てしまいそうな朝だった。 「私はこの船の責任者、当然の事です。それに三隈さんも手伝ってくれますから。」 扶桑がそう言って微笑むと、三隈も笑う。

2019-05-21 21:40:50
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「ふふっ、私もこの船の桿を握る者として、当然の事をしてるまでですわ。」 モニターとにらめっこしながら三隈は言うと、扶桑の方へ振り返る。 「それに…ふふっ」 彼女は悪戯っぽく、そして楽しそうに笑う。すると扶桑も小さな声で笑った。 「ふふふ…ええ、ふふっ…」

2019-05-21 21:41:53
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「な、なんでありますか二人共…」 二人でクスクスと笑うのを見て、あきつ丸は引き気味に訊ねる。だが二人は 「いえ、なんでも…ふふっ、ありませんわ」 「ええ、別に…ふふ」 それはそれは楽しそうに笑いながら、作業を続けるだけであった。その光景に、三人はそれ以上触れなかった。

2019-05-21 21:42:58
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と、ここで初霜が訊ねた。 「そういえば、日向さんは?まだ来てないの?」 「ひゅーちゃんなら、武蔵さんに挨拶しておくと言っていましたわ、もうじき来るかと。鈴谷さんの方はどちらに?」 「今朝はまだ見てないであります。出港には間に合うと言っていましたが…」

2019-05-21 21:43:58
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初霜、三隈、あきつ丸は情報の共有をする。と、噂をすれば何とやら、ブリッジのドアが開き、日向が現れた。 「あっ日向さん、おはようございます」 現れた彼女に、皆声をかける。 「…おお、皆早いな」 これに日向は、少しぼんやりとした様子で答える。なんだかいつもより、覇気がない。

2019-05-21 21:45:03
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「大丈夫です?なんだか疲れてるみたいですけど…」 最上が心配そうに訊ねると、日向は苦笑いする。 「そうか?ならきっと歳のせいだな…大会で随分体力を使ったらしい、全く参ったよ…」 彼女がそう言うと、最上はやれやれといった様子で口を開く。

2019-05-21 21:46:02
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「もう、そんな事言わないでくださいよ、貴女まだ20…」 「おいそれ以上言うな…やめろ」 最上の言葉を、日向は苦い顔で遮る。そんな二人の様子を見て、扶桑は穏やかな笑みを浮かべる。 「ふふっ、お二人は相変わらず仲が良いですね」 「そうですか?改めて言われると変な感じですねぇ」

2019-05-21 21:46:58
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まあ一つ屋根の下で何年も暮らしてた訳だしとか何とか思いながら、最上は扶桑に笑みを返す。だがその間、日向は黙りこくっていた。 「…どうしました?日向」 なんだか浮かない顔をする日向に、扶桑は心配そうに訊ねた。そこへ、日向はハッとして答える。

2019-05-21 21:48:02
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「えっ?いや、なんでもない…少し眠くてな」 彼女はそう言うと、あくびを堪える様な表情を見せる。その様子を見ると、扶桑は安心した様に、柔らかな微笑みを浮かべて言った。 「もう…あまり無理はしない様にね、私や他の皆さんも居るのですから。」

2019-05-21 21:49:01
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その言葉に、親しみのこもった笑みを浮かべる扶桑に、日向は穏やかに、しかし何処かよそよそしい笑みを返す。 「ああ……。そう、だな……」 〜〜

2019-05-21 21:49:45
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〜〜 時は、大会の準決勝終了後、日向が敗北したその日の夜にまで遡る。 あの日の夜、医務室で休む日向の元に、一人の女が現れた。音もなく、何処からともなく、扶桑が去り、一人悔しさと不甲斐なさに苛立つ日向の元に、彼女は、伊勢は現れた。

2019-05-21 21:51:06
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