ギガベース日誌 ACT08「PHANTASMA BEING」01

再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「3日前、旧地中海領域で発生した所属不明勢力同士の戦闘について。あの戦闘の実情は、公には秘匿されていたオーメル・サイエンス・テクノロジー本社施設を、反体制勢力ギガベース鎮守府が襲撃し勃発したものだ。私は他の深海棲艦を率いて戦闘に介入し、両戦力を壊滅に追いやった」　#ギガベース日誌

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「企業の活動、あるいは海軍に携わる者であれば、この映像が狂人の産物や粗悪なプロパガンダ、デマの類ではない事を理解しただろう」 図星だった。オーメル壊滅の報と関連勢力についての憶測は、その時点で平石の耳にも届くところとなったいた。 「結論から言おう」　#ギガベース日誌

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「我々は、人類と深海棲艦が数十年間続けてきた争いの終焉を望んでいる。深海棲艦は、貴方方が知らされているようなかつての大戦の怨霊ではない。深海棲艦の誕生と、人類との衝突で齎された全ての悲劇。その責任は企業に在る」　#ギガベース日誌

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「我々は企業の悪意を塗りたくられた存在理由から解き放たれ、自ら立ち上がることを決意した。この星の牢獄で諸共に滅びてはならない。我々と貴方方には進むべき路があり、理不尽に抗う意志がある」　#ギガベース日誌

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「我々は貴方方に要求する。深海棲艦の発生について責任を持つ企業の首脳陣は、世界にその罪を告白せよ。貴方達が齎した悪意と狂気を曝け出し、死を以て償う事を受け入れよ。解けぬ鎖を放ったまま歩み出せるほど、目の前の路は易しくない」　#ギガベース日誌

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「絡み合った悔恨と憎悪を払わずに、踏み出せる未来はあり得ない」 映像の中の深海棲艦は、その艤装が有する剛腕でオーメルの社章が刻まれた装甲板を掲げる。 「オーメルは、我々の意思を示す為の贄だ。口を閉ざし続ければ、私は次に貴方の大切にしているものを掲げるだろう」　#ギガベース日誌

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「繰り返すが、要求はシンプルだ。貴方方はこれ以上降りる必要はなく、歩み寄り口を開くだけでいい。我々はORCA旅団。この悲劇の終焉を望む者だ」 女王の演説はここで終わる。 この映像記録は、オーメル本社壊滅の三日後に、全世界のネットワークに民間・軍事問わず放流された。　#ギガベース日誌

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あらゆるクラウドサービス、SNS、メールサービスの中に紛れ込み、情報統制の間もなく多くの目と耳に届けられた。 正確にはこの映像に加え、オーメルとギガベース鎮守府の壊滅を裏付ける数多くの記録を添えて。　#ギガベース日誌

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拡散を止められないと察した各企業は、これを反体制勢力によって作成された悪質な虚偽にして扇動であると表明した。 だが、海軍の深部にまで至った平石は知っている。 映像が公開された直後から、各地に散っていたオーメルの技術者や元社員が相次いで死亡している事。　#ギガベース日誌

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インテリオルの経営陣が部下達に拘束された事。有澤重工の社長のみが映像について否定的な見解を表明せず、盟主たるGAに説明要求を突きつけた事。 ありとあらゆる思惑と動揺が絡み合い一ヶ月弱。世界は一歩も前に進んではいなかった。　#ギガベース日誌

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目下最悪の反体制勢力であったギガベース鎮守府の壊滅は、本来ならば新しい記念日でも制定すべき吉報であると言うのに、人類はより大きな問題に頭を悩ませる事になる。 世界が劇的に動かないとなれば、陰を落とすのは『誰が次のオーメルになるのか』という懸念だ。　#ギガベース日誌

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自分が何かをしたところで、虫けらが大木を引き抜こうとするようなものだ。 無力感と気怠さは、この一ヶ月で平石の自我を徹底的に殺し尽くしてしまった。　#ギガベース日誌

