エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~5世代目・前編~

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帽子男 @alkali_acid

仙女から干した花を土産にもらって帰る。 父は息子を肩車しながら尋ねる。 「そなたはダリューテと仲が良いな」 「あのひと、えーにおいがするから好きや。せやけど、おとーはんのにおいの方が好き」 「予はよいにおいなどせぬ」 「えー男のにおいがする」

2019-10-07 21:49:25
帽子男 @alkali_acid

「そうなのか…?」 マーリは不思議そうに応じると、オズロウはにかーっと笑った。

2019-10-07 21:51:16
帽子男 @alkali_acid

黒の鍛え手がとまどうのも無理はない。 盲目の少年は先祖とは異なるところがあったが、次第に明らかになっていく。 例えば、影の国に出入りする狂ったドワーフ七人組とのつきあいだ。誰が呼んだか七大悪人というのだが、そのうち城砦壊し、屍金接ぎ、鉱毒練り、影地歩きの四人とはよく親しんだ。

2019-10-07 21:54:18
帽子男 @alkali_acid

だが骨磁焼き、贋宝作り、責具拵えには愛想良く接してもそこまでなつかなかった。 「ワテ、えー男のにおいが好きや」 という理由だ。

2019-10-07 21:55:36
帽子男 @alkali_acid

ちなみに七大悪人のうち城砦壊しは、さほど影の国には居つかなかった。 戦を好み、しばしば西方諸国の軍師として参陣し、影の国を攻める側に回った。 「くそ!マーリ!また城砦を改修したな!あと少しで外壁を破れたものを」 「そなた…またあちらの軍に身を投じていたのか」 「おうよ!」

2019-10-07 21:58:39
帽子男 @alkali_acid

「そなたを信じ征途についた王や率いられる兵が憐れではないか」 「俺はいつも全力を挙げる!お前の城砦を破るのが目標なのだ」 「そうか…捕虜としてゆっくりしていけ…誰も請け出すものがなければ三月で放つ故」 「よし!ところで今度仕入れた南朝の三重壁の図面だが」 「どれ。華美に過ぎぬか?」

2019-10-07 22:01:58
帽子男 @alkali_acid

屍金接ぎは各地の墓を暴いて回るのに忙しかったが、しかし影の国にはよく訪れた。 先ぶれは塚人だ。遠い昔に斃れ、なお霊魂をとどめる古のもののふは、うめきながら工房へ入ってくる。 「黒の鍛え手よ…死人占い師を継ぐものよ…あのドワーフを我より遠ざけよ」 「また何かあったか」

2019-10-07 22:05:40
帽子男 @alkali_acid

「死せる王に新たなる贈り物をしようと思っただけだ。この回転錐を腕にはめれば。いかなる巨岩も抉り取れる」 「…塚人は困っているように思うが…それに心を残すむくろは、屍金接ぎの美学に合わぬのではなかったか」 「無論そうだ。だが…ともかく屍に金具が接ぎたいのだ。動く屍とあらばなおだ」

2019-10-07 22:08:48
帽子男 @alkali_acid

塚人はいまいましげに身を引きつつ告げた。 「黒の鍛え手よ…予言しておく。お前の最期は悔いに満ちたものとなる。ひとたびは御した滅びの亀裂が、再びお前に選ぶべき道を迫るが、お前は守ろうとするものを守れぬだろう」 「予は…ただ職人として工夫するのみだ」 指輪作りはそう返事をする。

2019-10-07 22:12:53
帽子男 @alkali_acid

屍金作りが割って入る。 「僕にも予言をくれ。塚人!美学には反するが、ともかく死者の宣告は聞きたい」 「お前達、七人の小人は…地の上と下に混沌と狂乱をばらまき…」 「うんうん」 「皆…何一つ悔いず長寿をまっとうする…苦しみと悲しみを負うのは血縁と知己であろう」 「なるほどなあ!」

2019-10-07 22:15:16
帽子男 @alkali_acid

青ざめた王はうめきながら消えていった。 「塚人は何か機嫌が悪いのか?」 狂った小人と魔人は話し合う。 「解らぬ…予は祖父のナシールではない。死人占いに長ける訳ではない…」 「そもそもナシールとやらはとっくに亡者の軍勢を解き放ったのではないのか」

2019-10-07 22:18:42
帽子男 @alkali_acid

「だが一部は望んで残っているのだ…何かを待っていると言った」 「何を?」 「解らぬ…復活と…受肉…だが予は職人に過ぎぬ」 「精霊の魔法を知る職人だ」 「…それでも解らぬことはあまりに多い」

