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前回の話

まとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~5世代目・後編7~ お付き合いいただきありがとう。お疲れ様でした。多分、ここでおしまいにしておくのが一番です。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。 4228 pv 7

以下本編

帽子男 @alkali_acid
◆◆◆◆ 旅の始まりには旅の終わりが、 出会いには別れが、 物語の冒頭には結末が、 ついて回るもの。 尤もどこかへ向かう途中で足を止め、永遠に休んでしまうのも一計ではある。
帽子男 @alkali_acid
盲目の船長とともに世界の海を巡る冒険とて、ともに乗り組んだひとが航路の半ばで下船する自由はある。 なぜなら、旅がいつも楽しく、いつも喜ばしい驚きに満ちて、いつもめでたしめでたしになるとは限らないからだ。 ましてこれは呪いの物語。 エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の。
帽子男 @alkali_acid
ウハウハドスケベご都合ファンタジーなのだから。
帽子男 @alkali_acid
さて、しかし舵を取るものは、たとえ客も荷もなくなったとしても、船を港まで運ばねばならない。 たった一人になったとしても。 旅のあいだに固めた大切な絆を失い、あとには絶望と孤独が身を心を蝕むだけだとしても。
帽子男 @alkali_acid
船作りの港は盲目の船長オズロウが旅立った際と少しも変わらなかった。 色とりどりの石畳が敷かれた道も、そこかしこに植わって優しい影を作る街路樹も、小鳥の巣箱をしつらえた柱も。 物静かなしかし勤勉な妖精の船大工や船乗り、漁夫や商人。狭の大地の諸方から集まり西の果てへ発つ船を待つ客も。
帽子男 @alkali_acid
船作りの長ニムディアと二人の夫人、娘に息子等、孫も皆達者だった。 それもそのはず。寿命を持たぬエルフにとっては、瞬きするほどの時間が過ぎただけだからだ。 「よく戻ってきた。我が弟子よ。また一回り大きくなったな」 港の領主にして職人頭、老いを知らぬ長上は、両腕を広げ出迎えた。
帽子男 @alkali_acid
縁者にさえめったに情の動きをあらわにせぬ親方だが、暗い膚の青年がやって来ると、決まって引き締まった長躯からかすかに光を放つような喜びを示す。 「ただいま、お師匠はん。旭あけ丸を返しに来たで」 オズロウがそう挨拶すると、向こうは首を振る。 「旭あけ丸はお前のものだ」
帽子男 @alkali_acid
「ニムディアはんが建てた船や。ニムディアはんが乗らな船も悲しがるわ」 「私はこの港を離れぬ。その快船はお前にこそふさわしい」 「えーやんか。ちょこっと離れるぐらい。あ、せや。旅の途中でシオノカガヨイはんにおうたで。船大工のおねーはん。ニムディアはんの弟子やろ?」
帽子男 @alkali_acid
ほんの数日港を離れていただけのような気さくさで、師弟は連れだって館へと歩きながら歓談に耽る。 ほかのものはというと、調子の悪いがらんどうの従者は、ひとまず波止場の荷倉(にぐら)に入ってじっとしており、風の司も邪魔をせぬよう少し離れ、船作りの長の子等と声を抑えつつ知らせを交わす。
帽子男 @alkali_acid
影の国の世継ぎと港の領主はさらに言葉を贈りあう。 「シオノカガヨイ。今はそう名乗っているのだな。あのものは、私にかわって船作りの長になるだけの器量を持っていたが、港が狭く感じたのだろう…達者にしていたか?」
帽子男 @alkali_acid
「むちゃ元気やで。ほんでな。波けり丸ちゅう、女船を建てたんはシオノカガヨイはんやったんや…ひょっとして知っとった?」 「そんな気はしていた…そうか。女船をな…見てみたいものだ」 「会いに行ったらええんや。旭あけ丸で。ワテつなぎとったる」 「…考えてみよう」
