鳥籠の騎士 #1 廃都の東郭

鴉が主食!鳥籠の騎士の冒険譚。 感想用ハッシュタグ #鳥籠の騎士 告知用ハッシュタグ #鳥籠の騎士更新
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帽子男 @alkali_acid

騎士は呼吸を整えてから、鎖を長く持ち、さらに鳥籠を鉄球のように振り回して、また駆け寄ってくる骸骨に一撃を加えた。今度は相手はばらばらになり、緑の燐が淡くあたりに巻き散らされた後、格子の間に吸い込まれるように消えた。 「ア゙ー」 髭に埋もれた顔がけげんそうに檻を眺めやるが、

2020-12-13 17:40:28
帽子男 @alkali_acid

しかし役には立ったことに満足してまた歩き始める。 途中でまた外壁のくぼみを見つけ、籠を置き、へたりこんで休んでから、しばらくしてまた下塔を再開する。

2020-12-13 17:43:47
帽子男 @alkali_acid

次第にあたりは暗くなり、霧を通して届く天の明かりは弱くなっていった。かわって饐えた匂いが鼻をつく。 ついに鳥籠の騎士は見張り塔の根元に達した。 東郭の要塞、古い石と瀝青の壮麗な建築が広がっている。塔そのものと比べればまるで玩具のようにこじんまりとしているが、しかし、

2020-12-13 17:49:37
帽子男 @alkali_acid

何百もの兵士が常時詰めているはずの拠点であった。 そこかしこに闇を照らすかがり火がある。だが燃えているのは木ではなく骨だ。緑の燐が松明のかわりを果たしているのだ。 「グワ…」 騎士は塔とつながる胸壁の一つに燃えるかがり火へ近づいた。死者の灯を背に黒い影が幾つか立っているのを認め。

2020-12-13 17:53:25
帽子男 @alkali_acid

兵だった。昔と変わらぬ鎧兜をつけ、独りは弩を、ほかは短槍を携えている。 向こうは騎士に気付くと、即座に応戦の構えをとった。 「グワ…」

2020-12-13 17:55:19
帽子男 @alkali_acid

飛んでくる矢を、とっさに鳥籠を盾にしてはじくと、そのまま前進し、突き込んでくる槍を格子の間に絡めとってもぎ取る。 すぐに後ずさって間合いをとってから、鎖を振るって鳥籠で前衛をなぎ倒し、戻って来た格子を掴んでまた体当たりをかけ、後衛を倒す。弩手が矢を番えるのを諦め、角笛を掴むのを、

2020-12-13 17:58:59
帽子男 @alkali_acid

飛び掛かって押し倒す。 「アアー!!」 だが兵士は騎士に劣らぬ膂力でもがいた。両の瞳には奇妙なうつろさがある。 「グワ…」 背後で二人の槍の使い手もそれぞれ起き上がる気配がする。猛打をものともしていない。

2020-12-13 18:01:55
帽子男 @alkali_acid

騎士はまず弩手の喉を締め上げ、強引に気管を押し潰すと、すばやく飛びすさった。ふたりの槍兵は長物を拾うかわりに腰に帯びた短剣を抜いて近づいてくる。 どちらも一言も発さない。 「グワ…ワ…」

2020-12-13 18:05:51
帽子男 @alkali_acid

突きかかってくる最初の敵をいなし、鳥籠へ走ると、鎖を掴んで引き寄せる。 「ガアア!!」 そのままもう一度振り回し、二人目の敵にほのかに青く輝く格子をぶつける。手元に引き寄せると逆さ向きに高く掲げ、再び突っ込んできた最初の敵に大上段からたたきつける。

2020-12-13 18:10:58
帽子男 @alkali_acid

胸壁の石床と籠に挟み潰すと、兵士は、ぶすぶすと焦げる匂いがし始め、やがて青い焔を上げて燃え上がった。 「グワ…」 燃える屍からまた何かがあふれ格子の間に吸い込まれていく。 起き上がった二人目の槍兵は、騎士の獰猛さを前にしても逃げようとはせず、なお黙ったまま短剣で突きかかってくる。

2020-12-13 18:13:14
帽子男 @alkali_acid

勇敢さとは別の何かが東郭の歩哨に宿っているようだった。 だが騎士はひるまず、最後の敵をまた鳥籠で打ち払い、もう一人の槍兵と同様に籠を大上段から叩きつけ、圧し潰して焼き殺した。

2020-12-13 18:16:39
帽子男 @alkali_acid

「グワ…グワ…」 燃え尽きた二人の槍兵は捨て置き、先程喉を潰した弩兵へ近づく。昆虫のように手足を痙攣させている。騎士は相手の腰帯にある短剣を抜き、とどめをさした。 また何かがあふれ、鳥籠に流れ込んでいく。 「グワ…」

