剣と魔法の世界にある学園都市でロリが大冒険するやつ2(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

「そうなんだ…」 「変わりもの同士ということです。とにかく私はこの説を大事に温めてきました。今もまだ日の目を見ませんが、いつかは…話を戻しましょう。影の国を太守として治めた黒の乗り手は八人。それ以前にもいたともされますが、定かではありません」

2020-04-23 22:16:46
帽子男 @alkali_acid

「八人はそれぞれ魔法の兜や巨釜、船などの呪具…財団の人達に言わせれば"遺物"を携えていましたが、とりわけ有名なのは指輪です。魔法の指輪によって、黒の乗り手は不滅の幽鬼となり、幾ら敵に倒されても蘇ったといいます」 「指輪…ゆびわ…」 「指輪こそが黒の乗り手の力と命の源だったとも」

2020-04-23 22:23:30
帽子男 @alkali_acid

「指輪…」 「指輪は九つあったといいます。親となる一つの指輪と子となる八つの指輪。指輪同士に互いに結びつき、離れても呼び合ったとか」 「…っ」 「ですが影の国が地上から消えるとともに、黒の乗り手も、指輪の存在も見聞きされなくなりました」

2020-04-23 22:25:55
帽子男 @alkali_acid

リンディーレは口をつぐむと、混乱しつつも話についてきているようすのウィスティエをまたしばらくうかがった。 「風の司ロンドーは光の妖精でしたが、狭の大地と呼ぶこの世界を離れ、至福の地に去るにあたって、一冊の書物を残していきました。理由は色々と推測できますが、内容が妖精語なのは…」

2020-04-23 22:29:07
帽子男 @alkali_acid

教授は生徒の手になる本に視線を移す。 「妖精の誰かにあてたものだと考えられます。もしそれが同胞である光の妖精であれば、ともに至福の地へ渡ったはずですから、狭の大地に残していくのはおかしい。となれば、それ以外の誰か…妖精の血を引きながら…光の妖精とは異なる種族となった…」

2020-04-23 22:32:14
帽子男 @alkali_acid

「闇の妖精…」 答えてから、少女はあわてて唇を結び、手で押さえる。中年の婦人は得たりと首を縦に振った。 「あるいは。風の司ロンドーは、いつの日か袂を分かった闇の妖精が、狭の大地に舞い戻るのを予見していたのかもしれません。妖精族随一の賢者であったとも言われますから」 「でも…」

2020-04-23 22:34:27
帽子男 @alkali_acid

ウィスティエはどぎまぎしながら、身を軽くゆすって、どうにか質問を絞り出す。 「光の妖精は…闇の妖精と…仲…悪かったんじゃ」 「ええ。光の妖精の長であるアルウェーヌ王は、闇の軍勢との大勝負を制し、影の国を地上から消し去ったという物語があります」

2020-04-23 22:36:36
帽子男 @alkali_acid

「じゃあ…ロンドーってひとは…なんで…」 「確かにそうですね。光の妖精だったロンドーが闇の妖精のために本を残した理由…そこは私にも説明できない部分です…でも、やはりこの本はあなたにこそふさわしいと思います。ウィスティエさん」 「…………!?」

2020-04-23 22:38:45
帽子男 @alkali_acid

リンディーレはウィスティエに説く。 「あなたは、影の国の闇の妖精の血を引く。いえ、闇の妖精そのものだと、私は考えます」 「え…え」 「またぶしつけなことを尋ねますが、一族やご親戚の方は今どちらに?」 「…え…いません…」 「そうですか…」 「ごめんなさい…」

2020-04-23 22:41:20
帽子男 @alkali_acid

教授は考え込んでから、小さな学生にまた告げる。 「秘密を解く鍵は九つの指輪にあるはずです。あなたは先祖から受け継いだ指輪とか…あるいは指輪に類する言い伝えとかを、周りの誰かから聞きませんでしたか?」 「…えっと…え…あー…えー」

2020-04-23 22:44:25
帽子男 @alkali_acid

少女は答えあぐねた。脳裏に細鎖につないだ指輪を首にかけた黒い獣や鳥の姿が浮かぶ。 「もし九つの指輪に辿り着ければ、影の国と闇の妖精の真実が…明らかになると思うのですが」 「あわー…」 「とにかく。本はウィスティエさんがお持ちになって。ただ時々読ませていただければ嬉しい」

2020-04-23 22:48:13
帽子男 @alkali_acid

「はえ…え、でも」 「この古典の府に留まるあいだは、本にもあなたにも、財団は近づけさせません。安心してお過ごしなさいな」 「…はえ…」 「教員用の住宅に空きがありますから、そちらにお移りなさい。荷物はありますか?」 「え…はい…はい…」

