小熊英二『日本社会のしくみ』(講談社現代新書、2019年8月)読了 bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0… 社会学者・小熊英二による雇用制度をめぐる近現代史。1~3章は通説の紹介でありほぼ異論なし。4章以降の人事制度が官から民へ伝播したとの指摘のあたりからが著者の主張だが、ここからは疑問符が散見。
2019-12-22 10:24:43小熊英二『日本社会のしくみ』の第4章「「日本型雇用」の起源」については以前ツイートしたが、改めて疑問符のついた箇所を紹介したい。
2019-12-22 13:06:53まず、わかりやすいところから。 日経連・常務理事の成瀬健生(1933年生)のコメントを引用して、「同じ軍艦の艦長といったって、駆逐艦の艦長と選管・航空母艦の艦長では、職能資格が違う。潜水艦とか駆逐艦だったら少尉、中尉ぐらいでもなれるけど、大和だったら大将か元帥でなければ」p.243
2019-12-22 13:06:53言うまでもなく、いくら基準排水量が多かろうが、元帥や大将が戦艦の艦長になるはずがない。この1933年生まれによる2010年の不正確極まりないコメントを引いてきて補強材料にするあたりで、一気に信憑性が減じられた。
2019-12-22 13:06:53また、 「海軍少将は、艦隊司令部で作戦を立てることもあるし、戦艦の艦長になることもある。たとえ彼に得意分野があったとしても、上層部の判断でさまざまな職務に就く。だが基本の俸給は、彼が少将であることで決まるのだ。」p.236
2019-12-22 13:06:54この直後に基本の給与に諸手当がつくことは補足されてはるが、海軍省や鎮守府勤務と艦隊勤務では手当が異なることは全く言及されておらず、不十分だろう。 幅広い職種を包含する陸海軍にあっては、基本俸給こそ統一されているが、加俸や手当によって実際の額面は大きく変動するようになっている。
2019-12-22 13:06:54こんなことは、戦前の陸海軍に詳しくない私のような人間でも理解していることで、「官等≓職能資格」というイメージの一点突破で牽強付会に論を進めようとすることに起因している。
2019-12-22 13:12:19さらに、官製の俸給制度が民間に広まったとの主張が展開されるが、最初に紹介される"官営"の製鉄所や造船所で導入されるのは当たり前のことであり、それが三井や住友のような純民間企業にどう影響したかは曖昧なまま。 会社で社内身分を士官や下士官に例えたという事例が重ねられるばかり。
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