昨日発生していたサイトログインできない不具合は修正されております(詳細はこちら)

青い翼の乙女と白い眼の少年の物語・ほか(#えるどれ)

おねショタの発作がね。 まとめは以下のWikiからどうぞ https://wikiwiki.jp/elf-dr/
2
前へ 1 ・・ 3 4 6 次へ
帽子男 @alkali_acid

雌雄は人間のように小屋で過ごすこともあれば、禽獣のように外で過ごすこともあった。どこででもまぐわい、貪りあった。 やがて二人が逢瀬に選んだ入江の一つで、誰かがこしらえた見事な双胴の小舟を見つけた。

2020-07-12 01:05:06
帽子男 @alkali_acid

しっかり食料や水を積み込める作りで、島の周囲の絶壁を抜ける秘密の水路を記した海図も磁石も置いてあった。 「ここ、出て、いける」 マンドゥロがそう述べるとルゥルァは頷き、翼を腕に戻すと、海軍らしいてきぱきとした動きで装備を検めた。 「西にも東にもいける」

2020-07-12 01:07:51
帽子男 @alkali_acid

「どっち…いきたい?」 「どっちでも。ちゃんと、ここ、帰ってくるなら」 乙女がゆっくり話すと、注意深く聞いて意味を解した少年は、はにかむように笑った。

2020-07-12 01:11:53
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ さて次回「ウィストの狭の大地あっちこっち」シリーズは、 「んー…女のひとの話?ほなワテ昼寝してくる」 乞うご期待。

2020-07-12 01:14:37
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失ったものを取り戻すファンタジー #えるどれ 過去のまとめは見やすい Wikiからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/ さて舞台は列強の勢力がひしめく紅き海。

2020-07-13 19:56:48
帽子男 @alkali_acid

波の上で大砲を撃ち合う軍艦や、商船を突け狙う海賊。 とまあそういう話はよそに、妖精の騎士の宿敵たる黒の乗り手一行は海底を魔法の汽車に乗って走る。 水先案内は黒海豹。眼は見えぬというのに、紅き海の海嶺も海溝もことこまかに記憶している。

2020-07-13 20:00:52
帽子男 @alkali_acid

「んー…このあたり精霊の船団がよう通ったとこやわ」 海獣はごろごろと先頭車両の床を転がる。 「クルル」 そばには黒い長虫がとぐろを巻いて鳴く。 「精霊のおにーはん方に助けてもろて海の底全部調べて潮のなりたち探ろう思ったんやけど…細かいとこは近南までしか解らんかったわ」

2020-07-13 20:07:07
帽子男 @alkali_acid

「ミチビキボシはどうしてそんなことしたの」 読んでいた本から目を上げて、頭巾の仔が尋ねた。 「海のはたらきどないなっとるか、知れたらおもろいやんか」 「うん」 「あと…んーなんでもない。そろそろつくんちゃう?」 「えっと…四半刻に汽車が進む速さが五十里で…方角は北北西で変わらず…」

2020-07-13 20:13:55
帽子男 @alkali_acid

もたつきながら計算を済ませた男児を、黒海豹は鰭でぱしぱし叩く。 「さまになってきたやんか」 「そ、そう」 「ま、おとーは…チノホシが何でも数字で考えるように教えとったからだいだいできとったけど」 「オ…オオグイも、料理の分量は数字で考えなきゃだめって」 「おちびええこと言うわー」

2020-07-13 20:16:32
帽子男 @alkali_acid

ミチビキボシと呼ばれた海獣が、オオグイと呼ばれたちっぽけな蛇身にじゃれつく。 「クルルル」 「だっこ」 「クルルルル」 「んー…ちっこいわー」 「クルルルル」

2020-07-13 20:17:34
帽子男 @alkali_acid

汽車は計算通り、紅き海に浮かぶ孤島の一つに辿り着いた。これで十三個目の島だ。 「赤い涙を流す髑髏…今度こそ当たりやとええな」 「うん。えっと…海流が船の接近を許さない、目立ちにくい小さな島で…」 「古い海嶺の上に立っとって、少なくとも千年は潮に削れて消えたりしとらんとこ」

2020-07-13 20:22:49
帽子男 @alkali_acid

果たして赤い涙を流す髑髏はあった。 巨人の頭蓋のような岩塊の二つの風穴から鉄分が溶出して真赤な涙のようだ。 「んー…ふふ…魔法の匂いしよるわ」 「ぴりぴりする」 「クルルル」 汽車から上陸するのは頭巾の仔ことウィストと、黒海豹ミチビキボシ、黒長虫オオグイ。

2020-07-13 20:25:17
帽子男 @alkali_acid

オオグイは小さく縮んで覆布の中に隠れ、ウィストのふっくらした頬に黒鱗の蛇身をうねらせ、こすりつける。 「クルル」 「はえ…命をだいじに…」 ミチビキボシは飼い主を背に載せたまますいーっと海を泳ぎ渡ると、浜辺で恐縮している荷を下ろし、例によって異常な機敏さで匍匐を始める。

