物語・神話・ファンタジー
男女(おめ)なる父からでているので男女であり、眠ることの無い父から出ているので眠りを要さぬ者であるのに、愛欲と眠りによって支配されているのだ。『CHⅠ』
2010-05-05 20:19:51『CH』というのは『コルプス・ヘルメティクム』の略。ヘルメス文書のこと。先ほどの書き込みは15節であるが、その前にどうしてそうなったかが書かれている。それは簡単にまとめると、アントローポス(命にして光なるヌース自身に等しき子)が、フュシスに捕えられてしまったが故とされる。
2010-05-05 20:24:29アントローポスはフュシスに神の美しい似姿を見せ、フュシスはそれに対して、愛をもって微笑む。アントローポスはフュシスのうちに自分に似た姿が水に映っているのを見てこれに愛着し、そこに住みたいと思ってしまった。そのために思いと同時に作用力が働いて、そこに住み着いてしまう。
2010-05-05 20:33:02私は「愛欲と眠りによって支配されている」というところを、「愛欲と忘却によって支配されている」という捉え方をしているスコットのニュアンス(ってかここ欠損部分)で捉えた方がいいかなと思ったりする。そしてこのような状態が、ユングが説明している精神的貧困の話とモチーフ的に一致している。
2010-05-05 20:44:40キリスト教がこの世の貧困を称揚したためにこの世の富が意味を失ったように、精神的に貧しい者達もまた偽の精神財を諦めて、今日プロテスタント「教会」と呼ばれている、偉大な過去のけちな遺物から身を引くばかりか、異国風のあらゆる誘惑をも断ち切って、己れの内に帰ろうとする。(C.G.ユング)
2010-05-05 20:52:32しかし己れの内に帰ったところで、そこには意識の冷たい光の中にこの世の空虚がどこまでも広がっているばかりである。(C.G.ユング)この後ユングは自分の父から受けた堅信礼の経験談を語る。この話が精神的貧困の状態=CHで言うところの忘却のモチーフといえる。
2010-05-05 20:58:11父親が教える堅信礼について、ユングは彼の真面目さには敬意を抱きつつも、その講義それ自体については退屈極まりないものだったと言っている。ただ、ユング的には三位一体に関する話に興味を抱き、他はどうでもいいから早くそれに関する謎について父から手ほどきを得られないかと期待していたという。
2010-05-05 21:03:36しかし、その期待は打ち砕かれた。テキストが三位一体についての説明になるところになって、ユングの父親は「この部分は飛ばそう。私にも良くわからないのだ」といってすっ飛ばされたらしい。ユングはこの話から自分の父親の代から既に精神的貧困が受け継がれてきているものだと説明する。
2010-05-05 21:08:29この話は、宗教的話題が既に精神的なものを欠き、それについて忘却してしまったが故に形骸化しているということの例である。キリスト教徒(特にプロテスタンティズム)は、〈知性〉(←これポイント)によって精神的なものを破壊するという途方もないことをしてしまったとユングは言う。
2010-05-05 21:14:42@mittsko そうですね 神話から派生したからファンタジーが宗教の代替と感じられるまでになり、精神との親和性を高めてしまった それは明らかに作り手のメッセージでもあると思うのです それは戦後の子どもたちを救う・自分を救うから始まって、想像世界を救うに そして世界を救うに
2010-05-05 21:22:05@PONKICHI02 はい、ちゃんとした作家さんはファンタジーというジャンルの神話性に きわめて意識的ですね(それはホントにそう!) 宗教の代替物というのは、『神話が考える』の主題のようですね 同じことを考えていらっしゃるようですよ
2010-05-05 21:23:50「精神を王座に持つ世界観と、物質を神の座につける世界観とが厳しく対立している」という話を以前したが、この場合先ほどの『CHⅠ』の話と照らせば、ヌース=アントローポスとフュシスの二重性から成る人間という対立構造に一致している。そして精神的なものを破壊する知性は物質側の所産である。
2010-05-05 21:25:53ユングはヘラクレイトスの言い回しをよく使う。「我々が自然な遺産を失ってしまうと、ヘラクレイトスが言うように、精神でさえも火の燃え盛る天から降りてきてしまう。つまり精神は重くなると水になり、その代わりに〈知性〉がルシファーの如き不遜をもって、精神が占めていた王座を奪った。」
2010-05-05 21:41:35このヘラクレイトスの引用で説明しようとしていることでさえ、CHⅠの、アントローポス=ヌースがフュシスの水に溶け込んでいるという説明、および世界組織の上に立つ者でありながら、その中の奴隷と化している、という説明のモチーフと一致するだろう。
2010-05-05 22:02:26江戸本晴人「遊びの神話」 系譜の解説 すごくお役立ち! ⇒ http://www.m-2.jp/column/myth/index.htm
2010-05-06 16:55:19@mittsko 寝られてますか?手元にあるのは前に立花美乃里先生の授業を受けたときのレジュメです リリアン・スミスとトールキンとル=グウィンとイーゴフがそれぞれの本に書いたものの抜粋ですよ(恥ずかしながら、私がこの中できちんと読んだのはル=グウィン『夜の言葉』だけです)
2010-05-09 09:41:36ファンタジーは、独創的な想像力から生まれるものであって、その想像力とは、私たちが五官で知りうる外界の事物から導きだす概念を越えた、よりふかい概念を形成する心の働きである(続く)
2010-05-11 20:11:58[その]独創的な想像力というものは、ただ、たんにものごとを考察する才があるということではない。抽象の世界から、いのちを創りだす、あの力なのである。それは見えざるもののおくそこまではいりこみ、凡人にはのぞき得ない、神秘な場所にかくされているものを、光のさすところにとりだし、(続く)
2010-05-11 20:17:37凡人たちにもはっきり―あるいはある程度―理解できるようにみせてくれるものである。おそらく、詩人をのぞいて、ファンタジー作家ほど、他のどの部門の作家にもまして、表現しがたいものとたたかわなければならない人たちはいないだろう。(続く)
2010-05-11 20:26:20かれらは、それぞれの能力に応じて、テーマとなるアイデアを心によびおこし、それに象徴や比喩や夢の衣をきせることができるのである。(リリアン・スミス『児童文学論』)
2010-05-11 20:29:36ファンタジーは白昼夢よりも夢そのものに接近すると言えましょう。これは現実への質を異にしたアプローチであり、存在とかかわりあい、理解するための代替的なテクニックです。(続く)
2010-05-11 21:16:50理性の対立物でなく理性の異性体、リアリステックではないがシュルレアリスティックな、スーパーリアリスティックな現実の高次化。(続く)
2010-05-11 21:18:24ファンタジーは旅です。精神分析学とまったく同様の、識域下の世界への旅。精神分析と同じように、ファンタジーもまた危険をはらんでいます。ファンタジーはあなたを変えてしまうかもしれないのです。(ル=グウィン『夜の言葉』)
2010-05-11 21:22:45@PONKICHI02 リリアンやル=グウィンからの引用 なるほど、すんごくいいですね 端的でシパッとした切れ味があります で… お願いなんですが、頁数とかわかります?
2010-05-11 21:23:46@mittsko でしょ?ここからぜったい話が広がります スミスはpp273-4 ル=グウィンはpp54,75 もうひとつイーゴフで終わらせます
2010-05-11 21:28:36