ぱすイカ二次創作⑫

ぱすかる❄ @pascal_syan

シグルイに、敗北などあり得ない。 こんな言葉が囁かれるようになったのは、いつからだろうか。そんな疑問が出てくるほどに、シグルイの名は長きに渡って語り継がれてきた。 生まれついての天才。向かうもの全てを叩き潰し、屈服させ……全てのナワバリバトルプレイヤーを統べる王者。

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そんな王者を倒すために、自分こそが最強だと名乗るために、腕を磨く若者は多い。 王者はみんなの憧れであり、畏怖の対象である。 そんな彼が率いる三人の仲間たちもまた、強者である。王者が選んだのだから、当然のことだ。 まずは、彼の右腕・オクトー。 主君や仲間を守るシェルター使い。

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次はヨーコ。近年名を上げてきたマニューバー使い。 そして……サキ。これは、全くの謎。目立った功績はなく、見た目もそれほど強そうには見えない…… シグルイを倒すためには、まず、彼の忠実なしもべたちを打ち倒さなければならない。それも、至難の業だ。

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ここに、果敢にも王者に挑まんとする、勇気ある若者たちがいた。 そのチーム名は、「カマトット」。この物語は、チーム・カマトットが、後に最強となる物語…… だと、いいんだけどなあ。 ぼんやりとパソコンの画面を眺める。 今日の試合のリプレイ映像だ。

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王者シグルイの、華麗なる「虐殺」。姉弟もろともやられてしまった、あの一瞬を、何度も見直す。 やっぱすげえかっこいいなあ～。 カマトットのリーダーの弟、シロー。かっこいいものが大好きな、16歳の男の子だ。

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下の階から、カステラの甘い香りが漂ってくる。普通の人なら、これだけでお腹がぺこぺこになってしまうだろう。けれど、彼にとってこの香りは日常だ。 だって、うち、カステラ屋だし。 「かすてらの かまとと」 なんとなんと、聞いてほしい。この店は歴史ある……

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一代目です。 名門もクソもない、出来たばかりの店だ。父さんが脱サラして始めた。売れ行きは……まあ、節約すれば、食べていくのには困らない程度。 要するに、パッとしないお店ってことだ。常連さんも少ししかついてないしなあ。

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「シロー！」 母さんの声だ。 「エースケくんが来てるわよぉ！」 「部屋入れていいよぉー」 「なんだってえええ！聞こえないよーーー！！」 「部屋ぁ！入れてぇ！いいよぉ！」 「わかったー！！」 基本的に、うちの家族は声が大きい。ご近所迷惑になってないか心配だ。

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「よっすー」 しばらくして、シローの友人・エースケが部屋にやって来た。携帯ゲーム機を片手に、よくこうやって遊びに来るのだ。 「シロー、またそれ見てんのか？」 パソコンの画面をちらと見て、問いかける。 「それ、俺めちゃ情けないやつじゃん……」 「全員情けないからセーフだろ？」

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そう、あの試合は、全員が情けなかった。情けなく、蹂躙されてしまった。あの日の反省会は荒れたなあ…… 「モロミちゃん、やっぱ抜けたんだって？姉御から聞いたよ」 「あー、うん。ま、しゃーないよ。敵前逃亡しちゃったしなあ」 モロミちゃんというのは、あのとき現場にいたシャープマーカーの子。

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『もう、やだ。あんなの敵いっこないよ……！』 モロミちゃんはそう言い残して、去っていった。チームは今、一人欠けた状態だ。このままでは、サイキョー杯に参加できない。新しいメンバーは、シローの姉こと、リーダー・アカネが探しているそうだが……？

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モロミちゃんの言い訳は、わかる。確かにあれは「怖い」。相手の攻撃をいとも簡単にかわし、一方的に弱者を叩きのめす。そこに優しさも容赦もない。まさに蹂躙。恐怖でしかない。 だが、シローは、その蹂躙を……なんとなく楽しみにしている節があるのだ。

