エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~3世代目・中編~

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帽子男 @alkali_acid

少年はやがて眼を覚ましたが、放心したままだった。 一応食べ物をやれば口にするし、手をとれば歩く。 だが心はここにあらずといった風情。 黒犬はしつこくつきまとい、尖り耳にしか聞こえない言葉で話し続けた。 「ラヴェイン。ほら!ごらんよお星さまだ!あ、風が椰子の枝を揺らしてる。いい音!」

2019-09-28 21:43:34
帽子男 @alkali_acid

隼と鶚にも手のつけようがない。 「どうしたもんかな…」 「解らない…まるで、噂に聞く、黄金王にまどわしの海域へ送られた罪人のようだ…西方人の癒し手なら…」 「さもなきゃエルフか」 「私達が海賊でなければ…」

2019-09-28 21:46:12
帽子男 @alkali_acid

だが癒し手はすでにいた。 黒の癒し手。 どんなエルフより、人間の魔法使いより優れた医術の匠が。 「ラヴェイン。お聞き…僕を見て。大丈夫。君は大丈夫だ。君の中には…エルフの中のエルフ、仙女様、ダリューテさんの血が流れている」

2019-09-28 21:47:49
帽子男 @alkali_acid

「それに偉大な牙の部族の戦士、ガンドバスガブルの息子バンダゲムゾブドの血も…さあ君の琵琶ナクハイアルと横笛ミルドガードだ…触ってごらん」 二つの楽器は無事だった。エルフの騎士の墓から生えた樹を、影の国最高の魔法と緑の森最高の魔法使いが作り替えた品は。光の諸王の攻撃にも耐えた。

2019-09-28 21:50:13
帽子男 @alkali_acid

「ラヴェイン。お願いだ。返事をしてくれ。僕のラヴェイン。大切な大切なラヴェイン…」 少年の指がのろのろと大蜘蛛の糸で撚った弦に触れる。ひずんだ音が響いた。 「…ケノホシ…」 「ラヴェイン!」 「うるさいんだけど」

2019-09-28 21:51:50
帽子男 @alkali_acid

犬まじうるさい。 琵琶弾きは回復した。少しずつ。 着実に。そうして隼と鶚に微笑んだ。 「会えたんだ」 「お前のおかげだ。黒の歌い手」 「私達がどれほど感謝しているか、言葉でも…歌でもあらわせない」

2019-09-28 21:53:49
帽子男 @alkali_acid

少年は顔をゆがめ、泣き出した。 「あたい…は…あたいは…ファラゾエアを…黄金艦隊のみんなを…死なせた…」 「何があった」 「やめろ甥。ラヴェインに思い出させるな」

2019-09-28 21:54:56
帽子男 @alkali_acid

だがラヴェインは病床を離れ、外へ出て、海賊の街へ降り、すべてを見聞きした。 西の島に何が起きたのかを。 大人も子供も、西方人も南方人も、ドワーフもエルフも暗い波に呑まれ絶望のうちに死んでいったのを。

2019-09-28 21:56:29
帽子男 @alkali_acid

津波の被害は西の島だけにとどまらず大陸の沿岸を傷つけ、多くの村に悲惨な苦しみをもたらした。 「あたいが…あたいの歌がやったの…?」 「そうじゃないラヴェイン。そうじゃないよ」 黒犬はあわててなだめたが、しかし少年は首を振った。 「あたいがやった…あたいの歌が…」

2019-09-28 21:57:42
帽子男 @alkali_acid

災いを呼ぶ吟遊詩人。 西の島に滅びをもたらした。 だが少年は再び琵琶と横笛をとった。傷んだ弦を取り換え、目に見えない傷を修繕し、声変わりを始めた喉で歌う。 西の島に何があったのか。黄金王と艦隊に何が起きたのか。 すべての原因を解りやすい言葉に載せて。

2019-09-28 21:59:33
帽子男 @alkali_acid

もちろんそれだけではなかった。 ラヴェインは深手を負った村々を回り、受け入れられた際だけ死者への悲しみを、在りし日の喜びを物語った。多くの嘆きと怒りを聞き、飛んでくる石があれば避けずに受け、そっと背を向けた。 「…ラヴェイン。どうしたのさ」 「あたい…解らない」

2019-09-28 22:01:19
帽子男 @alkali_acid

「ファラちゃんは…黄金王は間違ってたのかな。だから皆死んだの?」 「それは…ファラゾエアは傲慢だった。思いあがってはいた。人間の身で世界を守護する精霊に対等になろうとして」 「でも…じゃあ白銀后は…島の皆はどうして…反対した人もいた…ねえ…光の諸王って…何なの…」

2019-09-28 22:03:09
帽子男 @alkali_acid

「力ある精霊だ」 「あたい…解らない…納得…納得できない…島の生き残りや…海辺の人と会って話を聞いて…そうしたら解ると思ってた…あたいがやったことの意味…でも…どうしても解らない!こんなことをする光の諸王が正しかったって思えない!!」

2019-09-28 22:04:56
帽子男 @alkali_acid

「…光の諸王は…正しくなんてないかもしれない」 黒犬はぽつりと答える。 「…だけど西の果ての地には争いや苦しみはないって」 「それは西の果ての地に憧れ、光の諸王を崇め、疑いを持たないエルフだけを受け入れるからかもしれない」 「アケノホシ…そんな風に言うの初めてだね」

2019-09-28 22:07:00
帽子男 @alkali_acid

「僕は…君に西の果ての地で幸せになってほしかった…でも…うまくいかなかった…ごめんよ」 「いいんだ。あたい決めたよアケノホシ。あたいは…光の諸王に復讐する」 「えっ」 「黄金王とは違うやり方で」

2019-09-28 22:08:30
帽子男 @alkali_acid

少年はまっすぐに背を伸ばして四つ足の連れに宣言する。 「あたいね。東へ行く。影の国へ行って、仙女様を助け出す。それからあそこを、西の果てよりずっとずっと盛 り 上 が るところにする」 「だめだよ!影の国は争いと苦しみばかりで」 「あたいが変える!」

2019-09-28 22:10:13
帽子男 @alkali_acid

「皆が西の果てなんかどうでもよくなるように。影の国が一番だって思えるように。あたいの歌と演奏で、仙女様、ダリューテだって、ほかのエルフだって 、海なんか渡りたくなくなるぐらい!影の国を盛り上げる!それが、あたいの復讐!」

2019-09-28 22:11:33
帽子男 @alkali_acid

黒犬はうなだれた。 「…だめだ…だめだよ…」 「あたい、決めたんだ」 「…ラヴェイン…」 ようやくと、小さな楽士は影の国への道をたどり始める。 血のつながった男を呪歌で殺す結末へ。

2019-09-28 22:13:11
帽子男 @alkali_acid

実の父、黒の乗り手にして死人占い師ナシールの命を奪う終わりへと。

2019-09-28 22:14:01

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まとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~3世代目・後編~ シリーズ全体の目次はこちら https://togetter.com/li/1479531 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。 21139 pv 34 2 users

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まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21844 pv 167 2 users
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