日本労働研究雑誌 2020年2・3月号~学界展望:労働法理論の現在 / 特集:産業としての就職活動
[PDF] 期間・時間・呼称から考える多様な雇用形態─無期短時間正社員の可能性 小前 和智(東京大学大学院博士課程) 玄田 有史(東京大学教授) / jil.go.jp/institute/zass…
2020-05-30 00:40:33多様な正社員もしくは限定正社員のなかでも,無期短時間正社員が,男女を問わず,有利な処遇に広く直結していることを発見した。加えて,有期短時間正社員ほど職場外訓練に恵まれたり,有期フルタイム正社員からも狭義の正規雇用への転換が進みやすい等,従来研究とは別のかたちで
2020-05-30 00:40:34賃金に限らない正社員呼称の処遇上の優位性も確認された。安定的な雇用機会の拡大を図った労働契約法の改正による有期雇用から無期雇用への転換と併せ,無期短時間正社員は未だ限定的なシェアに留まるものの,当該雇用形態から狭義の正規雇用への移行過程の一つとなる可能性を含む事実が発見された。
2020-05-30 00:40:358つの形態のうち期間の定めがなく(無期雇用),就業時間としてはフルタイムの契約を結び,かつ職場で正社員の呼称を与えられている者を「狭義の正規雇用」とし,それ以外を「広義の非正規雇用」と定義する。その上で「狭義の非正規雇用」を有期雇用の短時間就業する呼称正社員以外の雇用者に限定した
2020-05-30 00:40:37就業実態パネル調査(JPSED)と労働力調査(LFS)の比較 pic.twitter.com/gYvjtor6kV
2020-05-30 00:40:38就業実態パネル調査(JPSED)と労働力調査(LFS)の比較 pic.twitter.com/SehFnpTp8F
2020-05-30 00:40:38本論文の内容に関連する両データの乖離として,「全国就業実態パネル調査」では,『労働力調査』に比べ,多様な正社員のうち,無期短時間正社員の割合が低く,一方で有期フルタイム正社員の割合が高めに表れていることには留意が必要である
2020-05-30 00:40:39狭義の非正規雇用を基準に,各雇用形態の賃金水準を比較すると,3つの要素(無期雇用,フルタイム,正社員)のうちでは,やはり正社員の呼称が職場で付与されていることが高賃金につながっている。仮に,有期契約の雇用であり,かつ短時間の就業であっても,呼称が正社員であれば,
2020-05-30 00:44:39男性では1.24,女性で1.54と,ともに狭義の正規雇用に比べても高い賃金となる。反対に無期雇用であり,かつフルタイムであったとしても,呼称が正社員でなければ,男女ともに0.92と,狭義の非正規雇用に比べ,賃金は数値上低くなっている(ただし統計的には有意ではない)。
2020-05-30 00:44:40OJTでは,広義の非正規雇用のうち,男女ともに無期短時間正社員が,訓練を受ける確率は有意かつ最も高くなっている。狭義の正規雇用についても,狭義の非正規雇用よりは,OJTを受ける確率は有意に高い。
2020-05-30 00:44:42しかし,限界効果の比較からはむしろ無期短時間正社員の方が狭義の正規雇用よりも被訓練確率は高いことがわかる。先の分析では相対賃金に関して無期短時間正社員の優位性が確認されたが,その背景の一つとして,職場訓練機会が相対的に多く提供されていることが,ここからは示唆される。
2020-05-30 00:44:43男性の場合,無期短時間正社員が,安定的な雇用機会を保証すると同時に,狭義の正規雇用に移行するための重要な経路となっていることが示唆される。
2020-05-30 00:45:53男性のみならず,女性についても,無期短時間で働きつつも,職場では正社員として処遇されていることが,安定した正規雇用と雇用機会の確保の両方につながっている
2020-05-30 00:45:55狭義の正規雇用への企業内転換に及ぼす影響(プロビット分析) pic.twitter.com/mUc7JhwIxS
2020-05-30 00:45:55賃金と雇用形態の交差項を加味したモデル 2 の推定結果からも,男性では無期短時間正社員の転換確率が有意であり,かつ限界効果は最も大きい。ただし,無期短時間正社員と賃金の交差項は有意に負である。同様に無期短時間非正社員と有期フルタイム正社員の賃金の交差項目も,有意に負となっている。
2020-05-30 00:45:57(・д・)ホォー これらの結果からは,低賃金の非正規雇用ほど,雇用形態の違いによる影響は大きいものの,賃金水準が高まるにつれてその影響は次第に弱まることが示唆される。
2020-05-30 00:45:58時間あたり賃金の各分位点における雇用形態の限界効果 pic.twitter.com/Jzviy8FKRt
2020-05-30 00:47:04男性の場合,低賃金層の非正規雇用からの転換に際して,無期短時間正社員であることが一つの決め手となっている。言い換えれば,低賃金の無期雇用正社員男性ほど,短時間からフルタイムへと就業時間を変更することによって,狭義の正規雇用への企業内転換が柔軟に行われやすいことを意味している。
2020-05-30 00:47:05一方,女性の場合,賃金水準にかかわらず,有期フルタイム正社員からの企業内転換確率が一貫して最も高い。分布上,より高賃金のフルタイム正社員の女性ほど,有期雇用から無期雇用への変更を通じて,企業内転換されることが多くなっている。
2020-05-30 00:47:06ただし,女性でも無期短時間正社員は,賃金分布にかかわらず,狭義の非正規雇用に比べ,安定して10%ポイント前後の範囲で転換確率が高く,それだけ転換に際しての有力な雇用形態となっている
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