哲学院生のアライさんによる#新型コロナウイルスの哲学話(全3回)

哲学院生のアライさんによる哲学話 - Togetter https://togetter.com/li/1416702 からの抜粋なのだ!
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哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑥【近現代1】 しかし、19世紀末から20世紀にかけては「患者の同意なしに行う手術」が傷害罪や不法行為になるといった判決が出てきたのだ。特にアメリカのシュレンドルフ事件の判決で「患者自身の身体に何が成されるべきかを決定する権利」=自己決定権が明文化されるに至ったのだ。 pic.twitter.com/1EAEF6lJFz

2020-03-15 10:39:22
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哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑦【近現代2】 また第二次世界大戦中のナチスドイツ・旧日本軍の七三一部隊における人体実験が戦後の裁判で断罪されたことを受け、「医学研究のための実験」の原則(ニュルンベルク綱領)がまとめられたのだ。ここに健康への影響を事前に知らされる「インフォームド・コンセント」の原点があるのだ。 pic.twitter.com/nC8dfhqm6E

2020-03-15 10:39:23
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⑧【現代1】 その後も「ヘルシンキ宣言」の採択(1964)などの進展があったけど、アメリカの一般病院における人体実験の告発(1966)を受け、アメリカでは国家研究法(1974)が制定されたのだ。これはベルモント・レポート(1979)、さっきの医療倫理の四原則などへと発展していくのだ。

2020-03-15 10:39:24
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑨【現代2】 50年代の公民権運動・60-70年代での女性解放運動・消費者運動などの波は患者の権利運動へとつながり、従来のパターナリスティックな医療者目線の倫理は撤回され、1973年にはアメリカ病院協会が「患者の権利章典」を採択するに至ったのだ。 pic.twitter.com/j1D5CHmoeQ

2020-03-15 10:39:24
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⑩【現代3】 この権利章典では患者が医療の主体であることを明示した画期的なものなのだ。さらに世界医師会総会で採択された「患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言」(1981)を経て患者の権利は世界標準のものになったのだ。日本でも70-80年代にかけて患者の権利概念が周知されたのだ。

2020-03-15 10:39:24
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑪【現代4】 日本では、90年代に患者の権利の法制化へ向けた運動が起こり、99年には「患者の権利」促進を目指して患者の苦情相談・支援活動を無報酬で行う「患者の権利オンブズマン」が始まったのだ。ここまでが「患者の権利」の歴史なのだ。 kanjakenri.com

2020-03-15 10:39:25
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⑫【権利の中身】 患者の権利には主に ①社会権 ②自由権 ③治療契約によって生ずる権利 ④これら全体に関わる人権 の四つがあるのだ。 ②の自由権には「知る権利」と「知らされない権利」の二つがあって興味深いのだ。妊婦やその家族には胎児の性別を知らされない権利もあるし、知る権利もあるのだ。 pic.twitter.com/jnmV1Qgs5R

2020-03-15 11:04:59
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⑬【知る権利】 さらに「知る権利」に含まれる「診療情報開示請求権」(カルテ開示)は2005年の個人情報保護法の完全施行に伴い事実上法制化されたのだ。とはいえこれは患者の権利運動の結果というより、個人情報保護法の施行による付随的な結果なのだ。 pic.twitter.com/4qAqTXqCHv

2020-03-15 11:05:00
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⑭【課題】 そうした患者の権利はある程度みんな望むものだろうけど、その「適応範囲」や「自己決定の自由の上限」には議論があるのだ。出生前診断・エンハンスメント・未承認薬使用・死ぬ権利・安楽死などの医療倫理の問題は自己決定権や患者の権利の主張だけではなかなか片づけられないのだ。

2020-03-15 11:05:00
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑮【課題2】 また、「医療における子どもの権利」も問題で、特に入院した子どもに対する「教育を受ける権利」なども重要なのだ。さらに患者の権利の誤用から起こる患者の「モンスター・ペイシェント」化も問題なのだ。職員に対する院内暴力、救急車のタクシー的利用、不必要な医薬品処方要求… pic.twitter.com/mJyEbQxy1O

2020-03-15 11:05:01
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哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑯【課題3】 患者の権利を患者側が悪用するあまり医療費を踏み倒そうとしたりする例もあって、医療現場が疲弊してしまうのだ。そのため、こうした問題を踏まえた患者の権利の再構築、そして患者の権利の捉えられ方の再考が必要なのだ。

2020-03-15 11:05:02
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑰【患者の責務】 また最近では、「患者の権利」だけでなく、「患者の責任・責務」といった責任面での議論も行われているのだ。患者も倫理的主体として、「正直に意思疎通する」、「同意した治療行為に従う責任がある」といった責務があることを掲げる医師会や医療機関が増えてきているのだ。