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GAという巨大資本グループの末端であったからこそ、この無力感はある意味身体の芯にまで染み付いてしまったものだ。 ただ、それ以上に。 ギガベース鎮守府の壊滅は、彼にとっては間違いなく凶報であった。　#ギガベース日誌

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憎んでいた。恐れていた。 それと同時に、何処か期待していたのだ。 彼等なら、この世界のシステムを、本当に壊してしまえるのではないかと。 秘書艦にすら話したことのないカタルシスへの憧憬。企業の巨大さと理不尽さ、その利を吸ってでも生きてきた事への若干の後ろめたさ。　#ギガベース日誌

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不思議なことに、あの深海棲艦達に似たような感情は抱けなかった。 「そもそもクイーンズランスって……流石にもう誰かしらが突っ込んでるか？」 BFFの旧本社艦が革命家を気取るなら結局企業の一人芝居を見せられているだけではないか。自分でも滅茶苦茶と思う怒りがこみ上げる。　#ギガベース日誌

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表明しようがない怒りを抱えるのは健康に悪い。そう思い平石は、今日はもうネコ動画を存分に鑑賞し寝てしまおうと決めた。 端末を操作する。贔屓にしているサイトへの接続は、永遠に画面上を踊るLOADINGの文字列に阻まれ続ける。　#ギガベース日誌

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どうにも、ネットワークが不調のようだ。 その原因を彼に知らせてくれたのは、基地内に鳴り響くサイレンの音色だった。 「……こちら平石。何事だ」 「軍港各所に電波妨害の兆候を探知……何者かがこの基地に電子的妨害を行っています」　#ギガベース日誌

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「発生地点をマッピングして送信しろ。発生源の特定は」 「遠征任務から帰還中の第2艦隊が、沖合に投射型ECMメーカーを検知。設置した戦力ないし航空機の調査を開始しています。バイパス通信繋ぎます」　#ギガベース日誌

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「平石だ」 「こちら第2艦隊旗艦大鳳。沖合10kmから20kmにかけて、製造元が不明のフロート投射型ECMメーカーを3基確認しました」 「1基のみ破壊し、残骸をラボに回せ。ギーグ共は叩き起こしておく」 「全てではなく？」 「ああ」　#ギガベース日誌

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「この基地の電子防御をぶち抜いてこれだけ広範な妨害をするなら、そのサイズのジャマー数十台では不可能だ。それこそAFクラスのECMメーカーが必要になる」 「では、これらは？」 「補助用に散布されたものか……いや、違うか」　#ギガベース日誌

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「本命からの注意を逸らす為のデコイの可能性がある。周囲の探索を続行し……」 通信が途切れる。 窓から差し込む閃光、爆炎の華が次々と夜空に咲き、軍港の各所を吹き飛ばしていく。　#ギガベース日誌

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「……まさか」 馬鹿げた想像だ。沿岸部に埋設された防壁の展開と防衛設備のロックを解除する。執務室の非常用コントロールパネルの上を踊る指は、恐怖ではなく無根拠の期待によって震えていた。 ありえないと脳内で繰り返しながらも、指はAC格納庫の解錠をも解いていた。　#ギガベース日誌

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海上の艦娘達は、平石が夢に見た恐怖と相対していた。 「馬鹿な……本部！！応答を！！！」 「悪い夢か何かでしょ……それじゃなくたって、どうして此処に！！」 悲劇と悪夢が溢れる戦場においても、それは尚の事悪質だった。 滅びた筈の悪魔達が、自分達の目の前に現れようなどと。　#ギガベース日誌

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緑光を纏いながら浮上する巨体。暗鬱なカラーリングは夜闇の中で一層悪意を醸し出し、そこに乗る者達の歪んだ欲望をシルエットのみで主張する。 「本部っ！！応答してっ！！ギガベースが、黒いギガベースがっ！！」　#ギガベース日誌

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模倣や偽装ではない純粋な欲望が、海中より浮上する。 GA製AF『ギガベース』を大規模に改造したのであろうその前面ハッチから、ワインレッドとブラックのツートンカラーに染められた重量二脚型第二世代ノーマルが飛び出し、それに続いて何十隻もの艦娘が海上に躍り出る。　#ギガベース日誌