生命美術館事件2(#えるどれ)

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帽子男 @alkali_acid

「忘れるな。まさかの時は片方は生き延び…いや死に延びて妖精の騎士に告げ知らせる」 「弟よ。任せよう」 「何を言う。弟よ。君に言ったのだぞ」 双子の屍妖精はそれぞれ両手に拳銃を招き寄せて、駆けだした。途中、覆面をかぶった半裸の逞しい男達がよりごつい武器を構えて迎え撃つが、

2020-07-20 23:14:50
帽子男 @alkali_acid

アルミオンとアルキシオは壁や天井を蹴ってじぐざぐに走りながら、飛び道具を操って百発百中。あっさり獲物を撃ち落とし、顎を蹴りつけ、鳩尾を肘で撃って悶絶させる。 「しかし今思えばアキハヤテ先生が…相手の命を奪わず戦う技を我等に授けたのは…ウィストの誕生を予見してのことか」

2020-07-20 23:17:27
帽子男 @alkali_acid

「さてな。先生ご自身が技を振るうべき相手を思い描いておいでのようではあったが」 楽しく思い出話にすら興じながら。 「我等が仰ぐ晩虹(くれのにじ)の使いよ…囚われた黒き獣のもとへ案内(あない)を頼むぞ」 双子の一方が呼び掛けると、小さな翼ある馬のからくりが先を導く。

2020-07-20 23:20:05
帽子男 @alkali_acid

「ではこちらはウィストを探そう」 「…任せよう」 さらにそこかしこでは無数の少女人形が半裸の男を掴みあげ、無造作に壁に投げつけたり、銃をもぎ取っては放り捨てたりと忙しい。

2020-07-20 23:21:51
帽子男 @alkali_acid

アルミオンと別れたアルキシオは、訓練に従って建物を一層一層虱潰しにしていった。後には数体の傀儡が従い、互いに補い合って展示品の群にまぎれた通路や小部屋も見逃さぬようにする。 「ふむ…」 美術館とはまさにその通りで、ひたすら鑑賞の便のみを考えて作ってあり、外敵を遮ったり、

2020-07-20 23:24:56
帽子男 @alkali_acid

罠に陥れたりする仕掛けは目につかない。 「ウィストはいずこ」 足早に展示室の一つを駆け抜けたところで、不意に瓶の一つが割れる。ほかの瓶は銃弾を弾くほど丈夫だが、草木を閉じ込めた玻璃だけが砕けたのだ。 中から霧が吹きだす。 素早く距離を置いたが多少まとわりつかれた。

2020-07-20 23:28:23
帽子男 @alkali_acid

別の瓶が割れる。 中から蝶の群が飛び立ち、屍妖精や少女人形に群がってくる。 「妖し」 と思うまもなく多数の蝶に張り付かれた傀儡の一つがいきなり瓶詰めになる。

2020-07-20 23:30:54
帽子男 @alkali_acid

あっという間に別の人形も瓶の中にとらわれた。 アルキシオは旋風を呼び寄せて無理矢理蝶を引きはがそうとし、叶わぬとみるや服ごと引き裂かせ、裸身になって抜け出た。 刹那、ぼろくず同然になった布地が瓶詰に変わる。

2020-07-20 23:32:58
帽子男 @alkali_acid

「この曙の大地はいずこも蝶の天国」 不意に穏やかな声が告げる。屍妖精の貴人が省みると、漆黒の肌をした男が、奇妙な道具を握りしめて立っている。 「蝶が集まるのは水気や蜜や…特別な匂いのするもの…あなたの人形がさっき浴びたような、ね」 尖り耳の公達はためらわず銃で撃つ。

2020-07-20 23:35:58
帽子男 @alkali_acid

だが二人の間を舞う蝶の一羽が瓶詰になり、弾丸を跳ね返す。 「美しいでしょう。できれば醜いものは瓶に詰めたくないのです。後世に残す価値のないものは…あなたは育ちすぎだが…しかしダリューテ女史に通じる美しさはある」

2020-07-20 23:37:12
帽子男 @alkali_acid

レオノフは微笑みながら悠然と間合いを詰める。 アルキシオは攻撃の呪文を唱えようとしたが、また蝶が寄ってくるのに気付いて素早く位置を変える。 「…いやだめだな。お前からはあの卑しい死体蘇生業者…ギルベル・ファニルススの残り香りする…」

