生命美術館事件1(#えるどれ)

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前回の話

まとめ 青い翼の乙女と白い眼の少年の物語・ほか(#えるどれ) おねショタの発作がね。 まとめは以下のWikiからどうぞ https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 4319 pv 2

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 人間の故郷ともされ、最も古い歴史を持つ曙の大地。 その東岸内陸には大湖沼と呼ばれる湖の群がある。 いずれも塩気の混じらない淡水ながら、大きさは大海にも匹敵する。

2020-07-15 20:45:17
帽子男 @alkali_acid

とりわけ有名なのは深く長い「大峡谷の湖」と浅く広い「大平原の湖」の二つ。 周囲には多くの国々が栄え、戦争と平和、交易と略奪とを繰り返してきた。 大湖沼は曙の大地の北辺、葦の大河の国においても、「大河の源のひとつ」として古くから語られてきたが、

2020-07-15 20:52:23
帽子男 @alkali_acid

海へだてた異土の民が足繁く訪れるようになったのは、科学文明の台頭の後だ。 日差しに火傷をしやすい白い肌をした西方人は、初め風変わりな学者として、次には熱心な行商として、最後は凶悪な武器を帯びた軍勢としてやってきた。

2020-07-15 20:54:30
帽子男 @alkali_acid

西方人は、大湖沼の周辺に割拠する諸国に巧みに近づき、貿易の巨利で誘い、近代兵器の威力で脅し、憎しみの種をまいては、以前からあった諸国諸族の抗争を凄惨で激烈なものに加速させ、一方で次第に権力を掌握し、植民地へ変えていった。

2020-07-15 20:59:12
帽子男 @alkali_acid

西方人が次第に、大湖沼の人々を、君侯も民衆も奴隷へと貶めていくというのに、団結し抗おうという動きは鈍かった。 いや神々の名や王権のもとに戦士を集めよそものを追い出そうとする試みもないではなかったが、ことごとくが裏切りや反目を利用した姦計に遭って潰えた。

2020-07-15 21:02:46
帽子男 @alkali_acid

この地が明るい肌の支配者の軛(くびき)から放たれるのには、長い歳月を要するが、その影は去らず、血で血を洗う戦にも終わりは見えない。 とはいえ、この物語は曙の大地を病魔の如くむしばむ植民地支配の悪弊を説くものではない。

2020-07-15 21:07:59
帽子男 @alkali_acid

この物語は、エルフの女奴隷が騎士となり失ったものを取り戻すファンタジー。略して #えるどれ 過去のまとめは見やすいWikiからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/

2020-07-15 21:09:26
帽子男 @alkali_acid

大湖沼にある「大平原の湖」にはいくつもの島があるが、その一つにいつの頃からか西方式の美しい城館が建った。 主は不明。誰も上陸はおろか、近づくのさえ憚るようになった。西方人の荘園主に仕える傭兵や、残忍な湖賊さえも避ける。

2020-07-15 21:15:29
帽子男 @alkali_acid

城館には門もなけれ窓もない。八面ある壁にはそれぞれ、花が咲き果が実る園で、色鮮やかな鳥や獣とともに裸のまま戯れる女童や男児の姿が描かれ、晴れた日には湖面の照り返しを受けて眩いほどだが、ただそれだけだ。

2020-07-15 21:21:26
帽子男 @alkali_acid

住人がいるのかといえばどうもいるらしい。 時々空から巨大なものが下りてきては、壁の向こうへ消える。 城館の主は悪鬼か妖魅の類ではないかという噂が立つのも無理からぬことだった。

2020-07-15 21:29:45
帽子男 @alkali_acid

ブミも、空から降りてくる何かを目にしたことが何度かある。叔父の小舟でそばを通り抜ける時だ。 本当はよくないのだが、でもほかの漁師が恐れて寄らない水域では、魚は獲り放題である。 叔父は島に建つ城館の絵がはっきり見えるか見えないかという距離まで船を進めて、網を打つのが常だった。

2020-07-15 21:37:31
帽子男 @alkali_acid

ブミは見張りだ。 本当なら同じ年頃の娘は、弟や妹の世話をするはずなのだが、目が良いというので島で何かおかしなことがないか、ほかの漁師や海賊が近づいてこないかを見張る仕事を任されている。 「ブミ。何かあったか」 「何にもない。何にもない」 「そうか。よく見張れ」 「見張る。見張る」

