剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ2(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

「え、困るから…」 「…」 「困る…」 「…」 「あの…」 「…ワフ…」 とうとう女童は諦めてしゃがむと、そっと尻尾の先に指で触れた。 「クゥゥ…」 尻尾が揺れる。

2020-04-20 22:44:07
帽子男 @alkali_acid

「あの…」 二つ足の仔は無言で四つ足の連れと見つめ合った。 「え…名前?決めるの?」 「ワフッ」 ウィスティエが耳当てを抑えながら考え込むと、おぼろな記憶が脳裏をよぎる。 「犬…狼…?名前は…じゃあ…アケノホシ…でいい…?」

2020-04-20 22:46:25
帽子男 @alkali_acid

確かそう名乗っていた気がする。混乱していてきちんとは思い出せないが。 「ワウン!」 アケノホシは跳ね起きて、またぐるぐるとウィスティエの周囲を回る。 すごく。 馬鹿そう。

2020-04-20 22:47:22
帽子男 @alkali_acid

「あの…じゃあ…怒られないようにね…町だし…犬…だから」 「オン!オン!」 「うん…いぬ…」 少女は肩にかけた学生鞄をあらため、中に入った本を確かめると、古典の府の校門を目指して歩き始めた。

2020-04-20 22:49:11
帽子男 @alkali_acid

いよいよ恩師から預かった妖精の書を、しかるべき学者に渡す時がきたのだ。

2020-04-20 22:50:19
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ ところで歴史民俗博物館や古典の府などの所在によって、世界中から知識を求める人々を引き寄せる学問の都は、今また新たな客を迎えようとしていた。 ただし正門をくぐり大通りを抜け、伝統ある学び舎いずれかの門戸を叩かんとする尋常のものではない。

2020-04-20 22:55:36
帽子男 @alkali_acid

街外れにあって、学問ではなく掃除、洗濯、炊事、土木や建設、荷運びなどを担う労働者の一部が住む東方人地区に、ひっそりと入り込んできたのだ。 一人は巨躯の若い男、一人は長身の齢定かならぬ女。 男はあちこち肌をさらした軽装、女は帽子を被り外套の襟を立てた重装。

2020-04-20 22:59:26
帽子男 @alkali_acid

三日月の帝国の公用語や、西方語と東方語のいりまじった混交語の飛び交う市場の雑踏を横切り、狭い横丁と小路を辿って、一見すると営業しているとは思えない奥まった店にたどり着く。 「お早いおつきで…ええと」 「財団のものです」 「でしたね」

2020-04-20 23:01:30
帽子男 @alkali_acid

店主は二人を中へ通すと扉を閉めて閂をかける。 「いやはや、本当に実在するとは…」 「電信でお願いしたものは?」 「こちらに…うちを都一の周旋屋と見込んでのご相談とくりゃあかかりきりでやりますよ」 周旋屋は制服と学生証を取り出してくる。

2020-04-20 23:04:58
帽子男 @alkali_acid

「そちらのお兄さんのは特別注文ですよ。軍武の府の付属のやつですがね。とても中古で寸法の合うのがなくて」 「いらねえ」 巨躯の若者はうっとうしそうに金の鈕が縦に並んだ黒い上着を一瞥したきりだった。 「うぜえ」 「ガウド様。それでは私はやはり別行動をとらせていただきます」

2020-04-20 23:08:25
帽子男 @alkali_acid

長身の乙女は辛抱強い口調で述べる。 「んでだよダリューテ。またあんたに追いつくのどんだけ大変だったと思ってんだよ。あのうぜえ乗りもんとか使ってよお」 「騒ぎを起こせば…」 ダリューテは答える。 「黒き獣はまた行方をくらますでしょう」

