ギガベース日誌 ACT08「PHANTASMA BEING」01

再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「げえっ、ぶ、あなた、ぎがべっ」 「だぁから勝手に動くなっつってるっぴょんオラァッ！！！」 刃が夕張の足元を薙ぐ。切断された脚部の断面を横滑りして倒れた夕張の目は、自身の状況とは裏腹に輝いていた。 「此処は何処ぴょん？！お前らは何者っぴょん！！ギガベースは……」　#ギガベース日誌

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「じずんだっ、わよ」 「は……」 血反吐と共に吐き出された事実は、うっすらと予想できていたものだ。 「貴方の、あなただちのっ、ギガベースは、しずんだ」 「う、うぅ、嘘っぴょん。お前この期に及んでわけわかんない事」　#ギガベース日誌

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「此処はアビス。企業の罪を拭い去り、人と深海棲艦が手を取り袂を分かつ為の前哨基地」 血と駆動液で明瞭さを失っていた筈の夕張の言葉は、やがてはっきりとした調子で卯月に事実を叩きつける。 首筋から垂れるそれは、気付けば深海のように黒くなっていた。　#ギガベース日誌

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「お前、何してっ」 卯月が振り下ろした刃。しかし夕張は床を転がりこれを回避し、期待と嘲笑が混じったテンションで更に事実を吐き続ける。 「8日前までは、オーメル本社だった場所。今はあの戦闘で深海棲艦が処理しきれなかったリソースの一時保管場所」　#ギガベース日誌

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夕張の後頭部には、いつの間にか棒状の金属製ユニットが突き刺さっていた。 アンプルとかインジェクションとかいったものだ。足りない頭をフル稼働させ卯月が状況を判断している隙に、夕張の皮膚は急速に血色を失っていく。 「パルヴァライズッ！」 「またわけわかんねえ事をっ！！」　#ギガベース日誌

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再び振るわれる刃。しかし、今度は回避ではなく防御によって迎えられる。 夕張の両腕に生成された巨大なガントレットは、多くの艦娘にその危険性を周知されたものだ。 夕張の頭部は頭髪が変質したバイザー状の装甲に覆われ、軽巡ツ級としての再構築が瞬く間に完了する。　#ギガベース日誌

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「ひ、ひいいぃっ！！」 状況を受け止めきれず、卯月は情けない悲鳴を挙げながら身を引く。MURAKUMOの刃が届かない装甲を持った相手に抗う術はない。 「気になるわぁ。貴方がどうやって此処に入り込んだのか。一度機能停止してからの再起動？」　#ギガベース日誌

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「それとも表面に出てないだけで内部構造は深海棲艦化してるとか？あぁ気になる！そうよ！貴方みたいなのを調べたかったの！」 ガントレットが飛翔する。屍の山に囲まれた処理場において、逃げ場は限られている。卯月は本当の意味での死を覚悟しながらも、自棄糞で横に飛んだ。　#ギガベース日誌

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瓦礫に突っ込むガントレット。しかしすかさずもう片方が放たれる。 無茶な回避で床を転がった卯月。彼女に剛腕が届く直前で、艦載機の機銃がその軌道を曲げた。 「逃げて！早くこっちに！！」 続く爆撃。撃破ではなく撹乱を狙ったそれは、残骸を巻き上げながら夕張の周囲で炸裂する。　#ギガベース日誌

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何が起きているのか詳細に理解せぬまま、卯月は声が響いた方向へ駆ける。 ツ級特有の販促じみた対空射撃で撃墜される艦載機達。黒煙の中に卯月を見失い、夕張は舌打ちをバイザーの中で響かせた。　#ギガベース日誌

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艦載機の母艦である艦娘に手を引かれ、入り組んだ廃棄上の奥を突き進む卯月。歩みの迷いの無さから、その艦娘はこの場所の構造をある程度理解しているように見えた。 「ここまでくれば大丈夫かな……それにしても、よく生きてたわね」 「んえっと……ああ、ありがとうっぴょん」　#ギガベース日誌

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「お前も此処に捨てられたっぴょん？」 「いや、私は自分から此処に侵入して、ずっと隠れてたの。そこら中深海棲艦だらけだし、他の艦は撤退しちゃったみたいだから……」 状況はお互いに芳しくないようだった。2隻は揃って肩を落とす。　#ギガベース日誌

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「うーちゃんと一緒にいた艦は……摩耶はわからないっぴょん。でも、加古は……そっちは確か、綾波と龍鳳と一緒だったかっぴょん？」 「死んだわ」 卯月の問いに、軽空母瑞鳳は無感情に答えた。　#ギガベース日誌

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「瑞鳳以外の艦はオーメルの艦と相討ちになって死んだ。瑞鳳だけが生き残った」 「ず、瑞鳳？悪いこと聞いたぴょん？でもうーちゃん天性の空気の読めなさ若干免罪符にしてるとこあるから許してほし」 「うぅん、大丈夫、大丈夫よ」　#ギガベース日誌

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「瑞鳳は、生き残って此処にいるんだから」　#ギガベース日誌

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ギガベース日誌　ACT08「PHANTASMA BEING」　#ギガベース日誌

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オーメル・サイエンス・テクノロジーの事実上の壊滅から1ヶ月後。　#ギガベース日誌

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旧海軍、ひいては大戦時の帝国海軍から続く四大拠点の一つ、佐世保。 今やサインズ管轄の巨大提督府である佐世保第1軍港の夜は、海と空を凍らせたかのような静寂の中にあった。　#ギガベース日誌

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事実上の佐世保鎮守府の後継とも言えるこの基地を纏め上げるは、平石中将。 海軍解体戦争において、誰よりも早く正規海軍に半期を翻した民間提督であり、元GAエンジニアという異色の経歴を持つ。　#ギガベース日誌

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退社後にミグラント兼民間提督として活動し始めた彼は、艦娘とノーマルACの連携についての独自理論を提唱し、正規海軍との戦闘でもこれを実践し多大な戦果を得た。 そのドクトリンの多くは、かのギガベース鎮守府の活動から吸収したものに基づいている。　#ギガベース日誌

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彼にとってのギガベース鎮守府とその提督は、退社の遠因もとい怨敵であると同時に、リブートした自分の人生の基盤たる師でもあった。 そんな彼等も、今やこの世界に存在しない。　#ギガベース日誌

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執務を終え、端末に目を通す。 既に数百回は再生したであろう映像が始まる。 それは、この星に生きる全ての人間を混沌の当事者にしてしまった。　#ギガベース日誌

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「……あっ、何だ。もう記録始まっているのか。流す時は此処はカットしておけよ。よし、では始めるぞ」 間抜けな開幕だ。カメラの前に立ち撮影者と会話しているのが深海棲艦で無ければ、笑い話で終われただろう。　#ギガベース日誌

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「この星の支配者たる企業と、その隷従たる全ての人々へ。私の名はクイーンズランス。見ての通り、深海棲艦だ。貴方方が定めた命名法を用いるなら、戦艦水鬼とも」 実写めいたCG映像などいくらでも作成できる時代、誰かの悪い冗談だと最初は思った。　#ギガベース日誌