【英独建艦競争 ドイツ海軍の野望と蹉跌】

HIROKI HONJOさんのWW1までの英独建艦競争(あるいはヴィリーのやらかし)に関する解説。タイトルはツリーからそのまま流用しました。 とりあえず、ビスマルクはあの世でヴィリーをタコ殴りしても許される(;´Д`)
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HIROKI HONJO @sdkfz01

ちなみにドレッドノート級、インヴィンシブル級、クイーンエリザベス級はいずれもかつてアームストロング社で戦艦八島や初瀬を手掛けたフィリップ・ワッツの設計です。 (彼と日本の関わりは前編ご参照下さい pic.twitter.com/EpfETfCbfD

2020-05-08 17:10:06
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方やドイツ初の超弩級戦艦バイエルン級は従来の30センチ砲に替えて38センチ砲を主砲とし、1913年から15年にかけて4隻が着工。しかし、開戦後に2隻が完成するに留まり、残り2隻は解体されました。同艦級は帝政ドイツ最後の戦艦となります。 同じ期間に英国は超弩級艦8隻を着工、全艦完成pic.twitter.com/8QG77adhY1

2020-05-08 17:12:22
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こうして1913年頃を境に、英国海軍はドイツ海軍に対して質量ともに優位に立ったのです。 実際、1914年末の時点で英国は24隻の新戦艦(弩級以上)を有しており、この内10隻が超弩級戦艦でしたが、ドイツの新戦艦17隻は全て弩級艦で、超弩級艦は1隻もありませんでした。

2020-05-08 17:15:04
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巡洋戦艦については、英国は10隻を有し、うち4隻が34センチ砲を主砲とし、砲塔を首尾線上に配置した超弩級艦だったのに対し、ドイツが保有する5隻は全て弩級戦艦でした。(画像は英国のライオン級超弩級巡洋艦) pic.twitter.com/lJqlC1ylFi

2020-05-08 17:18:05
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つまり、1914年末の英国の弩級艦は戦艦14隻、巡洋戦艦6隻。超弩級艦は戦艦10隻、巡洋戦艦4隻。総計34隻。 ドイツには弩級艦しかなく、戦艦17隻、巡洋戦艦5隻、総計22隻。 さらに、英国は1915年以降、超弩級艦12隻を就役させたのに対し、ドイツは同4隻のみ。 pic.twitter.com/eSNx0BPJg4

2020-05-08 17:19:32
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かくして1916年には英国の弩級艦・超弩級艦は40隻に達し、ドイツの24隻を圧倒。ほぼ対独2倍の目標を達成します。今や、英国は熾烈な競争に勝ち抜いたのです。 なお、他国の新戦艦(弩級以上)は1914年8月時点で米10、仏4、伊3、日4。いかに英独の戦力が突出していたかが良く分かります。 pic.twitter.com/fkmi4fCvoz

2020-05-08 17:20:51
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英国はなぜ成功をおさめたのでしょうか。 理由の一つとして、有力な民間造船所の存在が挙げられます。彼らは日本(20世紀初頭まで)やトルコ、そして南米向けに輸出用軍艦を生産し、利益を上げながら巨大な建艦能力を構築していきました。 pic.twitter.com/eNZYzCNOf6

2020-05-08 17:22:16
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日本海軍による1913年の推計では、英国は32隻の弩級艦を同時建造可能で、うち29隻が民間造船所。残り3隻が海軍工廠です。これはドイツの22隻アメリカの16隻を大きく上回るものでした。 この生産力がモノを言ったことは否めません。 pic.twitter.com/R8FM4jQqM9

2020-05-08 17:23:51
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これに対しドイツでは、ほぼ自国向けの需要しかなかったため、クルップなどの兵器産業は設備投資に慎重で、供給能力の不足を引き起こしました。特に装甲板の生産はしばしば遅延し、軍艦建造の妨げとなります。

2020-05-08 17:25:07
HIROKI HONJO @sdkfz01

もう一つの理由として、予算の確保があります。英国では所謂「人民予算」が1909年に議会に提出され、紆余曲折の末、1910年に成立します。これは建艦費と社会保障費捻出のため、富裕層の所得と資産に対する課税を大幅に強化するもので、貴族やジェントリが没落する一因になったほどでした。 pic.twitter.com/oeERLXg4V0