2020-07-13 20:28:11
帽子男 @alkali_acid

「やっぱしディヴァはんのまとめとった精霊のおにーはん方の魔法や…ほんで赤い涙を流す髑髏が長い歳月過ぎても風雨に崩れず残っとる…せやけどほかの魔法もあんねんな…妖精…先生にちょこっと似とる…けどずっと拙い…んー…消えずに残っとるのはディヴァはんのとこの術が強かったおかげやな」

2020-07-13 20:30:38
帽子男 @alkali_acid

「どういうこと?」 「先行ってみよ」 「うん」 黒海豹はのこのこと赤い涙を流す髑髏岩の裏へ回り、さらに先へ進む。何と似たような巨岩はごろごろと無数に並んでいた。 「ほわー…全部赤い涙流しとる?」 「ううん…流してるのと…流してないのがある」 「ん…ほんまやな…匂いちゃうわ…ほな」

2020-07-13 20:33:05
帽子男 @alkali_acid

群なす髑髏岩の間を、人と獣の小さな影がこそこそとすり抜けていく。 周囲の岩が命を持って動き出したらどうしようなどと、ウィストは頭巾を手で押さえながら急に訳もなく不安になった。 「クルルル」 すると黒長虫が、少年のやわらかな耳たぶを甘噛みして鳴く。 「ありがと…」

2020-07-13 20:35:00
帽子男 @alkali_acid

赤い涙を流す髑髏だけを追っていくうちに、とうとうひときわ大きな髑髏岩がかっと口を開けた場所へ行き着く。 そこで一行が目にしたのは思いもかけぬ光景だった。 鉄格子と砂漿(モルタル)で固められた封印が、巌の大あぎとの喉奥を塞いでいる。明らかに近代の技術で作られたものだ。

2020-07-13 20:40:21
帽子男 @alkali_acid

「ほわー」 「…誰か…先に見つけたひといるんだ」 「先越されてもうた」 「どうする?なんか入っちゃだめそう…」 「ほんまや。立ち入り禁じられとる。んー。オオグイ?」 黒海豹の呼びかけに、黒長虫が男児の頭巾から飛び出すと、みるみる膨らみ伸び、周囲の髑髏岩を押しのける程の大きさになる。

2020-07-13 20:43:31
帽子男 @alkali_acid

「グルルルルルルル!!!!」 黒鱗の竜王は、瞳孔を縦に狭めると、唸りとともに牙を剥き、勢いよく封印にかじりつくと、鋼鉄をあっさりと食いちぎり、勢いよく咀嚼して呑み込んだ。 「グルルル」 「口に合ってよかったわ。ほないこウィスト」 「…っ!…!っ…」

2020-07-13 20:47:15
帽子男 @alkali_acid

ぱくぱくと口を開いたり閉じたりする少年をよそに、長虫はまた小さく縮んで頭巾の中に戻り、海豹は真っ暗な洞穴の奥へと畏れげもなく這い込んでいく。 「ま…待って…」 ミチビキボシを一匹で先へやると次は何をするか解らないと思ってか、ウィストは慌てて後を追う。

2020-07-13 20:48:47
帽子男 @alkali_acid

速足で歩きながら、首をすっぽり隠す覆布の中に手を入れて、オオグイにそっと触れて気遣う。 「て、鉄とかたべて平気なの?」 「クルルル」 「そ…そう…」 無用の心配らしかった。

2020-07-13 20:50:49
帽子男 @alkali_acid

洞窟の奥には幾つか罠がしかけてあった。 火薬を使って天井全体を崩落させるような凶悪な仕掛けもあった。 だがことごとく黒海豹の聴覚と嗅覚が闇の奥に張られた警戒線や踏むと働く開閉器などを捉え、ひょいとかわしてから外したり、手に負えなければ黒長虫に頼んで丸ごと食べてもらった。

2020-07-13 20:54:04
帽子男 @alkali_acid

オオグイは鼻から硝煙を吹きながら、恐らくは陸軍基地の兵器庫一つ分はありそうな量の焔硝をぺろりと平らげて何でもないようすだった。 「ぐ、具合悪くならない?」 「グルルル」 「そ…そう…」

2020-07-13 20:55:38
帽子男 @alkali_acid

奥へ奥へと進むにつれて闇が濃くなると、また小さく縮んだ黒長虫は、口から眩い炎を溢れさせ、松明替わりに前方を照らす。 「ありがと…」

2020-07-13 21:02:08
帽子男 @alkali_acid

最深部は、ちょうど髑髏の頭蓋にあたる場所で、椀を伏せたような広大な空間になっていた。 細い隧道から出たとたん、馨しい匂いがウィストの鼻をくすぐる。 「わぁ…」 色鮮やかに塗られた陶瓦(テラコッタ)の像が天井まで埋め尽くすように並んでいる。

2020-07-13 21:03:40
前へ 1 ・・ 3 4 6 次へ