剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ2(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

次々と怪異は頽(くずお)れ、小刻みに震えてから動かなくなった。 最後までたっていたのは、どうやらすべての戦士の源であるらしい一人だった。だが死んだ草木の毒はやはり回っており、黒の癒し手が近づくと、放射状に刃の伸びた剣を振り上げてから、ぶざまに取り落とした。

2020-04-20 21:50:23
帽子男 @alkali_acid

鎧兜の魔女は、甲冑の牝狼となって飛びかかり、肩口に牙を食い込ませて押し倒すと、また人のうわべに戻って、優しく歌いかける。

2020-04-20 21:52:06
帽子男 @alkali_acid

「どうしたんだい?まだ複製が全滅しただけじゃないか。かかって来るがいい。使い魔達を出すんだ。身体を変化させろ。傷を癒して立ち上がれ。武器をひろって反撃しろ。お楽しみはこれからだ」

2020-04-20 21:52:18
帽子男 @alkali_acid

仮面の戦士はただ痙攣しただけだった。すでに死んだ花粉をあびた膚のかぶれは全身に及んでいる。 黒の癒し手は全身を守る武具を再び液状の闇に戻して脱ぎ捨てると、丈の短い裳裾にたるんだ靴下という蓮っ葉な女学生のいでたちになって、手で口を抑えつつ、あくびを一つする。

2020-04-20 21:55:20
帽子男 @alkali_acid

「このまま腐らせてもよいが…闇の王の御心には沿わぬ…ウィスト…君の望みを…」 魔女が長い睫を閉ざすと、裳裾の縁から赤、青、黄、緑、橙、紫といった多彩な光が波打つようにゆらめきながら辺りに広がる。

2020-04-20 21:57:45
帽子男 @alkali_acid

博物館の内部を埋め尽くす死んだ毒草は、生きていたときの色艶と瑞々しさ、芳香を蘇らせると、壁や床や天井に染み込んで模様の一部となる。 のし歩いていた暴君蜥蜴の化石は、白い雪花石膏の彩りを帯び、まるで祈るように天を仰ぎ、尾をうねらせたまま固まる。

2020-04-20 22:00:46
帽子男 @alkali_acid

魔女の指が、組み敷いた戦士の仮面をはがすと、ごく平凡な、学芸員らしい青年のおもざしがあらわれる。顔つきにはもう苦しげなようすはなく、ただ規則正しい呼吸しているのは、深い眠りに就いている印だ。

2020-04-20 22:02:51
帽子男 @alkali_acid

「何という魔法だ…ウィスト。君はまるで唯一にして大いなる…」 黒の癒し手は呟きかけてから口をつぐむと、ゆっくりと廊下を渡って陳列室へ引き返す。死体の群はもはやみすぼらしくはなく、威儀をただし、儀仗兵のように主を迎える。

2020-04-20 22:05:10
帽子男 @alkali_acid

「死の床へ還るがよい。霊気なき肉の器よ。お前達の安らぎを妨げることはもうしない」 暗がりが渦を巻くと、亡者は一人また一人といずこともしれぬ冷たい塒(ねぐら)に退散していった。

2020-04-20 22:07:35
帽子男 @alkali_acid

陳列室にはさすらいの民の偽学生がうずくまっていた。あちこち怪我をしているがまだ意識はしっかりしているようだ。 魔女はしゃがむと、肉付きのよい太腿の付け根あたりで裳裾をめくれぬよう軽く抑えてから、手負いの若者に素早く治療を施してゆく。 「クレノニジ…なのか…」 「今はアケノホシ」

2020-04-20 22:11:14
帽子男 @alkali_acid

「夢みたいだ…あんたみたいな別嬪を女房にするのが俺の夢だ」 「悪いけど好みじゃないな」 「どんなのが…好みなんだ?」 「肌が明るくて耳の尖った年上のひとだね」 「白いのが…いいって?待ってろよ…何とか」 「じっとして」

2020-04-20 22:14:06
帽子男 @alkali_acid

制服姿の魔女は偽学生の手当てを済ませると、軽々と横抱きにして歩き恥エmル。 「騒ぎになる前に出るとしよう。ところで君の用事は…あれかな?」 黒の癒し手が細いあごをしゃくると、ひときわ厳重な警備を施した品を示す。

