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「グワー」 「探してきてくださるんで?さすが殿様だ…騎士の道ってものを心得てなさいますよ。殿様のおぐしもおひげも、これからずっとただで整えさせていただきますよ…鋏や剃刀や櫛を取り戻していただけりゃ…ですが」
2020-12-14 22:54:06
鳥籠の騎士は裏口を通って床屋の荷物を探しに行くことにした。 女の方は男についていくかいくまいか考えたが、素裸でもあるし、またおかしくなった兵士に出くわして身を守る術もないということで、結局当面は鳥籠に留まることにした。
2020-12-14 22:55:23
「なあにこの鳥籠の鍵さえおいてってくれりゃ安心ですよ」 騎士は鍵束から一本を外して、床屋に渡すと、籠番の入って来た扉から円蓋の間を出た。
2020-12-14 22:56:59
また回廊が奥へ奥へと延びていた。やがて左右に板扉がずらりとならぶ区画に入る。どうやら倉のようなものらしかった。鍵束を使わずとも開き、中には雑多な着物や履物、被物、革袋に背嚢、杖に天秤棒。そのほかさまざまな小間物などががあった。どれも埃をかぶっている。
2020-12-14 23:02:17
いや一か所だけ手入れの行き届いた品々があった。 磨きたてられた甲冑と槍に盾。それにやけに大柄な従僕の装束。胸のあたりがずいぶん余裕があるところから女物かもしれない。 鳥籠の騎士はそばへ行くと、兜の飾りに棹立ちになった雄馬があしらわれているのを認めた。
2020-12-14 23:06:53
鳥籠の騎士よりやや大柄な男がまとっていたようだが、着られなくはない。質は優れている。 手入れをしていたのが誰であれ、武人に仕えるのに慣れた、かつ細やかな気性で忠義に篤かったに違いない。胸甲にも腰当にも籠手にも足甲にも曇りひとつない。
2020-12-14 23:10:14