ぱすイカ二次創作⑫

ぱすかる❄ @pascal_syan

シローはエースケと共に下の階に降りた。階段のすぐそばにリビングがあるのだが、その戸口にアカネが立っていた。こっち、こっち、と手招きしてくる。リビングに入ると、そこには、 「はじめましてえ」 知らないお姉さんがいた……。

ぱすかる❄ @pascal_syan

気だるげな瞳。気だるげな声。気だるげな格好…… 生きるのがめんどくさい、とでも言いたそうな負のオーラを、バシバシと感じる女性だ。 「ど、……どちら様？」 シローは恐る恐る姉に尋ねた。 「キサラギさん、て人だ。うちのチームに入ってくれるとよ！ほら、ご挨拶しな！」

ぱすかる❄ @pascal_syan

えっ？この人が？新しいチームメンバー？ねーちゃんは、暗くてウジウジしたヤツが嫌いだったはず。なんでこんな人を……？ 疑問に思いながらも、一応、頭を下げる。 「は、はじめまして。シローって言います。アカネねーちゃんの、弟です」 「自分は、シローの友達の、エースケっす。よろしくっす」

ぱすかる❄ @pascal_syan

「よろしく～。持ちブキはスプチャだよ～」 このお姉さん、チャージャーなのか。 「この人、親切でさ。あたいが声かけたら、二つ返事で来てくれたんだよ」 「えっ……！？」 見た目に反してノリが軽すぎないか？チームに加入するとき、厳正な審査と会議がつきものだ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

こちら側はもちろん、相手にとってもメリットがあるかどうか、双方ともによく吟味してから決めるもの。 二つ返事でなんて、かなり無謀だ。 「『匂い』が……したんだよね」 突然、キサラギが話し出した。 「匂い……？」 姉弟ともに、怪訝そうな表情になる。

ぱすかる❄ @pascal_syan

匂い。その部分を、とくに強調していた。匂いって？匂いってなんだ。何か、うちのチームに感じるものがあるのだろうか。内に秘められた才能とか……！？ 「だからさあ、ついてきたのよ。そしたら……ドンピシャだったね……」 ほんとにそういうやつなのか！？

ぱすかる❄ @pascal_syan

「私ねぇ、」 さあ、その言葉の先には何があるんだ？姉弟は唾を飲み込んだ。緊張が、走る。 「……カステラ、めちゃ好きでさ」 「はっ……？」 アカネは思わず聞き返してしまった。 「カステラの、いい匂いが、この子からしてさぁ。つい、返事しちゃった……チーム入れて、って」

ぱすかる❄ @pascal_syan

「そ……それが理由かい？」 「そうそう。しかもここ、知らないお店だよ……スクエア中のカステラ、食べ尽くしたつもりだったのに……」 まあそりゃ、小さな店だし、気づかなくても仕方ないよなあ。 「チーム入れたし、穴場見つけたし、今日の私……ツイてるかもね」

ぱすかる❄ @pascal_syan

「あ、あっはははははは！」 アカネは豪快に笑った。 「なんだい、カステラ好きなのか！そんなに食べたきゃ出してやるよ！」 「ありがたい……おいくら？」 「いいよいいよ金なんて。特別サービスだッ！あたいの奢りだよ！」 「まじすか……？神では……？」 アカネは厨房のほうへ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

厨房のほうから、姉と母の会話が聞こえる。いっぱい食べさせておやり、とか、いろいろ。 「シロー！飲み物用意して！四人分！」 「はーい！」 台所へ行く。うちでは、カステラのお供に緑茶を推奨している。今は夏だから、冷たい緑茶を用意した。お客さん用のいい茶器を出す。

ぱすかる❄ @pascal_syan

リビングのテーブルに、緑茶とカステラが並んだ。 「おお……！」 キサラギの目が、一気に生気を帯びはじめた。あっ、これ、マジでカステラが好きなやつだ。 「そ、それじゃ、いただきます」 「おかわりもあるよ。いっぱい食べな！」 「ありがたや……！」 仏にでも拝むようだ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

みんなでカステラを突っつく。アカネとシローにとっては、親の顔と同じくらい見たものだから、いつもの味。エースケもよく食べるので、やっぱりいつもの味。 だが、キサラギにとってははじめての味だ。感想が気になるところ。 「素朴……」 まず、口に出した言葉がこれ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「……純粋。気取らない、ありのままの……優しさと、力強さ……」 意外にも、ガチめの食レポだ。 「背伸びしすぎない、ほどよい、成長過程……これは……来る、時代が来るよ……」 「じ、時代……？」 「いい仕事だ……。推せる、これは推せる……推していかねば廃れる……！」