帽子男 @alkali_acid
目の見えぬ船乗りが帰還するや、領主の館は笑いと歌にあふれた。 「オズロウ。やはりあなたがいると、太陽がもう一つ増えたよう」 奥方の一方がそう話しかけると、もう一方も頷く。 「我が君のためにも、ずっと留まって欲しいものです」
帽子男 @alkali_acid
かつてのように暗い膚の青年は、妖精の屋敷で居間にくつろぎ、さまざまな土産話を披露した。 曙の大地の不思議な声をした鳥や獣の歌、安息の国の香油や香水のこと、暑き香料の地の音楽。竜を崇める国に集った多種多様な料理。日の赤き道のあたりで肌にそそぐ焼けつくような陽射しの感覚。
帽子男 @alkali_acid
旅をともにしてきた明るい肌の美丈夫もいちいち頷きあるいは言葉少なに補い、相棒が大袈裟に語りすぎるところは品よく窘めた。 「世界の驚異を聞き、嗅いできたのだなオズロウ。定命のものも不死のものも、かくも偉大な航海を成し遂げたものは他にない」 ニムディアは微笑んだ。誇らしげに。
帽子男 @alkali_acid
「ワテとアキハヤテはん、アンググ…皆で行ったんや…むちゃ楽しかったわ…しんどいこともちょこっとあったけど…ほんでも楽しかったわ」 オズロウは決して焦点の定まらぬ眼差しを宙に遊ばせつつ、旭あけ丸としろがねの凱歌号で過ごした日々を辿る。さほど時は経っていないのにもう懐かしいよう。
帽子男 @alkali_acid
ロンドーも瞑目して同じ船路に思いを馳せると、ゆっくり瞼を開き、ややあって尋ねた。 「ニムディア殿。私が留守にしている間、霧けぶる峰々の東と西に大事はありませんでしたか」 「うむ…」
帽子男 @alkali_acid
船作りの長は晴れやかだった面持ちを曇らせ、夫人達に合図して一族を下がらせる。 「ロンドーよ。詳しいことは私の部屋で話すとしよう」 「ほなワテ、アンググのようす聞いてくるわ」 席を外そうとする盲目の船長をしかし館の主は引き留める。 「待て。お前もともに来るがよい。友のこと故」
帽子男 @alkali_acid
三人は、小さな船の模型や図面、海図を所狭しと配した工匠の私室に移る。 「話さねばならぬことは多い。だが最も大事な報せを伝えれば、二人ともほかを聞かぬであろう。故にいささか酷ではあるが、本題とは別に耳に入れるべき報せから教えよう」
帽子男 @alkali_acid
「まず小人の動静だが、さすらいの王は青の峰々を拓き、新たな工房を築きつつある。遠回しに柊の郷からさまざまな支援があるようだ。王は、霧けぶる峰々の窖深くに失われた山の下の国の奪還を誓っているが、そちらに進みはない…一方で黒小人と呼ばれるものどものうわさがある」 「ほわー」
帽子男 @alkali_acid
「どういったものどもです」 武人と船乗りがそれぞれ声を上げると、大工頭は答える。 「多くは小人の中でも、山の下の王国の生まれで難に遭った民のうち、ほかの山に逃れたもののなじめぬ輩…そのうちでもとりわけ気性の変わった連中で、避難先を捨て、東へ向かったものだ」 「東へ?まさか…」
帽子男 @alkali_acid
「さすらいの民と親しみ、影の国の外輪山まで行くという」 「ですが…山の下の王国の遺民にとって、影の国は仇敵のはずです」 「すべてがそうではない。王国の滅亡によって解き放たれた罪人にとっては影の国は必ずしも悪しきものではないという。また小人の女衆にもそういう考えのものがいるという」
帽子男 @alkali_acid
「黒小人は東へ行ってどうなったのです」 「そこまでは解らぬ。小人の動静としてもう一つ。山の下の王国の遺民の一部は、人間の諸王の許しを得て、魔法の学び舎のそばに工芸の学び舎を建てた。緑の森の女王の格別の後押しがあったとか」
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