青い翼の乙女と白い眼の少年の物語・ほか(#えるどれ)

おねショタの発作がね。 まとめは以下のWikiからどうぞ https://wikiwiki.jp/elf-dr/
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帽子男 @alkali_acid

「…んー…オオグイ。明りは雷の方にしたってや」 「クルルル」 黒海豹の指示にすぐ黒長虫は口から溢れる火を消し、代わりに角の間に雷を弾けさせる。 「…何や…乱暴なことしよったんやなあ」

2020-07-13 21:05:15
帽子男 @alkali_acid

並んだ像の一角が削れている。ほかの像もあちこち叩き壊されているものがあった。恐らくは銘板のようなものがはめ込まれていた場所は剥がされ、運び去られている。 「…妙な海賊やわ」 「海賊…がやったの」 「黄金やら宝石やら以外も持ってく変わりもんの海賊やな…まあええわ…くんくん…」

2020-07-13 21:08:08
帽子男 @alkali_acid

ミチビキボシは砕けた像の一つに近づいて髭と鼻をひくつかせた。 「ほわー…ディヴァはん…商っとった一番のええ匂いの香料をこない像に隠したんやな…どれも…ええ男にぴったりの匂いやな!」 それから鰭で差し招くと、ウィストは近づいておっかなびっくり顔を近づける。 「いい匂い…」

2020-07-13 21:10:30
帽子男 @alkali_acid

「王の香料商ディヴァのとっときや…ほんで…焼きもんの像の…この骨のかたちと肉のつきかた触ってみ?むちゃええ男の体やんか!」 「…?」 「ええ男をかたどった像に…ええ匂いの香料を隠して、精霊の魔法で千年の先まで残す…ほんま…ディヴァはんは、ええお男の鑑やわー」 「…はえ…はぇ…」

2020-07-13 21:16:23
帽子男 @alkali_acid

「ほんで…男盛りの時だけやのうて…年取ったり…太ったり、痩せたり…広い曙の大地の色んなとこのひとやら、三日月の民やら、安息の国の民やら…暑き香料の地に…竜を崇める国も…世界の西北のも…ディヴァはんのであったええ男すべてが一つ一つ作られとる…あ、ぴんと来た」

2020-07-13 21:18:59
帽子男 @alkali_acid

「は…はえ」 「アメノハテはんの泥人形こさえる術やわ!肉の器のかわりにあれもろた砂漠の精霊はむちゃ怒っとったけど、最後はあの術うまいこと覚えて、焼き物にしてええ男のかたちを留めるのにつこたんや…ほんま…ディヴァはんの冴えっぷりには…ワテ降参するしかないわ」

2020-07-13 21:21:45
帽子男 @alkali_acid

「はえ…」 「たまらんわこの腰…」 「はえ…」 興奮のきわみにある黒海豹から、半歩離れて、頭巾の仔は生返事を繰り返すしかなかった。 何か。 ちょっと。 嫌だ。

2020-07-13 21:23:56
帽子男 @alkali_acid

「あ、あかん鼻血出た」 「だいじょうぶ?」 「上向いとく」 「うん…」 「んー…何や…運び去られとるんわ…ウィストの年より下ぐらいの坊ちゃん方の像やな」 「そうなの?」 「ええ男の像壊したりほっぽったり坊ちゃんの像だけ持ってくの変わった海賊やわ。海賊トラザメ…がやったにしては最近やし」

2020-07-13 21:27:51
帽子男 @alkali_acid

黒海豹の言葉通り、あたりを満たすいい匂いのいい男の像は、老若人種体形さまざまではあったが、少年の年頃に当たる像だけが見当たらない。恐らくは置いてあっただろう場所から消えている。 「どうしたんだろ…」 「解らん…何や焼きもんで作った書き置きも持ってかれとるし…」

2020-07-13 21:30:16
帽子男 @alkali_acid

ウィストはぶるっと急に震えが来た。 「ちょっと…お手洗い…」 「一緒行こか?」 「い、いい…」 この像の間で粗相はできないので、気が咎めるがどこか目立たない場所で済まそうと歩き出す。頭巾からはそっとオオグイをつまみとって放つ。 「ごめん。あとで…」

2020-07-13 21:32:23
帽子男 @alkali_acid

二匹の黒き獣を遠ざけてから、歩き出したところで、いきなり何かを踏む。かちりと音がする。 「はぇ…?」 洞窟の床としか思えない場所から巨大な箱があらわれ、すっぽりと少年を包み込んだ。

2020-07-13 21:34:04
帽子男 @alkali_acid

「ぴぎ!?」 いきなり旋回するぎざぎざの刃と錐でびっしり埋め尽くされた狭い空間に閉じ込められ、頭巾の仔は衝撃に固まった。 「ひっ…ひぁああああ!?」 鉤が飛び出して服と覆布をひっかけ、拘束具が細首を絞めつける。