2019-10-07 22:20:10
帽子男 @alkali_acid

鉱毒練りは新たな実験に忙しかった。 「マーリ。影の国の宮殿にかけてある虫よけの呪文をすこし弱めてくれ」 「なぜだ」 「せっかく魔狼につく蚤をことごとく殺す毒を作ったのに試せんのだ」 「だが虫よけ、黴よけ、埃よけ、病よけなどは妖精の魔法の基本だ。住処を清らかに保つのは…」

2019-10-07 22:24:24
帽子男 @alkali_acid

「解っている。繊細な毒の調合や鍛冶にも清らかさは好ましい。だがいつまでも魔法に頼っていていいのか?俺の毒は誰にでも作れ、小さな命を皆殺しにできる」 「大きな命もではないか…?」 「それはそうだが」 「考えてはおくが…」

2019-10-07 22:26:57
帽子男 @alkali_acid

影地歩きも似たような取り組みをしていた。 「いや鉱毒練りの考えには感心してな。小生も暮らしの役に立つ工芸に目覚めた」 「モシークよ。それは何だ」 「光蟲」 「ピカ…チュ…何?鼠の死骸に見えるが」 「屍金接ぎをせっついて作らせたのだ。鼠の死骸を使ったが、蟲と考えてくれ」

2019-10-07 22:29:30
帽子男 @alkali_acid

黄色く塗った鼠の死骸は、モシークが自信満々に捻子を巻くと、ほのかな雷を帯びて壁や床や天井を駆け回る。 「…なんだ…いったい…」 「解らぬか!?微弱な雷は埃を吸い寄せる…つまり…ああして家中の汚れを…」 爆発した。

2019-10-07 22:31:59
帽子男 @alkali_acid

「…も、モシークよ…あれもはたらきのうちか?」 「いや。あれは雷を発するために調合した毒…というか薬というか…鉱毒練りに作らせたものが不安定だったのだな」 「…当分は魔法でよいと思うが」 「何を言う。まだこれからだ」

2019-10-07 22:33:44
帽子男 @alkali_acid

ドワーフの男四人は昔から変わらぬ破天荒ぶりだが、そろって影の国の世継ぎをかわいがった。 「オズロウ!お前の船には破城鎚を組み込め!」 「船首に乙女の屍体を溶接するのだ。それでこそ完璧となる」 「狼煙がわりに酸の霧を吐くといいぞ」 「水中に潜れるようにしよう」

2019-10-07 22:36:21
帽子男 @alkali_acid

だが実際のところは小人は造船については詳しくなかった。 「小父さん達なんてだめさ」 ほかよりずっと幼い、ドワーフの男児が、オズロウに囁く。 母である骨磁焼きが手がける、宮殿の大浴場を覆う磁片(タイル)の壁画制作の下働きをしながら。 「水と船は俺達の専門外だ。今はな」

2019-10-07 22:42:20
帽子男 @alkali_acid

「じぶんはちがうん?」 盲目の少年が問うと、稚い小人はうなずき返す。 「俺はドワーフで一番の船大工になるぜ。エルフや人間をしのぐ腕前のな」 「ワテ楽しみやわー」 「一緒にやろうぜオズロウ」 「やるやる」

2019-10-07 22:44:42
帽子男 @alkali_acid

ちなみに骨磁焼きを孕ませたのが誰かははっきりしていないが、だいたいのところは年下の叔父である屍金接ぎだろうと目されていた。

2019-10-07 22:45:54
帽子男 @alkali_acid

「胤はどなたでもよろしいですわ。優れた職人に育てば」 「しかし船大工とは我が子ながら厄介な道を考えるもの」 骨磁焼きと贋宝作りは、磁片に七宝をかぶせる算段をしながら話し合う。 ちなみに単なる焼きものではなく、破壊の呪文に耐えるのが目標。 「あなたは子供は作らないの贋宝作り」

2019-10-07 22:51:17
帽子男 @alkali_acid

「幸い産婆はおりますけど…ま、気が向いたら考えますわ」 産婆というのは責具拵え。 地下宮殿の蒸風呂の間そばに新作の責具を置き、妖精の奴隷をはめ込んでいる。 「くっ…」 「ふふふ。すっかり素直になったものですねエルフの奥方も」 「仕方あるまい…」

2019-10-07 22:53:39
帽子男 @alkali_acid

「んぅううう…♡」 「いかがですか。ドワーフの工芸は」 「肩…肩をもっと強く…そうだ…腰も…足の裏…っ…指まで…伸ばし…」 「まだまだ序の口ですよ」 「くあっ…こんな…小人どもの技が…かくも…」

2019-10-07 22:55:28
帽子男 @alkali_acid

影の国に捕われて以来、堕落を続ける森の奥方ダリューテの密かな悪癖がまた増えようとしていた。 「蒸風呂のあとに…このような…っ…おの…れ…」

2019-10-07 22:56:51
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