2020-05-08 17:26:37
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この結果、英国の海軍予算は1908年の3,220万ポンドから1913年の4,880万ポンドへと急伸。同時期のドイツの海軍予算(1,735万ポンド→2,400万ポンド)を引き離したのです。 建艦費用について見ると、1910年から1914年にかけて英国は年平均1,570万ポンド、ドイツは1,140万ポンド。 pic.twitter.com/jCYu8fQp0W

2020-05-08 17:28:39
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ドイツは高関税によって海軍費を賄おうとしましたが不徹底に終わり、1913年からのバイエルン級4隻着工(2隻完成、2隻解体)をもって艦隊拡張を放棄します。 一方のイギリスは1913年から14年にかけてクイーンエリザベス級5隻、リヴェンジ級5隻を着工し、その優位性を確立したのです。 pic.twitter.com/k3wqfqPoZG

2020-05-08 17:30:54
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クイーンエリザベス級の建造費は、ドレッドノートの173万ポンドを大きく上回る268万ポンド。このような艦を大量に建造できたのは、社会的な痛みを伴う税制改革あってこそでした。

2020-05-08 17:35:00
HIROKI HONJO @sdkfz01

また、少々マニアックではありますが、植民地の貢献も忘れてはいけません。 マレーからの献金で戦艦1隻(マレーヤ)、オーストラリアとニュージーランドからの献金で巡洋戦艦2隻(オーストラリア、ニュージーランド)が建造されているのです。 pic.twitter.com/97svin8jus

2020-05-08 17:39:10
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しかし、英国が勝利した最大の要因は、ドイツ国家指導層の戦略的無定見にこそ求められるでしょう。 陸軍大国であるフランス・ロシアと対立を深めながら、同時に海上で英国と覇を競う。いかにも無茶な試みです。 1914年のドイツの軍事費は1億1,100万ポンドで、英国の7,680万ポンドを大きく上回ります。 pic.twitter.com/YOlEdCQPQn

2020-05-08 17:42:22
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しかし、同年のフランス・ロシアの軍事費は合計で1億4,560万ポンド。ドイツが陸と海とで劣勢に立たされるのは必然だったのです。 特に1911年の第二次モロッコ事件の後は陸軍費が優先されるようになりました。1911年、ドイツの軍事費に占める海軍の割合は35%でしたが、翌年には25%に低下します。 pic.twitter.com/MkxDorIlCi

2020-05-08 18:07:04
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HIROKI HONJO @sdkfz01

1913年、ドイツはバイエルン級の着工をもって艦隊の拡張を打ち切りました。一方、英国の軍事費がGDPに占める割合はドイツよりも低く、まだ余力を残していました。 英国は巧みな外交で仏露と連携し、思い切った税制改革民間造船所の活用によってドイツとの競争に勝ち、脅威を封じたのです。 pic.twitter.com/i4fgphZLe7

2020-05-08 18:08:35
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HIROKI HONJO @sdkfz01

こうしてドイツ海軍はローヤル・ネイヴィーと干戈を交える前に敗北を喫し、ウィルヘルム2世の世界政策は破綻したのでした。 (長くなり過ぎたので、色々カットしました。すみませんm(__)m) pic.twitter.com/ppSJDgRS8s

2020-05-08 18:10:09
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HIROKI HONJO @sdkfz01

前編のリンクがうまく張れていませんでした。 こちらをご参照頂けますと幸いです。 twitter.com/sdkfz01/status…

2020-05-08 18:12:21
HIROKI HONJO @sdkfz01

【明治期の日本海軍と英国兵器産業】 日露戦争で活躍した主力艦の多くは、英国の民間造船所で建造されました。 これらの艦があって初めて、対馬沖の劇的な勝利が齎されたのです。 ところで、なぜ海軍工廠ではなく民間造船所が最新鋭艦を造ったのでしょうか? そして、海外へ輸出し得たのでしょうか? pic.twitter.com/EpfETfCbfD

2020-03-21 17:06:31
HIROKI HONJO @sdkfz01

【CM】 WW1の最中、ブリテン上空で死闘を演じたツェッペリン飛行船団を描いた拙著、好評発売中です。 読者様から喜びの声が続々! 「憧れの先輩に告白されました!」(16歳JK) 「リウマチに、効く」(82歳無職) amazon.co.jp/dp/4908862680/

2020-05-08 18:15:21