2020-07-13 21:36:28
帽子男 @alkali_acid

続いて目の前にくわしい箱の内部構造を描いた図面があらわれる。人間に効率よく苦痛を与えながらできるだけ長く生かしてばらばらにしていく装置らしかった。 しかもわずかな衝撃を与えるだけで一気に動作が加速する。 「ウィストー」 「グルルルル」 外から連れの声がする。もし二匹が何かしたら、

2020-07-13 21:38:33
帽子男 @alkali_acid

中にいるものは目玉をえぐられ、鼻をそがれ、舌を抜かれたあげく内臓を掻き出されて死ぬ。 少年は、近頃めきめきと上達した工芸の勉強によって図面の説明がよく理解できた。ちっとも嬉しくなかった。 「う…うぁ…ぅ…」

2020-07-13 21:40:51
帽子男 @alkali_acid

図面が捲り替わると同時に、ちょうど腕の高さに二つの穴が開く。中では挽肉器のような禍々しい突起だらけのからくりが回転している。 鍵穴、という風に図面は説明していた。 両手をいれれば箱は開く。出られる。 ただし鍵として使った腕がどうなるかは想像に難くなかった。

2020-07-13 21:43:17
帽子男 @alkali_acid

箱を作った誰かは、全体を気の利いた遊戯か賭博と考えているようだった。決まりは単純。両手と引き換えに箱から出るか、全身をゆっくり責め苛まれるか。 黒蝙蝠から毎日指導を受けているおかげで、すべてが把握できたウィストは、涙をあふれさせ、気を遠くしかけた。 「クルルル」

2020-07-13 21:45:31
帽子男 @alkali_acid

耳元であるかなきかのかぼそい鳴き声がする。 我に返ると、糸のように細くなった黒長虫が、箱のあるかなきかの隙間を擦り抜けて、そばまで来てくれたようだった。 「おお…ぐい」 「クルルル」 「う…うぇぅ…ありがと…う…」 「クル」 竜の顎が少年の唇に触れ、一人と一匹の影は溶けて合わさる。

2020-07-13 21:48:24
帽子男 @alkali_acid

箱が内側からたわんだ。華奢で丈の低い男児に代わって、大兵肥満の巨漢が獰猛な笑みを浮かべて、刃の檻の中に立っていた。 「うははは!命さ苦しめながら殺す箱だか!料理道具にええかもしんねえだな!」 黒の料り手はまったくためらいもなく左右の太腕を鍵穴になっている挽肉器に突っ込んだ。

2020-07-13 21:50:54
帽子男 @alkali_acid

たちまち、からくりは肉も骨もまとめてすり潰し捩じり折ろうとする。 しかし人間がこしらえた鋼鉄は竜の鱗にかすり傷ひとつ付けられない。 「んだか」 魔人が力を籠めると、箱は振動し、軋みをさせる。鬣から爆ぜた雷が内部を焼き、耳まで裂けた口からほとばしる炎の息吹が図面を舐め尽くし焦がす。

2020-07-13 21:53:25
帽子男 @alkali_acid

太い尾が旋盤や錐や鋸刃をまとめて弾き飛ばし、からくりの内部で竜巻を発生させると、箱はとうとうばらばらになった。 「上手にできてたのに、もったいねえだ。チノホシさがっかりするだな」 「オオグイ。おおきに」 のんびりとミチビキボシが呼びかける。

2020-07-13 21:56:20
帽子男 @alkali_acid

「ウィストさオラの薄焼菓子ちゃんみてえにやわこくて甘くて、たいしたご馳走だもの。下手な料理にさせらんねえだ」 「ほわー…」 「じっくり思案すっだ」

2020-07-13 21:59:30
帽子男 @alkali_acid

巨漢の影は再び溶けて小柄な少年と小さな蛇身に分離する。 「はわ…わ…」 ぼろぼろになった服を掻きよせながら、少年はまたうずくまる。完全にちびったので。 「ウィスト。いっぺん汽車戻らん?」 「うん…」 「あ、ちょい待ち」

2020-07-13 22:01:07
帽子男 @alkali_acid

黒海豹はすばやく床を滑って、ばらばらになった箱の残骸から、図面の焼け残りを咥え上げる。途中から文字がびっしりと書かれた手紙になっている。 「ウィスト…読める?」 「なん…とか」

2020-07-13 22:05:24
帽子男 @alkali_acid

内容は大意をまとめればこうだ。 「レオノフ。君が注文した爆弾だの落とし穴といった、大味なしかけだけでは、人間を本当の尊厳に目覚めさせるには不足だ。なぜなら人間とは、真の逆境においてこそ全身全霊を傾けて解決をめざし、知恵と勇気を振り絞るものだからだ」

2020-07-13 22:10:25
帽子男 @alkali_acid

「今の箱はそれを理解してもらうための、ちょっとした贈り物だ。君はあの、私がどうにも感心できない生命博物館とやらから、またこの遺跡にまた舞い戻り、愚劣な偶像の搬出を続けるつもりだろうが。せっかくの機会だ。一度生命の意味についてもう一度考え直してみるといい。ジーグサウより」

2020-07-13 22:13:46
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