剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ2(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

「最後の恐怖の大王は初代がそうであったように赤い襤褸一着をまとって刑場に引き出され、民衆の手で石もて撃ち殺され、再び秩序は蘇り、僧侶、武人、常民、奴隷の別によって天下は清らかさを取り戻したのであるが…」

2020-04-23 20:05:55
帽子男 @alkali_acid

「戦士の国の凶暴な最後の女王は、己も民も決して隷従しないと三度、木の笛に誓い、三度兵を起こしたが、風鷲の教えに目覚めた弟の手によって首を失い、国土は列強の分割により…」

2020-04-23 20:11:35
帽子男 @alkali_acid

教育の足りない少女には理解できない大昔の言葉や異郷の言葉も多かったが、しかし聞き取れるものは不思議とどれも物悲しい話だった。 剪定の行き届いた木を随所に配し、あちこちに青々と芝生を広げた敷地に、ぽつねんとたたずんでいると、物陰に隠れていた黒犬が駆けてきて鼻面でそっと腰を押す。

2020-04-23 20:19:22
帽子男 @alkali_acid

「ワフ、ワフ」 「あ、うん…うん…いく」 小柄な娘はてくてくと道を辿って校舎へ進む。 学問の都に来てからというもの、しょっちゅういろんな学生がよく解らない理由でからんできたが、ここでは誰もちょっかいをかけるようすがない。

2020-04-23 20:21:10
帽子男 @alkali_acid

となれば自分から話しかけた方がよさそうだ。 いかにも物知りそうな、濃褐の背広を着た初老の男が通りがかったので、おずおずとあいさつする。 「こんにちわ」 だが向こうはまるで気づいたようすもなくぶつぶつと何か呟きながら通り過ぎる。

2020-04-23 20:23:26
帽子男 @alkali_acid

「にちわ…」 空振りに終わった少女はすっかり縮こまったが、そばの黒犬は周囲をきょろきょろと見渡し、伝説上の「千帆の都」の所在地について語り合う女学生の一団に近づくと、おん、おんと二回吠えてから周囲をくるくる回った。 一人が気づいて振り返ると、舌を出し、目をきょときょとさせる。

2020-04-23 20:26:33
帽子男 @alkali_acid

「まあ…恐水病かしら」 「興味深いわね。恐水病といえば実際、北方における吸血鬼説話の多くは」 「それこそ習合でなくて?」

2020-04-23 20:27:29
帽子男 @alkali_acid

黒犬は尻尾を振りまくり、おどけたしぐさをしては地面をごろごろ転がり、また跳ね起きてあたりをくるくる回る。 「駆除すべきかしら?」 「あなたにできるの?」 「皆でよ。棒と網か何かあれば」 「網は難しいわねえ…そういえば漁りの巨人は豊漁の象徴というのがこれまでの多数説だったじゃない?」

2020-04-23 20:29:15
帽子男 @alkali_acid

やがて一人の女学生が、つい気を許してしゃがみ、犬の背を撫でる。 「クゥン」 「まあ…恐水病じゃないわきっと。空腹でおかしくなったのよ」 「解るわ。私もおなかが減ると急に周りのものをすべて壊したくなるし」 「野蛮ね。まるで巨釜担ぎのひだる神だわ」 「飢饉の擬人化。でも豊穣伸の一面も…」

2020-04-23 20:31:51
帽子男 @alkali_acid

しばらく女学生の話題の中心になったところで、黒犬はぱっと輪を抜け出して、はらはらと離れたところで見守る少女のもとへ駆け戻り、側で座る。 「あら?あなたの犬?」 「付属の中等部の子?」 「低等じゃない?」 「制服は中等のよ。私着てたし」

2020-04-23 20:33:34
帽子男 @alkali_acid

女学生の群は今度は少女の方へぞろぞろと移動する。 「何か思い出すわね…あ、禍を呼ぶ吟遊詩人じゃない?」 「黒犬を連れた少女は好まれる主題。黒犬は男性性や欲望を、少女は無垢と略奪されるべき対象を暗喩している」 「西方で一時期黒犬が不吉のものとされてきたせいもあるでしょうね」

2020-04-23 20:36:07
帽子男 @alkali_acid

ほとんど何を言ってるか解らないながら、少女はあたりの年上の娘等を直視しないよう視線を落としつつ、勇を鼓して尋ねた。 「あのう…よ、妖精の…ことを…研究してる…先生を探してるんですけど」 「妖精?どの妖精?」 「妖精説話は大きく分けて三類型あるんだけど、恐らくこの子が言ってるのは…」

