ソハヤノツルキ(家康の三池)の物語

ソハヤノツルキこと、家康の三池の物語には当初子孫長久の守神の言葉がない。多数の史料を使って、三池の物語の変化を見ていきたい。
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アリノリ @a_ri_no_ri

以前に徳川家康が病没するまでの過程togetter.com/li/1092080を一次史料メインでまとめたことがある。3月27日に太政大臣に就任した家康は、集まった大名や公家に遺品の刀などを分配していて、4月1日or2日には本多正純、金地院崇伝、南光坊天海に遺言を残している。

2020-08-23 19:51:08
アリノリ @a_ri_no_ri

太政大臣就任を含めて着々と死への準備をしている人間が、延命措置を試みるのも妙である。しかも、素直に史料を読むと、罪人を切らせた理由は三池の「斬れ味」の確認なのだ。家康は死ぬ間際にわざわざ刀の斬れ味を確かめさせて、枕刀にした。 マジで「イミフ(=意味不明)」である。

2020-08-23 19:51:29
アリノリ @a_ri_no_ri

ただ、意味不明だからこそ、罪人を切らせて枕刀にしたのは事実かもしれない。話の筋が通らない方が(個人的に)信憑性があるような気がする。金地院崇伝の日記には、4月に入り、衰弱していく家康は意識の混濁があったように読める記述がある。

2020-08-23 19:51:46
アリノリ @a_ri_no_ri

崇伝が板倉勝重に宛てた4月4日の書状だ。 「昨三日ハ、近日ニ相替、はつきと御座候て、」 →近日とは違い「はつき」とあり、意識がしっかりしているときとしていないときがあったのがうかがえる。

2020-08-23 19:52:04
アリノリ @a_ri_no_ri

そんな中、家康はふと自分の刀の斬れ味が気になった。気になって、死刑に決まっている罪人を斬らせた。 それだけだったのかもしれない。 その方が有り得る話なのではないか。 などと、今回、ソハヤ(三池)の物語を書き出して思った。

2020-08-23 19:52:20
アリノリ @a_ri_no_ri

ただそれだけだったのに、尾ひれがついて「子孫長久の守神」などという大きな話へと発展したのではないだろうか。 家康の遺体が納められ、後に神として祀られた久能山にソハヤ(三池)が納められたのも、余計に「子孫長久の守神」に結びついただろう。

2020-08-23 19:52:32
アリノリ @a_ri_no_ri

久能山には他に家康の脇差(貞宗,行光)2、刀箱1、槍2、薙刀2の他に、硯、硯箱、手ぬぐい掛け、たらい、うちわ、木刀、杖、薬づくりの道具、駕籠、本、香合、時計など、家康が日常的に使っていた「手沢(しゅたく)品」が納められている。手沢品とは「日用品」のことである。

2020-09-05 20:39:40
アリノリ @a_ri_no_ri

天下人なので日用品でもお高い良い物ばかりであり、まとめて重要文化財に指定されている。ソハヤ(三池)が久能山に収められたのも、家康の「日用品」だったから、だろう。当人の愛用の品を遺体を葬った場に納めるのは普通のことだ。多分、深い意味はなかったのだ。

2020-09-05 20:40:08
アリノリ @a_ri_no_ri

深い意味はなかったのに、所有者が天下人の徳川家康だったから、「子孫長久の守神」の物語が付属してしまった可能性もある。『久能山奇瑞記』にも宝蔵にあったのを夢で家康が怒ったため社殿の内陣に移したと記す。この話の信憑性はともかく、もとは他の愛用品と一緒だったのだろう。

2020-09-05 20:40:20
アリノリ @a_ri_no_ri

「権現造」の東照宮は、拝殿と本殿の間に石の間があるのが特徴である。内陣は本殿にあり、ご神体やご本尊を安置する場のことである。ソハヤ(三池)は『久能山御神宝之記』では、他の刀(先に記した脇差2)と一緒に刀箱に入った状態で内陣にあったとある。

2020-09-05 20:40:30
アリノリ @a_ri_no_ri

この刀箱に入ったソハヤ(三池)の白黒写真が『久能山東照宮宝物解題』dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid…の7コマにある。大正時代に撮ったもののようだ。刀身のみと拵に入ったものと、2つある。見ての通り、一振用の刀箱ではなく、複数の刀を入れられる。

2020-09-05 20:40:41
アリノリ @a_ri_no_ri

他に類例がない、とても珍しい刀箱で、家康はこれに複数の刀を入れて持ち運びをさせていたようだ。脇差も掛けられて、大小セットで入れられる。けんどんの蓋を外せば刀掛けにもなる。枕刀をこれに掛けるのもありだが、どうなのだろう。両脇に持ち手があるため、移動専用な気もする。