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これは周りに言っていないことなのだが、シローは熱烈なシグルイファンだ。幼い頃からずーっと彼のことを見てきた、マジのファンである。 シローが試合のとき、「あんなの無理だよ～」などと弱音を吐いていたのは、実は弱音じゃない。 ……ファンとして、やっぱり、彼とは戦いたくないのである。

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彼が負けるところを見たくない。ましてや、自分の手で引き起こすことなんて……もっと嫌だ。 戦え、戦え、と、みんなは……特に彼の姉は言う。戦いたいのは山々なのだけど。 そんなシローの悩みは、他の誰にも分からない。友人のエースケはもちろん、実の姉にさえ……

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チーム・カマトットが戦う理由。それは……非常にカッコ悪くて申し訳ないが、「売名」だ。 実家の冴えないカステラ屋を、世に知らしめるため。それだけだ。 それだけなのに、姉はあんなにも燃えている。口は悪いけど、親孝行したがる、優しい姉なのだ。

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実家のカステラ屋のために集うのは、彼女の弟と、その友人と、その友人と同じ部活の女の子……だったけど、女の子は辞めました。 どうだ。正直、ものすご～っくパッとしないチームだろう。 庶民の中の庶民。雑魚の中の雑魚。それがチーム・カマトット。吐いて捨てるほどどこにでもいそうなやつだ。

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「……サインもらっときゃよかったかな」 エースケがゲーム機をいじりながら、ぽつりと呟いた。 「はっ？誰の？」 「シグルイのだよ。だって、せっかく会えたじゃんか。でも、ビビって声かけられなかったわー」 「わかるわかる。超怖ぇよなあ～」

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何を言ってんだお前死にたいのか？主に俺がぶちのめすぞコラッ！あのシグルイさんだぞ！あのシグルイさんに気安く「サインください♥️」なんて言えるかドアホ！言えるわけない！言ったら殺されるよ！知ってるか？あの人めちゃくちゃにマッチョなんだぞ！？なぜかほとんどの人は知らないけどさ！

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シローは「大昔」のシグルイの試合の映像を、大金をはたいてすべて入手している。彼の筋肉がなぜ発達しているのか、という理由も知ってるし、近年姿を現し始めたオクトーに「誰よその男は！！！！！？？？？」と嫉妬したことだってある。今はオクトーもまとめて大好きになりましたが。

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友人の何気ない一言に、当たり障りなく答えたが……その腹の内は計り知れない。 「姉御、マジで優勝とりにいきたいみたいだけどさあ……正直、無理じゃね？」 「……だよなあ。」 その言葉には、大いに同意する。だって、勝てるわけないじゃん。

ぱすかる❄ @pascal_syan

予選突破すら難しいウデマエなのに、どうやって優勝するつもりなのだろう。ねーちゃんは強いが、飛び抜けて強いわけじゃない。雷神ステップができるけど、上級者ならみんなできるしなあ。

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エースケは潜伏がめちゃくちゃ得意だ。隙と油断を的確に突くのがうまい。だが、手練れには存在を悟られてしまうし、返り討ちにあってしまう。 シロー自身は、……とくに、何ができるとか、そういうのはない。塗りは姉の方が優秀だし、キルはエースケのほうが上手だし。

ぱすかる❄ @pascal_syan

赤ザップは、キルも塗りもこなせる万能なブキだ。しかし、シローのような器用貧乏が持てば……あとは、察してほしい。 うちのチームには、明確な強みというものがない。 せめて新メンバーが、めちゃ強い人でありますように……と、願うしかないのだ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

でも、そうそう見つからないだろう。こんな雑魚チームに入ろうと思う、優しくて強い人なんて…… 「帰ったよォ！！！」 下の階から、母さんよりも大きな声が聞こえる。 「げ。ねーちゃん帰ってきたのかよ……」 シロー流の『おかえりなさい』だ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「シロー！！エースケも来てんだろ！？降りてこい！！」 「えー……」 「降りてこいっっっつっっってんだよ！！！聞こえねーーーのか！？」 「聞こえてるっつの！叫ぶなって！」 そういうシローも叫んでるじゃん、と、エースケは心のなかで突っ込んだ。