2020-04-23 20:38:15
帽子男 @alkali_acid

女学生の群はしばらくあれこれと仮説を重ね、有名らしい学者の論文を次々に引用して議論をしてから、結論に達した。 「リンディーレ先生でしょうね」 「妖精学ならリンディーレ先生」 「この子そういえば耳が尖ってるじゃない」 「耳が尖った異民族を超自然の存在とする例は妖精以外に二百はあるわ」

2020-04-23 20:41:21
帽子男 @alkali_acid

少女はずれていた耳当てを慌てて直し、三角の耳を隠し直した。 しかし年上の娘等はさして意に介さず、ひとりが、リンディーレ先生なる人物のいる研究室の場所を指で示したあと、もうひとりが書き損じの紙にさらさらと達筆に地図を描いてくれた。 「気を付けていってらっしゃいね」

2020-04-23 20:44:46
帽子男 @alkali_acid

「付属の校舎よりだいぶ広いのよここ」 「リンディーレ先生は優しいけど、調べものに夢中だと気付かないこともあるからね」

2020-04-23 20:45:32
帽子男 @alkali_acid

とりあえず簡単な案内を記した紙きれをもらった少女は、不安げに眺めながらとぼぼとぼと歩き出す。かたわらで黒犬が跳ねて、即席の地図を覗き込もうとする。 「地図、わかるの?アケノホシ」 「オン!オン!」 「じゃあ…どうぞ…」

2020-04-23 20:47:48
帽子男 @alkali_acid

四つ足の方は一目見れば満足らしく、二つ足の方を導いてさっさと駆けていき、距離が空きすぎるとまた走って戻ってくる。 少女はおっかなびっくり従いつつ、しかしなぜか道をそれそうになると、黒犬は警告の叫びを発し、だめなら立ちふさがり、最後は短い裳裾を咥えてひっぱったり、尻を押したりして

2020-04-23 20:49:41
帽子男 @alkali_acid

正しい針路に戻す。 「ごめ…」 「ワフッ」 アケノホシと呼ばれた黒き獣は、あくまで機嫌よく小柄な娘に返事をする。 「なんか…アケノホシって…カミツキより…世話焼き…」

2020-04-23 20:51:04
帽子男 @alkali_acid

初めは何となくぎこちなかった一人と一匹のつきあいは、古典の府を探索するうちにだんだんと打ち解けてきた。 校舎に入る手前で、アケノホシはまた気を利かせて、目立たぬよう物陰に引っ込む。少女は小さく手を振ってから、耳当てがずれていないか再確認して開放したままの扉をくぐる。

2020-04-23 20:53:12
帽子男 @alkali_acid

壁や廊下や天井もさまざまな伝承に満ち溢れていた。少女はつい魅入りそうになるのをこらえて、目指す研究室を探す。 しばらく二階と三階を往復したあとリンディーレ・リンダール教授と表札の入った扉に何とかゆきあたる。 不在。ともう一枚札が入っている。 暗い膚をした娘はがっくり肩を落とした。

2020-04-23 20:55:27
帽子男 @alkali_acid

「何かご用?」 背後からやわらかな声がかかる。振り返ると、ほっそりした、それこそ物語に出てくる妖精のような中年の婦人が立っている。手にはかなり重そうなぶあつい装丁の本を何冊か抱えており、意外と力はあるようだ。

2020-04-23 20:56:55
帽子男 @alkali_acid

「あの…とど、届け物を」 「そうなの。ちょっと待ってね」 婦人は爪先で扉を蹴り開けて戸口をくぐると、左右に肩を揺らしつつ中へ入ってすでに巻物や書付や綴本でいっぱいの机にさらに山を積み足した。 「よければ入って、扉をしめて下さる?」

2020-04-23 20:58:54
帽子男 @alkali_acid

少女が従うと、婦人は決然と椅子の上に載った資料をどかすと、自分の使っていらしい椅子に移してから、空いた方を指で示した。 「どうぞお座りになって」 「あ、大丈夫です」 「まあ遠慮しないで」 婦人の方は机の端のわずかな余白に腰を載せる。 「さあ」

2020-04-23 21:01:39
帽子男 @alkali_acid

少女が仕方なく椅子に腰を下ろす。何やらぎしりと音がするが一応壊れたりはしない。 「私がリンディーレですけれど。あなたは?」 「あ、あの…」 暗い膚の娘は、明るい肌の女の手の辺りを見つめ、やがて口を開く。 「ウィス…ティエと言います。渡瀬の街から来ました」

2020-04-23 21:03:43
帽子男 @alkali_acid

「渡瀬の街。随分遠いところから…」 「渡瀬の街の…東方人地区の…三日月の寺院の先生を…ご存じですか」 「渡瀬の街…どうかしらね…」 ウィスティエの問いに、リンディーレは顎に指を当てて考え込んだ。 「東方人の知り合いは多くないのですけど…その方は…なんてお名前?」 「えっと…」

2020-04-23 21:07:59
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