2020-09-05 20:40:52
アリノリ @a_ri_no_ri

ソハヤ(三池)は二つの脇差と一緒にこの刀箱に入って内陣にあったらしいが、先の『久能山御神宝之記』の一字違いの『久能山御神宝記』では、「三池御腰物ハ別而大切成御殿奥ニて御座候」とある。天保2年(1831年)の写しであるが、奥書には享保二年(1717年)とある。

2020-09-05 20:41:04
アリノリ @a_ri_no_ri

この本は東京国立博物館のデジタルライブラリーで見ることができる。webarchives.tnm.jp/dlib/detail/76… 最初に享保二年に公儀から尋ねられたため(家康の)御道具を認めたとある。

2020-09-05 20:41:17
アリノリ @a_ri_no_ri

久能山の資料で確認したところ、享保二年正月に公儀(幕府)から神宝や大切な道具について記した帳面を提出するようにとの命令が出ていた。当時の将軍は8代の徳川吉宗で、吉宗はあちこちから由緒ある刀(鬼丸国綱など)を取り寄せて上覧するなど、刀剣や武具への関心が強かった。

2020-09-05 20:41:26
アリノリ @a_ri_no_ri

命令に応じて、久能山側は「御神宝併御道具目録」を幕府へ提出している。『久能山御神宝記』はその写しなのだろう。写したときに享保以後の将軍奉納刀を追加で書き足したようだ。これによれば、1717年の時点でソハヤ(三池)は既に御殿=社殿にある。

2020-09-05 20:41:35
アリノリ @a_ri_no_ri

先の『久能山奇瑞記』の宝蔵からの移動と矛盾せず、また特に「大切なもの」とされていたのが分かる。『久能山御神宝之記』の内陣にあったとも一致する。久能山の史料ではソハヤ(三池)は「御神体御同意」と記される。内陣にあるのはそういう扱いも意味するのだろう。

2020-09-05 20:41:44
アリノリ @a_ri_no_ri

ここまでソハヤ(三池)の物語についてだいぶ否定的な意見を書いてきたが、久能山で大事な家康の刀とされていたのは、間違いない。将軍家(徳川宗家)でも「家康の三池(ソハヤ)と脇差2」は特別だと考えていたらしく、明治にこの三振のみ一時的に久能山から取り出して徳川宗家で所有している。

2020-09-05 20:41:54
アリノリ @a_ri_no_ri

久能山側は特に願って三池(ソハヤ)と脇差2を返してもらった。後に東京が関東大震災や空襲に見舞われ、徳川宗家が経済的な理由から多数の刀を手放すことを考えれば、このとき久能山に戻ったのは正解だったろう。(ただ、将軍家が三池を売ることは100%あり得ない)

2020-09-05 20:42:05
アリノリ @a_ri_no_ri

徳川宗家には三日月宗近(国宝)、亀甲貞宗(国宝)もあったが、今、残してあるのは、家康所有伝承のある来国光(重美)である。先の2振は刀としての価値が高く、その価値だけで他家でも大事にされるのもあろうが、やはり、徳川にとって重要なのは、家康の所有であるか否か、なのだ。

2020-09-12 21:42:47
アリノリ @a_ri_no_ri

刀剣に限らず、「物」の価値は「もの」そのものの価値で評価される場合と、所有者により付加価値が付く場合がある。(二つとも揃う場合もある)三池(ソハヤ)は明らかに後者だ。先に記した物語は、全て家康の所有あっての物語であり、大事にされてきた理由も同じである。

2020-09-12 21:43:15
アリノリ @a_ri_no_ri

ソハヤが霊剣扱いされる三池であるのも、実は家康あってのこと。何故なら、この刀は無銘で三池である確証はない。そのため、誰かがこの刀を「三池」と認めなければ、ソハヤは三池の刀にはならない。ソハヤの鐔(つば)には「三け=みいけ」と刻まれている。

2020-09-12 21:43:26
アリノリ @a_ri_no_ri

家康の刀の拵に字を刻ませることができるのは、家康だろう。家康が本阿弥家に鑑定させて「三池」と極められたのかどうかは不明だが、本阿弥家との逸話からして家康が自分で刀の特徴から「三池」とした可能性は高いだろう。

2020-09-12 21:43:38
アリノリ @a_ri_no_ri

こう言っては何だが、ここまで徹頭徹尾、家康に価値を握られている刀も珍しい。いや、この言い方は適切ではない。何故なら、死後の価値のありようは当人とは無関係だからだ。後世の人間がこの刀を家康の刀として語り記し、現在でも必ずそう扱われるから、「家康の三池」なのだ。

2020-09-12 21:43:49
アリノリ @a_ri_no_ri

それがこの刀を守ってきた。 後世の人間が「価値」を認めない「物」は残らない。天下人徳川家康が所有した部分が重要視され、この刀は宮の奥深くで大事に保存された。どんな刀でも人が守らなければ残らない。

2020-09-12 21:43:58
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