ぱすかる❄ @pascal_syan

キサラギは、決意をしたように、勢いよく立ち上がった。 「改めて言わせてもらうけど、やっぱり、このチーム入るわ……！」 この人、完全にカステラで釣られてるよ！ 「サイキョー杯で優勝して、このお店を売り出したい……！だめかな……？」 「だめなわけあるか！」 アカネも負けじと立ち上がる。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「あたいたちも、それが目的でね。この店をもっと大きく、もっと有名にしてやりたいんだッ！父さんと母さんに、親孝行したくってさ……！」 最後のほうは、ちょっと照れ臭そうに叫んだ。 「いい、娘さんだ……」 キサラギさん、なんか泣きそうになってません？

ぱすかる❄ @pascal_syan

「私、そんなにウデマエないけど……できること、精一杯やるよ。このカステラに誓って……！」 カステラのせいで迫力が落ちてる気がするが……店にとっても、チームにとっても、これほどいい人材はない。ねーちゃん、いい拾い物したかもなあ。 そう。 本当に、いい拾い物だったのだ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

カステラを堪能したあと、試しにチームみんなでナワバリバトルをしてみたのだが…… このキサラギって人、はちゃめちゃに強いのだ！ 止まっているものはもちろん、動いているもの、飛んでるものも、正確に撃ち抜いていく。 しかも、狙いをつけるのが速い。

ぱすかる❄ @pascal_syan

ウデマエがない、だって？あんなの詐欺だ。めちゃくちゃあるじゃないか！他のメンバーが苦戦している相手を、いとも簡単に仕留めてしまうのだから。 「イカってさあ、」 ある日の試合終了後、彼女はこう語っていた。 「動きは複雑だけど、見えてりゃ当たるもんなんだねえ……」

ぱすかる❄ @pascal_syan

「いや、見えてても当てられない人のほうが多いと思うけど……？」 シローもそうだ。相手が見えていても、照準が合ってなくて、仕留め損ねることが多い。 「ま、やっぱ数だね。大丈夫、練習すればうまくなるよ」 「キサ姐は、どこでそのウデマエを鍛えたんだい？」 アカネが問いかける。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「あたいたちより、ナワバリのランクが低いじゃないか。他のとこで修行したのかい？」 「ん、そだね。私、いつも違うとこで働いててさ……」 あっ、と。何かを思いついたように、キサラギが声をあげた。 「そうだ。みんなも……修行、してみる……？」

ぱすかる❄ @pascal_syan

「いいよ。あたいたち、キサ姐ばっかに頼ってらんねーからな。もっともっと強くなりたい！」 「お、俺も！」 「自分も……！」 「いい目だ……少年少女たち」 キサラギはにやりと笑った。 「ちょっとキツいけど、いける？」 「いける？じゃないね」 アカネもにやりと笑った。 「やるのさ！」

ぱすかる❄ @pascal_syan

「オッケー……じゃ、ついてきて」 キサラギに連れられて、三人の若者は、新たな強さを手に入れるための戦場へ行くのであった……！ そう、その、戦場の名は。 泣く子も黙る、あの地獄。 『サーモンラン』！

ぱすかる❄ @pascal_syan

次々と襲いかかるシャケたちの群れに、追われ、殺され、揉まれ、押し潰され、海へ落とされ…… 駆け出しから一人前へ、一人前から熟練へ、熟練から達人へ、少しずつ進歩していった。 地獄のようなトレーニングの末、アカネたちに隠された才能が開花した……かも、しれない？

ぱすかる❄ @pascal_syan

いや、なにかが花開いたのは確かだ。アカネの雷神ステップはキレが増したし、エースケの潜伏もより上手くなった。シローは赤ザップが向いてないことを悟って、後方支援ができるオフロに持ち替えた。

ぱすかる❄ @pascal_syan

逆に、キサラギはナワバリバトルでウデマエを上げた。一直線にこちらに向かってくるシャケとは違い、イカは逃げたりかわしたりする。複雑な動きに対応できるように、戦いの中で学習していった。結論としては、シャケもイカもどっこいどっこいだそうだが……