2020-04-20 22:16:54
帽子男 @alkali_acid

指輪だった。美しいが、神々しさも禍々しさも感じさせない。 ただ気品のある古い指輪だ。 「…高く売れそうだな」 「すり替える偽物は?」 「ある。懐に」 「よろしい…ひどい細工だな。こういうのが得意な小人が見たら卒倒しそうだ」

2020-04-20 22:18:33
帽子男 @alkali_acid

魔女は呪文を口ずさんでさすらいの民が隠し持っていた偽物と本物の展示品を交換する。 「受け取りなさい」 「…いいのか?良い金になるのに」 「君も売る気はないんだろう」 「値段次第かな」 「王国ひとつかい」 「どうだろうな」

2020-04-20 22:20:48
帽子男 @alkali_acid

博物館の非常口からそっと抜け出した魔女は若者を抱いたまま、おぼろな影となって裏庭を通り過ぎ、一瞬だけ巨大な蝙蝠に変わると、生垣の柵を超えて敷地から脱した。 「さ、ここからは一人で行くなり、助けを呼ぶなりするんだね」 「もっと抱いててくれないのか」 「君は好みじゃない」

2020-04-20 22:23:03
帽子男 @alkali_acid

路傍に男をごみのように置くと、女は片手を腰に当てて、もう片手の指を突き付けた。 「それと次にウィスト…クレノニジにまとわりついたら、このアケノホシが君を食い殺す。よく覚えておくんだね」 「あんたにならいいのかい?」 「好みじゃないって言ってるだろ。じゃあね」

2020-04-20 22:25:15
帽子男 @alkali_acid

乙女は再び雌狼に変わると、黒い風のように通りを駆けていった。 後に残されたさすらいの民の偽学生。メニカあるいはケムルクサは指輪をぽんと投げて掌で受け止め、握りしめる。 「アケノホシ、か…クレノニジよりいい尻してたな」

2020-04-20 22:27:04
帽子男 @alkali_acid

黒の癒し手は、できるかぎり速やかに博物館から遠ざかると、古典の府を囲う赤煉瓦の塀に背をもたせて息をつき、あたりに誰もいないのを確かめると、両腕を抱く。たちまちなよやな輪郭は影に溶け、矮躯の娘と、四つ足の獣とに分離する。

2020-04-20 22:30:53
帽子男 @alkali_acid

「……えっ」 暗い膚に尖り耳の少女、ウィスティエあるいはクレノニジはようやくと意識を取り戻し、しばらく酔ったように頭をふらつかせてから、やがてかたわらで心配そうに見守る連れに意識を向け、ぎくっと凍り付く。 「ひっ…」

2020-04-20 22:32:18
帽子男 @alkali_acid

するとそれまでぴんと三角形の耳を立て、凛々しげなようすを保っていた獣は突然舌をだらりと垂らし、耳を伏せ、ゆるみきった雰囲気ではっはと喘ぎながらあたりを行ったり来たりする。 「い…ぬ……?」 「ワフ!ワフ!」

2020-04-20 22:33:59
帽子男 @alkali_acid

ウィスティエはふっくらした頬をひきつらせて赤煉瓦の塀に張り付いた。 「いぬ…」 もっと幼い頃からの苦手だった。噛むし、群れになると恐ろしい。 とたんに黒い犬は、きりっとした顔になった。耳が立ち、毛並みもどこかぼさぼさと野生味が増す。 「いぬじゃない?」

2020-04-20 22:37:17
帽子男 @alkali_acid

「グルルル…グァウ!」 「お、おおかみ?」 黒き獣は、小柄な女学生の問いに勢いよく首を縦に振る。器用だ。 「いぬだよね?」 「クゥン…」

2020-04-20 22:39:13
帽子男 @alkali_acid

ウィスティエは困り果てた。犬は苦手。でもどうも側を離れる訳にもいいかなそうだ。あらためて見やると、毛むくじゃらの首に細鎖がかかっていて、指輪が下がっている。 「じゃあ…やっぱ…カミツキの…友達?」 「ワフッ!!」 「いぬ…」

2020-04-20 22:40:59
帽子男 @alkali_acid

少女はまた後退る。 犬はとても悲しそうになる。 「キュゥウン…スンスン…クゥゥ」 「え、でも…犬、苦手だから…」 「キュゥゥ」 「苦手だから…」 「フッ…フッ…」 獣はどさりと倒れ、動かなくなる。舌はしまってない。目は左右別々の方向を見ている。尻尾だけ時々ばた、ばたっと動く。

2020-04-20 22:43:01
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