2020-07-20 23:39:31
帽子男 @alkali_acid

「私の生命美術館に…醜い死の汚物などは不要だ…収容したらただちに湖底に沈めてやる」 館主がそう述べる間も、色とりどりの蝶の群は尽きることなくあらわれては回廊を満してゆく。 屍妖精は拳銃を構えながら、じっと標的を睨み据える。 艶やかな命に包まれた戦場で、生者と屍者、

2020-07-20 23:44:19
帽子男 @alkali_acid

妖精と人間の奇妙な対決が演じられようとしていた。

2020-07-20 23:44:50
帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失われたものを取り戻すファンタジー #えるどれ 舞台は剣と魔法の時代から銃と科学の時代へ。 妖精もまた拳銃を手に戦う。

2020-07-23 20:21:22
帽子男 @alkali_acid

ひとたび死してから、黒の乗り手の魔法によって蘇った屍妖精アルキシオは、今や光ではなく闇の側につき武器を操っていた。 相手は人類を怪異から守る秘密結社「財団」の精鋭、生命美術館主レオノフ。 尖り耳に赤くくすんだ肌を持つ射手の放つ弾は、複雑な軌道を描き漆黒の男を襲う。

2020-07-23 20:25:38
帽子男 @alkali_acid

だが館主の周囲には透き通った小瓶が次々とあらわれ、小さな金属の礫を跳ね返すのだった。 「醜い…実に醜い…あるがまま美しかった命(いのち)を…死によってかくも醜くゆがめてなおう永らえさせようとする…ギルベルめ…よくもかような冒涜を」 レオノフは憤りつつ手にした樹脂の道具を構え直す。

2020-07-23 20:28:36
帽子男 @alkali_acid

アルキシオは壁や天井を床と同じように足場として蹴りつけながら縦横無尽、天地無用に駆け回り、決して一か所にとどまらないが、しかしどこへ行っても蝶の群が狂ったように舞い踊っている。 さらに突然、目の前や真後ろに巨大な瓶があらわれる。

2020-07-23 20:30:46
帽子男 @alkali_acid

妖精は、常に間一髪で瓶に閉じ込められるのを避けながら、呪文を口遊み、弾を打ち尽くした拳銃を捨てると、虚空に新しく装填済みの一丁を呼び寄せてまた掴み取る。 目にも止まらぬ早業だが、相対する人間は余裕の表情だ。

2020-07-23 20:34:55
帽子男 @alkali_acid

「哀れな死の傀儡よ…紫に発光する蝶が解りますか?…ヒカリカビマダラといって…曙の大地中西部の大密林にだけ生息します。実は羽化してすぐは光りません」 のんびり喋りつつ、後ろ斜め上から螺旋を描いて飛来した弾丸を、宙に作り出した複数の瓶にぶつけ、妖精に向かって跳ね返す。

2020-07-23 20:37:19
帽子男 @alkali_acid

「雄は雌を呼び寄せるため、湿地に繁殖するヒカリカビというカビをまきあげ、翅にまとわせます…不思議なことにこのカビは蝶を傷つけず、枯れもしない。そうしてはばたきとともに広い範囲に舞い散って生息域を広げる」

2020-07-23 20:39:40
帽子男 @alkali_acid

アルキシオは敵の言葉には耳を傾けず、ただ切れ長の双眸を細めると、決断を下した。次は手足ではなく心臓か頭を狙う。命までは奪うまいと考えていたが、手加減していては勝ちを逸する。 「許せクレノニジ」 標的の背後をとると、拳銃を握った腕をまっすぐ正面に突き出しつつ、矢の如く直進した。

2020-07-23 20:43:46
帽子男 @alkali_acid

レオノフは嗤い、手にした遺物番号二千七百七十七「簡単!万能瓶詰君」を作動させた。視線は瓶の一つに移り込んだ獲物を捉えていた。 「カビは本来、私が生命と認識するにはあまりに小さい…しかし…ヒカリカビマダラの羽搏きによって活性化したヒカリカビは実に眩く輝き、付着した土壌さえ…」

2020-07-23 20:47:17
帽子男 @alkali_acid

拳銃を構えたまま凍り付いた屍妖精の瓶詰を、生きた人間は優しくなでた。透明な檻に囚われた貴人の衣には点々と輝く斑が散っている。 「そうただの湿った土壌さえまるで一個の生命のように思わせる…実際生命ではあるのです…ヒカリカビもまた生命には違いない…だが醜い。屍は」

2020-07-23 20:49:49
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