2020-07-15 21:42:10
帽子男 @alkali_acid

ブミはうんとのびをして小舟からあたりを眺め渡した。 例の島が北にぽつんとあるほかはひたすら凪いだ水面が広がっている。 日が高くなる前に風が吹かないときっと暑くて頭が煮えてしまうだろう。

2020-07-15 21:49:36
帽子男 @alkali_acid

ブミが手でひさしを作ってもう一度周囲をうかがおうとした刹那。 空を切る音とともに頭上から何かが降って来た。雨ではない。鳥でもない。 網だ。大きな網がブミと叔父の乗る船を丸ごと捕えたのだ。

2020-07-15 21:51:29
帽子男 @alkali_acid

そのまま網はぐんぐんと高みへ登っていく。 ブミは目を丸くし、叔父は悲鳴を上げた。 気づけば当たりは涼しくなり、風が激しく吹いて、網を揺らしている。見上げると雲ひとつない青空の中で小さな点がだんだんと大きくなってくる。 何かの種のような、ちょっと真ん中の膨らんだ丸っこい形。

2020-07-15 21:54:20
帽子男 @alkali_acid

さらに近づくにつれ、風をはらんでぱんぱんになった帆のようだと思えてきた。ちゃんと船体もついている。 初めは玩具のように小さく見えていたが、やがてブミの乗る小舟よりずっと幅も長さもあると解った。おばけのように大きい。

2020-07-15 21:58:40
帽子男 @alkali_acid

「ブミ!」 「見張る。見張る」 「逃げよう!」 「逃げる?逃げる?」 叔父の喚きに、ブミは小舟の縁へよって眺め降ろした。 「…どこ?どこ?」 「下だ!あんな悪鬼の船に引き込まれるのはごめんだ!俺は下へ逃げる」 「…?…?死ぬ?死ぬ?」 「お前は来ないのか?俺はいくぞ!」

2020-07-15 22:00:34
帽子男 @alkali_acid

叔父は荒い網の目の間から抜け出そうとし、ブミは疑わしそうに眺めやった。 やがて向こうは下を見て高さにめまいを起こし、やっと冷静になり、今から飛び降りても無駄だと悟り、小舟に戻ろうとした。 が手を滑らせ、まっさかさまに墜ちていった。

2020-07-15 22:02:24
帽子男 @alkali_acid

「あ…あ…」 ブミが声を出した時にはもう遅かった。叔父ははるか下方の湖面の煌めきへ吸い込まれていった。 しばらく見守った後、ブミは目を瞑って母から教わった祈りの言葉を唱えた。八人いる(いた)母方の叔父の中では、それほどそそっかしくない方だったが。

2020-07-15 22:05:45
帽子男 @alkali_acid

やがて網は、丸く膨らんだ大きな帆につながった大きな船の真下まで引き上げられた。 驚くまいか、船底の一部はいきなり左右に開いてブミの乗る小舟を呑み込んでしまった。

2020-07-15 22:09:17
帽子男 @alkali_acid

大船の中は広かった。こんな大きな部屋のある家は住んでいる村にもない。やがてぞろぞろと乗組員があらわれる。 大人。覆面をつけた逞しい半裸の男達だ。仕掛けを動かし、網を開くと、ブミの乗る小舟に上がってくる。 知らない言葉を話しながら、あちこちを探る。

2020-07-15 22:14:03
帽子男 @alkali_acid

ブミはちょっと考えて魚の間にもぐりこんだ。ぬるぬるして臭いがしょうがない。 おかげでうまく見つからずに済んだかと思えたが、やがて首根っこを掴まれ、引っ張り出された。

2020-07-15 22:15:45
帽子男 @alkali_acid

覆面の男達は何やら毒づきながらブミをどこかへ運んで行った。途中でつけている服をはぎ取られ、布でごしごしとこすられた。 それでも大人は鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、解らない言葉で文句を垂れていた。

2020-07-15 22:18:39
帽子男 @alkali_acid

ブミが連れてこられたのは、さっきほど広くはないが立派な部屋だった。身なりのよい男が何かに座っていて、そばには裸の少女が控えている。 少女の肌は白い。初めて見る。きっと話に聞く西方人。 緑の眼をして、豊かな金の髪を高く結っている。顔は何かを塗っているようだった。唇が赤く目元が昏い。

2020-07-15 22:25:26
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