2020-12-13 18:21:29
帽子男 @alkali_acid

騎士は周囲をさぐり、耳を澄ませたが、激しい闘争にもかかわらず、ほかの歩哨がまだ駆けつけてこないのに首を傾げた。だが好都合ではあった。 槍兵二人のむくろは装備ごと焦げ付いているが、弩兵のものは無傷に近かった。鎖帷子や鎧下は朽ちた屍を思わせる匂いがしたが、丈からして着られなくはない。

2020-12-13 18:25:07
帽子男 @alkali_acid

鳥籠の騎士は屠った弩兵の武具を

2020-12-13 18:25:59
帽子男 @alkali_acid

殺した敵の装備を剥ぎ取ることにした。屍を鳥籠へ放り込むと鎖を胴に巻きつけ、そのままななめに掛かった梯子をきしませながら壁の内側に降りる。 歩哨は胸壁の凸部に一定の間隔で配置してあるようだった。凸部の一つ一つがあまりにも高く幅が広く、胸壁の内側にいてはものみの役に立たないのだ。

2020-12-13 19:41:54
帽子男 @alkali_acid

見張り塔ほどではないにせよ、東郭のすべてが並の人間よりも大きなもののために作られているようであった。 ただ、おかげで鳥籠を背負っていても、何かにつかえたり、つまったりする恐れはなかった。 胸壁の内側には明かりがなく、ほとんどもののかたちもはっきりしなかった。

2020-12-13 19:44:50
帽子男 @alkali_acid

鳥籠の騎士は手探りで難渋しながら、鳥籠から屍を引き出すと、すでにあちこち焦げているのを嗅いで不機嫌そうに鳴きながら、武具をはぎとり、朽ちた骸の匂いのするそれらを身にまとった。 長大な髭と髪、背負った檻を除けば兵士らしい見た目になった。弩の矢は三本が残っていた。

2020-12-13 19:47:02
帽子男 @alkali_acid

騎士は空腹を覚え、屍をひとかじりしようかと考えたが、結局やめておいた。 「グワ…グワ」 闇の中に息絶えた敵を置き捨てたまま、胸壁に手を当てて歩き始める。何かに転ばぬようすり足で。

2020-12-13 19:48:29
帽子男 @alkali_acid

前方からまた緑の灯があらわれる。片手に角燈を、片手に長柄斧を携えた巡邏の兵だった。 鳥籠の騎士はまばゆい光の源をうかがった。目が慣れると明りを発している灯心の正体が、燃える髑髏なのがうかがえた。 合いが詰まれば照らし出されてしまうだろう。騎士は闇の中で奪った弩を構え矢を放った。

2020-12-13 19:53:56
帽子男 @alkali_acid

飛び道具は兵士の腹を射抜いたが、相手はよろめいただけで、周囲を見回し、髑髏の角燈を高く掲げた。 「ア゙ー!」 鳥籠の騎士は突進し短剣を向こうの目に突き立てた。 またしてもほとんど声を立てずに巡邏の兵は崩れ落ちた。

2020-12-13 19:56:00
帽子男 @alkali_acid

一度やったことはまたやるまでと、向こうの外套と角燈をはぎとり、足元を照らしながら急ぐ。 やがて要塞内へ下りるための階段にぶつかる。見張り塔の外壁をとりまく螺旋階段のように広く平らなきざはしが高い段差で続いている。 ただ人間の歩幅で移動しやすいよう、両脇には梯子もわたしてある。

2020-12-13 19:58:53
帽子男 @alkali_acid

鳥籠の騎士は髑髏の角燈を頼りに先へ進んだが、緑の燐からは何かがじわじわとあふれて背負う鳥籠に吸われてゆき、やがて弱まってちらつき、消えてしまう。 「グワ…」

2020-12-13 19:59:52
帽子男 @alkali_acid

回廊のところどころに置かれた骸骨のかがり火から、髑髏を探して取り換えるよりなかった。たいてい一つ二つは入っていた。数人の兵士が守っているものもあったが、要領を掴んだ騎士はすばやく奇襲をかけて殲滅した。

2020-12-13 20:02:05
帽子男 @alkali_acid

東郭の守備はある意味では手強く、ある意味ではたやすかった。 通常ならば致命の一撃を加えても立ち上がり、恐れず怯まず反撃に転じてくる。うたた寝もしていないし、例え同じ武具をまとっていたも味方と間違えもしない。 しかし動きはどこか鈍く決まり切っていて、何よりほかの兵と力を合わせない。

2020-12-13 20:04:33
帽子男 @alkali_acid

角笛を鳴らして応援を呼ぼうとするものもないではないが、一握りで、後はまるで常に数を恃むべしという戦の習いなど忘れ果てたかのようにひたすら一人一人挑みかかってくるだけなのだ。 鳥籠の騎士は、判で押したように同じようにふるまう歩哨のくせを見切ると、無闇と殺さずかわしてゆくことにした。

2020-12-13 20:07:47
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