ぱすイカ二次創作⑮

たぶんみじかいのね 書いたもの https://t.co/lk71qxBACg
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ぱすかる❄ @pascal_syan

「これからは、試合でモヤったらみんなでバイトするの、ありじゃないですかね?」 「俺もそう思っていたところだ」 イカどもの会話に、怯えるタコたち。 「シフトとスケジュールがうまく噛み合うかどうかは、運次第ですけど」 頼む、神よ、どうかいい試合を恵んでくださいませ!

2019-09-19 17:08:54
ぱすかる❄ @pascal_syan

クマサン商会を出た頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。スクエアの中心部の喧騒が、夜を彩る。だが、今夜は……少し、不穏な騒ぎかたをしていた。 「何かあったのか……?」 誰よりも早く、その気配を察知するシグルイ。

2019-09-19 17:13:50
ぱすかる❄ @pascal_syan

「オクトー」 「いかがされましたか?」 「何か、目立ったニュースはないか?すぐに調べろ」 「かしこまりました」 タブレット端末を起動し、検索する。 「……なんですって……」 「うん?オクトーくんどうしたの?」 背後から女子二人が、暢気に問いかける。

2019-09-19 17:19:42
ぱすかる❄ @pascal_syan

「……フシチョー・ウィングスが敗退した、と……」 一同に衝撃が走る。 「えっ、だ、誰と当たったの!?」 「チーム・サキモリです」 「す、スゴい、組み合わせなのね……!」 「初日から、強豪同士がぶつかる、か……」 シグルイの表情は、険しい。 偶然にしては、出来すぎている。

2019-09-19 17:24:51
ぱすかる❄ @pascal_syan

フシチョー・ウィングスの初戦敗退。チーム・サキモリとしては上々すぎる滑り出しだ。ライバルが一つ減ったのだから。 それを怪しむ者は、少なくない。けれど、疑惑の証拠はどこにもない。声はあげられず、不信を募らせるしかなかった。 ハイカラスクエアの某所。 疑惑の少女は……

2019-09-19 18:00:44
ぱすかる❄ @pascal_syan

「今日の結果は、聞いているよ」 暗い部屋。窓から差し込む夜景の光が、二人の顔を照らす。 初老の男性と少女が、ソファに向かい合って座る。 「良い結果だ。父さんは、誇らしいよ」 「……ありがとうございます。お父様」 少女は、座ったまま礼をする。

2019-09-19 18:05:22
ぱすかる❄ @pascal_syan

「けれど、これは当然の結果でもある。浮かれることは、許さない。分かっているね?」 「はい」 少女は、頭を上げる。 「まだ、始まったばかりです。ここからが本番……」 「発言を許可していないよ」 少女の顔が歪む。唇を噛むようにして、言葉を慎んだ。

2019-09-19 18:07:21
ぱすかる❄ @pascal_syan

「まだ、敵は多い。負けは、許されないよ。分かっているね?」 少女は返事をしようとして……躊躇った。発言は許可されていない。かれど、返事をしなければ。どうしたら。 「返事は?」 声色に、威圧が混ざる。 「……はい」 少女は恐怖心から、声を発した。

2019-09-19 18:10:09
ぱすかる❄ @pascal_syan

ぱんっ、と、乾いた音が、部屋に響いた。 「っ……!」 少女の頬に、ひりつくような痛みが走る。 「発言は許可していないと言ったのを、忘れたのかな?」 「…………」 少女の目の端に、涙が浮かび上がろうとする。だが、泣いてはいけない。泣いたら、もっと、酷い目に。

2019-09-19 18:13:34
ぱすかる❄ @pascal_syan

「まあ、いいや。今日は、いい結果だったのだから」 少女は安堵する。だが、それは表に出さない。出したら、また、逆戻りになりかねない。 「お前に、プレゼントがあるんだ」 プレゼント。 その言葉に、反応する。 「でも、まだ製作中でね。ご褒美としてあげようと思っているんだ。」

2019-09-19 18:16:03
ぱすかる❄ @pascal_syan

少女の心のなかは、複雑であった。嬉しいが、父親がプレゼントという単語を出すときは、決まって…… 「あと、5勝しなさい。そうしたら、プレゼントをあげよう。楽しみに待っていなさい」 少女は、静かに頷いた。 「さあ、疲れたろう?もうおやすみ。ゆっくり眠るんだよ」

2019-09-19 18:17:56
ぱすかる❄ @pascal_syan

少女は再度頷き、一礼してから、部屋を立ち去った。 ドアを閉めて、少し廊下を歩いてから……ほっと、息をつく。叩かれた頬に触れる。まだ、じんじんと痛むし、熱がある。 「また叩かれたんですか?」 「!」 背後からの声に、少女は動揺した。

2019-09-19 18:19:39
ぱすかる❄ @pascal_syan

「クライス、あなた、どうして……」 はっと気づき、動揺を隠すように、表情を消した。 「……ここには来るなと言ったはずよ」 「そうでしたっけぇ?」 お喋りな従者は、すっとぼけた。 「物覚えが悪くってね。忘れちゃってましたよ。ほら、俺、結構いいトシしてますから」

2019-09-19 18:21:52
ぱすかる❄ @pascal_syan

「まだそんな歳ではないでしょう。……ふざけないで。早く失せなさい」 「まあまあ」 アヤメの頬に、冷たいものが触れた。 どこにでもあるような、缶ジュース。だが、この近辺に、自動販売機など存在しない。いったいどこから? 「……私は飲まないわ。こんなもの」

2019-09-19 18:25:00
ぱすかる❄ @pascal_syan

「じゃ、保冷剤として使ってくださいよ。温くなったら捨てて構いませんから」 従者は、少女の手に無理やりジュースを握らせた。 「お嬢様に命令されちゃったので、俺は大人しく帰らせてもらいますよ」 従者はふらふらと手を振りながら、どこともなく立ち去っていった。

2019-09-19 18:28:09
ぱすかる❄ @pascal_syan

少女は、その場に立ち尽くした。冷えたジュースを持ったまま。 世界一、大好きなお父様。 世界一、恐ろしいお父様。 お父様が、叶えられなかった夢。 叶えられるのは、世界でただひとりだけ。 お父様の一人娘の、私だけ。 お父様のために。 ……お父様が、こわい。 齢15の少女の、囚われた人生。

2019-09-19 18:32:14
ぱすかる❄ @pascal_syan

「可哀想な子だよ」 その従者は、ビルの外ではなく……屋上から夜景を見下ろしながら、ひとり、呟いた。 「でも、ま、手を汚しまくってるからねえ。今さら救おうにも遅すぎるが……」 夜景に背を向けて、フェンスにもたれかかる。 「堕ちるとこまで堕ちたら、それはそれで、天国なのかもしれないな?」

2019-09-19 18:35:12
ぱすかる❄ @pascal_syan

彼もまた、少女の父親に逆らえない立場だ。魅力的なプレゼントを、ちらつかされてしまっているのだから。 齢、35。 そろそろ、限界の時が近い。戦いの寿命が尽きようとしている。 けれど、その寿命を伸ばす方法があるとしたら? 恐ろしい提案が、男の好奇心を掻き立てた。

2019-09-19 18:44:37
ぱすかる❄ @pascal_syan

今まで、誰かに与することなく、自由にさすらってきた。そんな彼が一つのチームに長く身を置くのは、とても珍しいことだった。 禁忌。彼が最も好きな言葉。 禁忌というものは、時として破滅を、時として進化を与えてきた。 彼にとっては、賭け。禁忌が花開くとき、もたらされるものは……どちらか。

2019-09-19 18:47:12
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