日向倶楽部世界旅行編最終話「それぞれの海へ」

第一部「世界旅行編」完結。 物語は次の海へと続いていく……
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三隈グループ @Mikuma_company

だから伊勢の言葉は、邪推に過ぎないはずだ。 「彼女は知らない…たまたま、大きな力を使えるだけだ…」 日向は否定する、だが伊勢は言い聞かせる。 「仮に理解なく、偶然に大きな力を持ったとしても…それは暴走する不安定なものになるはずだよ。でもそんな事は無い、彼女は力を使いこなしてる。」

2019-05-21 22:16:57
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伊勢の表情はいつになく真剣であり、日向に語りかけていた。それでも日向が納得しないのを見て、彼女は口を開く。 「…なら、本当に知っていないと仮定するよ。その場合、彼女は無自覚のうちに強大な力を手に入れ、それを扱いこなしている、そういう事になる。」 「……」 日向は黙って聞く。

2019-05-21 22:17:52
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「…喩え話をするよ。もし今、貴女の背中に翼が生えても、貴女は飛べない。人間は生まれつき翼が生えてない生き物、本能や身体が飛び方を知らないから、後天的な翼で空は飛べないんだ。」 「何が言いたい…」 日向が神妙な顔つきで訊くと、伊勢はより真剣な目つきで言った。

2019-05-21 22:18:53
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「もし貴女の言う通り扶桑が何も知らないなら、彼女は本能であの力の使い方を知っていて、それに従い操っている事になる。」 「それが何だ?何が言いたい?お前は何を言ってるんだ!」 苛立って日向が問い詰めると、伊勢は、静かに答えた。

2019-05-21 22:19:54
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「先天的に、普通の人間が、あの力を持ち、操る…あり得ないんだよ。」 「扶桑が人間じゃないとでも言うのか!?」 「そうは言ってない。でも、後天的なものなら多くを知っていなきゃ力をあそこまで使いこなせない。そして先天的なら…人間に操れるはずがない、そういう生き物じゃないから。」

2019-05-21 22:21:01
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伊勢は、穏やかな口調で諭す様に言った。日向の中で、もやもやとした疑念が浮かぶ。 「貴様の言葉など…信じられるか…!」 それを斬り払うように日向は言ったが、伊勢は首を横に振る。 「私は何も話してないよ。ただ、貴女の認識を訊いただけ、事柄を整理しただけ。」

2019-05-21 22:22:01
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拡大解釈こそあれ、この話は日向の認識と照らし合わせた結果浮かび上がってきた事だ。日向は自身の中で生まれた疑念に、深く苛まれる。 「…なら、横須賀利根姉妹、奴らは何なのだ?」 日向が訊くと、伊勢はすんなり答える。 「それはまだ、分からない。ただ、扶桑に秘密があるのは確かだよ。」

2019-05-21 22:22:52
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彼女はそう言うと、思い悩む日向の肩に手を置く。 「日向…私を信用するってのは、まあ難しいと思うよ、これまで通り刃を向けても構わない。でも、扶桑やそれを有する横須賀には、貴女自身が気をつけた方が良い…」 穏やかに、まるで姉妹の様に伊勢は言う。その言葉を、日向は黙って聞いていた。

2019-05-21 22:23:57
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「大切なものを守りたいなら、気を許しちゃいけない。敵ってのは何処にいるか分からない…私を相手にした貴女なら、それをよく分かってるはずだよ。」 彼女はそこまで言うと、刀を持って立ち上がり、窓から医務室を去ろうとする。 「待ってくれ」 そこへ、日向は訊ねた。

2019-05-21 22:24:54
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「…お前は、私に何をさせたい?お前の目的は何だ…?」 日向が力無く言うと、伊勢は真剣な目つきで答える。 「私も知りたい…それだけだよ。…扶桑には気を付けて、彼女には大きな秘密がある。」 伊勢はそう言って、窓から夜闇に姿を消した。

2019-05-21 22:25:52
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医務室に一人残された日向は、とめどなく巡る疑念に頭を抱える。伊勢の言葉など聞く必要は無い、だがそう思えば思う程、扶桑への疑念はたった今、自分の中で生まれた事を認識する。 「私は、何を信じたら良いのだ…?」 日向はベッドの上で、力無くうなだれていた。 〜〜

2019-05-21 22:26:56
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〜〜 ヒューガリアンのブリッジ、操縦席に座る扶桑を日向は見つめる。 そこに座る彼女は、とても楽しそうな顔をしていた。浮かべているのは微笑み、初めて横須賀で出会った時、横須賀鎮守府を発った日に比べ、それはとても柔らかで、親しみのある笑みだった。

