作家・矢作俊彦の怒り

今、日本の出版界からある種の文化が失われようとしている。
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矢作俊彦 @orverstrand

心底驚いた。最近の雑誌編集者の劣化についていろいろ言われていたが、これほどひどいのは生まれて初めてだ。インタビュー原稿のゲラが上がってきて、それに手を入れて送り返した。昔からぼくは、相手の質問部分には手を入れない。自分の発言も、相手の質問に合わなくなるような修正は加えない。

2011-08-03 05:38:33
矢作俊彦 @orverstrand

これで入稿させていただきます、というメールが来て、相手は週刊誌だし、これで終わりと思った。それが今朝。この時間に、またWord文書が送られてきた。同じインタビュー原稿である。構成が大幅に変わっていて、ぼくが手を入れたぼくの発言部分も書き換えられている。メールには、こうあった。

2011-08-03 05:43:04
矢作俊彦 @orverstrand

『やはり私が書いた元の原稿がわかりにくく、今回の作品の魅力を伝え切れていないと思い、再度、大幅に構成を変えました』書き忘れたが、インタビューというのは『引擎・engine』に関する著者インタビューだ。多分彼に悪意はない。編集長につまらないから書き直せと言われたのだろう。

2011-08-03 05:46:04
矢作俊彦 @orverstrand

ひとつ訂正がある。当初ゲラと書いたが、それもWord文書だった。週刊誌の組みになっているが、ゲラではない。まあ、そんなことはどうでもいいが。----編集長に直せといわれなければ、いくら向上心に燃える編集者でも、こんな時間まで、人が手を入れた文章を切ったり這ったりしていないだろう。

2011-08-03 05:51:16
矢作俊彦 @orverstrand

手を入れたといったが、ほぼ書き直した。彼の文章力や理解力について、ここでは問わない。しかし、まるごと書き直す必要があった。私の発言部分は、ほぼ私の文章だ。メールを見ても、ライターではなく、彼が書き起こしたものだ。つまり、彼はその部分が私の文章であることを知っている。

2011-08-03 05:54:00
矢作俊彦 @orverstrand

それをまた、あらたな構成に従って、切ったり張ったり、まして書き換えるなどということを平然とやってのける。それを送りつけ、『二度手間になってしまい、大変申し訳ありません。伏して謝罪しつつ、どうかこちらの原稿も、ご確認をお願いしたく考えております』と、きた。

2011-08-03 05:56:38
矢作俊彦 @orverstrand

貧すれば鈍すという。出版不況は深刻だ。あちこちでコストカットが進む。ほとんどの社で校閲が外注になったのもそのせいだ。このため、編集者の語学力が問われることになった。数年前『諭旨免職』に『ろんしめんしょく』とルビを振って、抗議する私に、『ルビ振らなきゃ、今の読者は読めませんから』

2011-08-03 06:11:02
矢作俊彦 @orverstrand

そう言ってのけた文芸編集者もいる。総じて雑になった。以前は言葉や事象について、小うるさい文法の教師やモノマニアックな衒学家のようにこっちの間違えをほじくり返してきた。

2011-08-03 06:17:15
矢作俊彦 @orverstrand

その論拠として、国会図書館の墓穴から掘り起こしてきた文書のコピーや、とんでもない辺境の地方紙の記事などが添付されていて驚かされた。最近はWikipediaで済まされるものだから、逆の意味で驚く。今朝の編集者に悪意がないことは分かっている。

2011-08-03 06:21:47
矢作俊彦 @orverstrand

彼ひとりを怒っているわけではない。他人に自分の文章を書き換えられたと言って、ただそれだけのことを怒っているわけでもない。日本の出版界からある種の文化が失われようとしているということに、何より腹が立つ。出版は大工や指物師などと同じ、、職人の世界だ。

2011-08-03 06:26:28
矢作俊彦 @orverstrand

それが失われるということは、厖大で繊細な経験の積み重ねが途切れるということだ。まあ、それでもいいのだろう。家はPanasonicで売っているし箪笥はIKEAで売っている。しかし、これからは、こんなことが多くなっていくのだろう。それだけは間違いないような気がする。

2011-08-03 06:27:25