2020-03-15 11:05:02
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑱【パートナーシップ】 患者の権利は歴史が浅く、最近も患者の責任・責務といった議論があるほど変化も激しいのだ。でもこれからも医療の進化に伴って患者の権利は随時更新される可能性をもっているのだ。また、権利と責務に伴い「医療者―患者間の協働的パートナーシップの構築」も重要なのだ。

2020-03-15 11:05:03
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑲【パートナーシップ2】 最近では患者・医療者の「共同的意思決定」(互いの役割を確認し、共に意思決定すること)が注目されているのだ。特に「認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML」は医療者と協働できる患者の教育や、病院改善のための支援を行い、「協働」の実現に向けて努力してるのだ。 pic.twitter.com/YjluvUEtTl

2020-03-15 11:05:03
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哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑳【まとめ】 患者の権利は古代にはなかったけど、20世紀前後の判例と戦時中の人体実験の反省、50年代以降の運動を経て市民権を得るに至ったのだ。最近では知る権利・知らされない権利、インフォームド・コンセントの確保と共に、患者の責任や患者と医療者の協働が重要視されているのだ。

2020-03-15 11:05:04
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

哲学話㉞ 【「患者の権利」って何?】 を追加したのだ! 訂正:哲学話㉝⇒哲学話㉞ 哲学院生のアライさんによる哲学話 - Togetter togetter.com/li/1416702 @togetter_jpさんから

2020-03-15 12:28:45
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLのホームページが以下なのだ。 coml.gr.jp ここの理事長が書いた本に岩波新書『賢い患者』があるのだ。 賢い患者 (岩波新書) 山口 育子 amazon.co.jp/dp/4004317258/… @amazonJPさんから

2020-03-15 12:28:45
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

哲学話㊱ ①【カントの世界市民権・訪問権とは何か】 #新型コロナウイルス で出入国制限などが生じてるけど、そもそも外国に訪問したり外国で歓迎されたりする権利が人にはあるのだ? カントの平和論や世界市民権、訪問権、国際連盟、世界共和国について扱った論文を紹介するのだ! pic.twitter.com/hiYxV5RAG1

2020-03-24 15:57:50
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哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

②【文献・目次】 菅沢龍文「世界平和と基本的人権,その指標としての「訪問権」 : カントによる世界市民権概念について」、『法政大学文学部紀要』(76)、13-31頁 hosei.repo.nii.ac.jp/?action=pages_… ※無料 ④―⑧訪問権・交流権 ⑨―⑯国家・連盟・体制 <略称> カント=K 『永遠平和のために』=『平和論』

2020-03-24 15:57:50
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

『人倫の形而上学』前半(『法論』) 『たんなる理性の限界内の宗教』(『宗教論』) 『世界市民的見地における普遍史の構想』(『普遍史』) 『人倫の形而上学の基礎づけ』(『基礎』) 『実践理性批判』(『実理』) 『理論では正しいかも知れないが,実践においては誤りであるという俗説について』(『俗説』)

2020-03-24 15:57:51
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

③【問題提起】 カントの挙げる世界市民権と言えば「訪問権」なのだけど、これが世界市民法に属すのか、国際法に属すのか、交易を含めた「交流の権利」を意味するのか、などに関しては研究者の間に意見の相違があるのだ。また世界市民権は「世界市民社会の体制」と共に考えないと理解できないのだ。

2020-03-24 15:57:51
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

④【訪問権】 Kは『平和論』で ⑴相手を家族のようにもてなす「客人の権利」は「二人」の間の契約に基づく ⑵地表を共同で占有する権利に基づく「訪問権」は物に関する権利を可能にする「万人」の契約に基づく と考えたのだ。人が物を占有できるのは、誰かが占有できるという契約があったからなのだ。 pic.twitter.com/KniCReD0e2

2020-03-24 15:57:52
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哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑤【訪問権2】 『法論』では、この地球の表面の共同占有権(総体的占有)に関しては、 ⑴実際に取得するとなると、「時間的条件」に基づく移り変わるものになる ⑵でも、取得を支える根源的な「権原」は空間的条件に基づく、移り変わらない「理念」 なのだ。 pic.twitter.com/h0GE9Nryz3

2020-03-24 15:57:52
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哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑥【交流の権利】 『法論』ではさらに、この土地を共同占有する根源的「共有態」と「交流」を区別し、この交流の権利が世界市民権だと書いてあるのだ。でも『平和論』では「共有態」に基づく訪問権が世界市民権だとされていたのだ。

2020-03-24 15:57:53
哲学院生のアライさん(哲ライさん) @tetsugaku_arai

⑦【交流の権利2】 実は『法論』では「諸国民」、『平和論』では「人」(万人)が主語となっていたのだ。そして『平和論』の訪問権は訪問したら敵扱いされない権利であって交流の権利とは異なるのだ。つまり、同じ世界市民権の中で、「諸国民の交流の権利」と「万人の訪問権」は区別されているのだ。

2020-03-24 15:57:53