2019-05-21 22:27:58
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それを今、日向は疑っている。この前まで親しく話していた、仲間として気に入っていた笑みの裏に、何かを見てしまう。 それがたまらなく嫌だった、自分が醜く思えた。しかし今、どうにもならなかった。日向の中で生まれた扶桑への疑念は、海が満ちる様に深まっていく。

2019-05-21 22:29:31
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(扶桑…君は、何者なんだ?) そう思っていると、扶桑が彼女の視線に気付く。 「どうしました?日向…」 親しげに問いかける彼女に、日向はぎこちなく笑う。 「ああ…何でもないよ。」 「あら、そう…」 それは日向にとって、とても虚ろな会話だった。 〜〜

2019-05-21 22:30:24
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〜〜 やがて、ブリッジに鈴谷が現れた。 「いやー悪い悪い、あたしが最後か」 「何処に行ってたのでありますか?」 「えぇ?あー、ちょっと買い物をね」 あきつ丸の問いにぽりぽり頭をかき、鈴谷は苦笑いして言った。ともあれ、これで全員揃った。

2019-05-21 22:31:08
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「次は何処になるかなぁ」 最上が椅子に座って言うと、操縦席で扶桑は微笑む。 「さあ、それは賽の目次第ですね、沖に出たら振りますよ。」 彼女はサイコロと地図と、時計を改造した、久々登場のいつもの奴を取り出し、傍に置く。 そして、高らかに言った。

2019-05-21 22:32:03
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「ブルネイ泊地…とても良いところでしたね。次は何処に向かうのか、私はとても楽しみです。」 彼女は、ヒューガリアンのメインシステムを起動する。 「では、ヒューガリアン…出港です!」 エンジンが動き出し、ヒューガリアンはゆっくりと水の上を進む。

2019-05-21 22:33:02
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さよならの汽笛を鳴らしながら、ヒューガリアンはブルネイ泊地を出発した。それと同時に海鳥がバタバタと、晴れた空へ騒ぐ様に飛び立つ。 かの船が向かう次の海は、果たして何処になるのか…それぞれの思いを胸に、船は海原を征く。 日向倶楽部 〜世界旅行編〜 おしまい

2019-05-21 22:34:03
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【瑞雲の鼓動・晴嵐の波紋】 正体不明の不思議な力。前者は日向や最上、後者は扶桑や利根姉妹が操る。 エネルギーそのものを操る力であり、身を守ったり光弾として放つなどの使い方がある。 強力で使用者に恩恵を与えるが、ルーツから正体まで全てが謎に包まれている。日向達の旅の目的の一つ。

2019-05-21 22:35:14
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【豪華客船ヒューガリアン】 世界各地を回る日向達の母艦。 外観や内装は少し古い豪華客船だが、機関部等は横須賀鎮守府の最先端技術が用いられている最新型の艦娘母艦。 対深海棲艦用小型ミサイルを始めとした武装も有している他、対艦主砲や整備施設等も揃える超高性能母艦だ。

2019-05-21 22:36:14
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最大の特徴は、その驚異的とも言える操縦系統。扶桑一人で操縦出来るヒューガリアンは、彼女の巨大な偽装として機能する。 初めは扶桑がつきっきりで動かしていたが、三隈によって機能が拡張され、現在は平時に限り、自動航行システムで航海を続けている。

2019-05-21 22:37:03
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〜〜 未明、某所、一室。 「間も無く、本艦はモートルド王国へ向けて出発致します。」 黒いスーツに身を包んだ男が、畏まって言った。言った相手は若い見た目の女、濃い亜麻色の髪をして、長い髪を後ろで束ね、長い外套に身を包んだ、女だった。

2019-05-21 22:38:59
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「報告御苦労、状況は継続して伝える様に」 上品で高級そうな椅子に座り、女は堂々たる気風で言った。その姿には気品と自信が溢れていた、この場で最も上に立つのが彼女であると、はっきり分かる程だ。 そしてその女は、報告に来た男に口を開く。

2019-05-21 22:39:53
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「それと、我々がこれから会談に向かうのはミテラ平和教国…モートルドという名前の使用は彼等への無礼に当たる、控えなさい。」 彼女は静かに、だが気圧す様な気迫のある声で忠告した。その声に、男は一言も口答えせず頭を下げる。 「…申し訳ありません、承知致しました。」

2019-05-21 22:41:19
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それを見て、女は淡々と、冷たい視線を向けながら言う。 「以後気を付けなさい。」 それだけ言うと、彼女は傍にいた黒人の男に促す。するとその黒人の男は、男に下がる様に指示した。 すると男は無言で頭を下げ、部屋を速やかに出て行った。

2019-05-21 22:42:35
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