2020-04-20 23:10:47
帽子男 @alkali_acid

「…だからってよ」 ガウドはうっとうしそうに上着をつまむ。 「着ろってのかよ」 「ご随意に。ガウドビギダブグ様…私の分は」

2020-04-20 23:12:09
帽子男 @alkali_acid

「お嬢様のはこちらですよ」 周旋屋が差し出した包みを、陶磁細工のような指が受け取って紐を解く。たちまち紺の襟のついた襯(シャツ)と赤い首巾(スカーフ)、やたらと短い裳裾の襞のたっぷりした青い裳裾などだ。 「数理の府の付属の制服ですよ。あそこは格が高い。どこでも出入りし放題だ」

2020-04-20 23:14:45
帽子男 @alkali_acid

ダリューテは度の入っていない銀縁眼鏡を直すと、きちんと包みを戻し、くるりと背を向けて出ていこうとした。 「ちょ、ちょっと待った。約束通り」 「残念ですが、偽装経緯”転校生”は廃棄します。事後処理班を派遣しますので冷静な対応をお願いします」 「待った待った。お嬢様…ではなく奥様」

2020-04-20 23:16:54
帽子男 @alkali_acid

周旋屋は必死に引き留める。 「それじゃこうしましょう。奥様は新しく赴任した数理の府の教授ってことで。身分証もありますよ」 「そうですか。ではそのように」 乙女は茶色の布封筒に入った書類一式を受け取って、外套の中にしまうと、請求書は後日別の職員が回収に来ると告げる。

2020-04-20 23:19:54
帽子男 @alkali_acid

そばで若者が吠える。 「おい!なら俺もその教授ってやつにしろ。こんなもん着てられるか」 「いや、その胸板で教授は無理でしょ…」

2020-04-20 23:20:52
帽子男 @alkali_acid

結局ガウドは金釦のついた黒い上着を肩にかけ、下は同じ色の黒い褲(ズボン)を履き、面白くななさそうに大股で、ダリューテの後ろについてゆく。 「くそ…なんかむかつく」 「ガウド生徒。ほかの学生や教師のいるところでそういった言葉遣いは慎みなさい」 「あ?」

2020-04-20 23:23:48
帽子男 @alkali_acid

二度とは繰り返さず、眼鏡の女教授は先を急ぐ。緊身裙に踵の高い靴を履いたなりで、歩幅は広くないが、足は恐ろしく速い。 男子学生は状況が半分も呑み込めないまま、とりあえず肩をそびやかし、ずんずんと大股についてゆくのだった。

2020-04-20 23:26:34
帽子男 @alkali_acid

古典の府。 狭の大地に散らばる伝承、神話、詩歌、奇譚を修め、究める場所。 学問の都でもひときわ閑静な一角に立つ校舎は、今は失われた統一王朝、最盛期のアルウェーヌ碧玉王の時代の様式を再現している。 ある棟には壁画で、ある棟には陶器による嵌細工(モザイク)で、ある棟には綴れ織りで

2020-04-23 19:51:53
帽子男 @alkali_acid

学生と教授にとっての関心事である過去の物語が描いている。 校庭のそこかしこで、老いも若きもが語り部となって、同窓の聴衆を前にさまざまな言語で故事や旧史を朗誦する。 ここでは書物さえも口に出して読み上げ、身振りを交えて朋輩に説き話すべき道具である。

2020-04-23 19:57:04
帽子男 @alkali_acid

人目をはばかるように身を縮めて敷地に入った制服姿の少女は、あちこちから聴こえてくる物語の数々につい足を止め、尖り耳をうごめかした。 「ついに英雄フェルドゥニは牛頭の鉾を振るい、双蛇の女王ザハキの頭を打ち砕いた。恐るべき暴君はなお命脈を保ったが、もはや聖王の勝利はゆるぎなく…」

2020-04-23 20:01:26
帽子男 @alkali_acid

「この易姓革命により、圧政を敷いた天子は倒れたが、なお国は麻のごとく乱れ飢饉と疫病は収まらず、万歳の歴史を持つ大餐庁は戦乱のうちに灰燼に帰し、二度と再建されることはなかった…」

2020-04-23 20:03:55
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