2020-04-23 22:51:56
帽子男 @alkali_acid

教授は研究生を一人呼んで、付き添いとして少女につけ、ひとまず下がらせた。その日のうちに新居へ案内があった。 小ぶりだが庭もついている一軒家で、木立のあいだに埋もれるように建っている。家具はなかったが、とりあえず寝台と布団だけは数人の男学生が運んでくれた。

2020-04-23 22:56:30
帽子男 @alkali_acid

「荷物は明日引き取りに」 「はわ…はえ…」 「戸締りは忘れずに」 「またあとで夜に守衛が見回りに来るから」 「はい…」

2020-04-23 22:58:23
帽子男 @alkali_acid

がらんとした小宅に残った少女が、ぼんやりしていると、やがて扉を外からひっかく音がする。ぎくっとしたが、すぐ犬の鳴き声か聞こえた。 「…アケノホシ?」 「ワフ!」 間違いない。馬鹿そうな響きだった。 閂を外して招き入れると、黒犬がのそのそと入って来た。 「よかった」 「オン!」

2020-04-23 23:00:19
帽子男 @alkali_acid

「荷物…カミツキ達…街外れに置いたまんまだ…」 「ワフ!ワフ!」 「え?とってくる?」 「ヘッヘッヘッヘッ」 「ばしょわかる…?」 「クゥン」 「え…じゃあ言うねあの…まず…なんだっけ…」

2020-04-23 23:01:47
帽子男 @alkali_acid

少女が要領を得ない説明をどうにか済ませると、黒犬は一声啼いてまた出て行った。 「だいじょぶかな…」 自分を棚に上げてウィスティエはそう心配する。 とりあえず夜食と朝食用にもらった麺麭をむしってはみ、水筒から花茶を飲む。腸詰には手をつけない。犬が欲しがるかもしれないから。

2020-04-23 23:04:52
帽子男 @alkali_acid

ひさしぶりに妖精の書を開いて、指でなぞり、低く豊かな男の声に聴き入りながらすこしおさらいをする。はじめはだいぶ苦労したが、だんだんと字と音と意味が一つになって頭に流れ込んでくる。 「ひとたび呪い…生ずれば…おのずから…はびこり…断ち難し…」

2020-04-23 23:06:31
帽子男 @alkali_acid

それでもうつらうつらし始め、やがて眠り込む。 夢の中ではまた妖精の騎士があらわれ、少女を抱いて密林を葉ずれもさせずに闊歩する。星の並びに季節と方角を読み取る術を語り、花の色と香りから薬効と毒性を解き明かし、蝶の踊りに天候をうかがい知る。 そうしてあとはただ踊り、戯れる。

2020-04-23 23:09:29
帽子男 @alkali_acid

「ダリュ…テ…さ…おかあ…」 しなやかで強い腕と、やわらかに温かい胸の感触をおぼろに思い、ウィスティエはままやき、やがてぱちりと瞼を開く。

2020-04-23 23:11:09
帽子男 @alkali_acid

いつしか頬を涙が伝っている。 「あれ?」 「ワフ!」 黒犬が床の上で尻尾を振っていた。かたわらにはなじみの合切袋が置いてある。 「あ…とってきたの…」 少女は急いで寝台から降りて、袋に近づき、紐を解く。たちまち三つの影が飛び出す。

2020-04-23 23:12:54
帽子男 @alkali_acid

「ヴナ」 「ピョロロロ」 「キキー」 黒猫、黒歌鳥、黒蝙蝠。 翼ある二体は部屋を飛び回り、四つ足の一体はうんと伸びをする。

2020-04-23 23:14:15
帽子男 @alkali_acid

「ワフ!ワフ!」 黒犬が吠えると、三体は一斉に反応した。 「キ」 「クゥン」 寝台の縁からさかさまぶらさがった蝙蝠、チノホシは、上下逆に黒犬、アケノホシと相対し、互いに敬意をこめて挨拶を交わしたようだった。

2020-04-23 23:16:08
帽子男 @alkali_acid

黒猫カミツキは、ふんふんと鼻を鳴らしてから、アケノホシに近づくと、すんすんと前肢のあたりの匂いを嗅ぎ、やがてぐるぐるぐるぐると周囲を巡ってから、何と喉を鳴らし始めた。 ごろろろろろろと。 こんなにでれでれしたようすは初めてだ。見守る娘は愕然とした。

2020-04-23 23:18:12
帽子男 @alkali_acid

しかし一番かしましくちょっかいをかけたのはやはり黒歌鳥のホウキボシだった。 「バカイヌ!バカイヌ!ピョロロロロロ!」 犬の頭に乗って、ばしばしと翼でぶったたく。 「キャウンキャウン!クーンクーン…ピスピス…」

2020-04-23 23:19:57
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