古今東西の作家や芸術家や思想家が誰かや何かをdisってる言葉を集めた名言集(?)『無遠慮な文化誌』(フランク・ミューア)の読書実況
F・ミューア『無遠慮な文化誌』を昼間から読み続け中。近代~現代の英国の詩人・小説家・評論家どうしの作品や著作内でのdisの応酬や、出版組合がいろいろ牛耳って題名や内容に干渉してた時代の作家の出版屋への憎悪とか、作家と批評家の手紙での陰口(ときには直にやりとりしての悪口)の応酬やら
2011-08-15 03:07:57(→)アタマと口のまわる人たちの悪口のサンプル集という下世話な読み方についてはまあ現代ならtwitterや各種ブログ界隈でも見てりゃいいので、「そういう悪口を作家に言わせる、時代ごとの社会規範や文学界・出版界の状況」というものに注目してみるとけっこー歴史の勉強になる気がする。
2011-08-15 03:10:51「ブラームスという悪党の曲をまた弾いてみたがね、何とまあ才能のないバカだろう、あいつは」チャイコフスキーの日記 / 「一体ワグナーは人間だろうか? むしろ何かの病気の一種ではあるまいか? ワグナーが手を出すと何でも汚染される。現に音楽がそうだ。」ニーチェ『デル・ファル・ワグナー』
2011-08-15 12:21:03ワグナー言われ放題やな。>「ワグナーのオペラ『ローエングリン』は一ぺん聴いただけだから批評はできない。もう一ぺん聴く気は全くないが」ロッシーニ
2011-08-15 12:26:33先にも書いたけど、学問的な批判・批評に限らず気分任せの悪口でもやっぱり時代に「言わされてる」ところがけっこうあるんだなあというのがちらほら伺えて興味深いな。イタリア語オペラが定着しだしたころの英語圏の音楽評論界の拒否反応とか
2011-08-15 12:58:25主観的で自分の気分だけで好き勝手に激しい言葉を吐いてる時ほど実はむしろ自分の外側の要因によって言葉が出力されてる(状況によって“言わされている”度合いが強くなる)というのは前からよく思うことではあった
2011-08-15 13:02:59その他の断片
古今東西の作家や芸術家や思想家が誰かや何かをdisってる言葉を集めた名言集(?)みたいな本を読んでる(フランク・ミューア『無遠慮な文化誌』)。なんかすごいな
2011-08-14 18:41:05「あの作家の名声も一部はおれのものだ、と思いこむ技術――それが批評だ」 ジョージ・ジーン・ネイサン(1882-1958)『サタンの家』 (※ちなみにこの人自身も文芸評論家です)
2011-08-14 18:45:23これもなかなか手厳しい > 「批評家はウマにたかるアブだ。アブにたかられてウマは工作の邪魔をされる」 チェーホフ『回想記の断片』
2011-08-14 18:52:38「死に伴う新しい恐怖の一つは伝記の出版だ」ジョン・アーバスノット(1667-1735) これは18世紀初頭ごろの英国の出版界の状況をふまえる必要があって、当時は有名人が死ぬと雇い文士を使ってわずか数時間でゴシップ集めたお手軽な伝記が出版されたので死人にむらがる商売と見られてたのね
2011-08-14 19:14:45「この派に属する最近の作家たちは、人生の断片をそのまま描くと称して人生そのものに固執するあまり、重大なことを一つ忘れている。実は人生そのものの大部分は小説に書く価値がないのだ」 トマス・ハーディ(1870-1928)によるエミール・ゾラなどの記録的な自然主義小説に対する批判
2011-08-15 03:31:32英国米国で無料利用できる公開図書館が初めて出来た(=一般青年がコスト無しに本をたくさん読めるようになった)19世紀半ばごろの作家・思想家の反発も面白い。/「図書館で育つ若者は意気地なしばかりだ」R・W・エマーソン(1803-82)、「図書館を見ると吾輩は胸糞が悪くなる」 ニーチェ
2011-08-15 03:40:33(→)でも公開図書館なかった19世紀前半まではそれを不満にこぼす著述家の言葉があったり。「図書館がないから何を調査しようにも全く方法がない(略)どこの町へも陛下の図書館をおくべきではないか? どこの町にも陛下の刑務所があり絞首台があるのだから」トマス・カーライルの日記(1832)
2011-08-15 03:48:00(→)無料の公開図書館の登場で一般に調べ物がしやすくなったとか、紙の低価格化と印刷技術の進行や公立小学校制度のスタート(英国では1870年)など色んな要因から著述業幻想(俺もなんか書いてひと稼ぎできるんちゃうか)がはびこったり、下層社会の読者向けに平明軽易な読み物の供給が増えたり
2011-08-15 03:58:17「『デイリー・エクスプレス』紙に出た批評、さっそく読んで見ます。どうせ作者をこき下ろす目的でろくでもない事を書いたのでしょうが、どう書かれても私は平気です。批評家野郎の汚らわしいキバなど片はしからへし折ってやります」A・M・ロス(19世紀アイルランド、ある港町の駅長夫人で作家)
2011-08-15 04:11:12「昔々、出版屋を殺した罪で死刑になった著作家があった。いよいよ死刑台に立たされて立ち会いの牧師と新聞記者に別れを告げたが、気がつくと眼下の最前列に出版屋がニ、三人見物していた。死刑囚はその連中には別れを告げずに「やあ、またあおうな!」といった」 バリー(『ピーターパン』の作者)
2011-08-15 04:17:23(→)これは19世紀の英米での出版業界の状況が背景にある小噺で、版権の売り買いを主にする出版業者だとか仲介人(エージェント)が増加する流れで、彼らを冷たい目で見る作家がしばしばいたってことですね。/「奴らはわれわれを憎んでいるのだ」 チャールズ・ラム(1775--1834)
2011-08-15 04:28:4720世紀に入ると、まあ名誉毀損に伴う社会的リスクやコストが格段に上がったからか、19世紀までの、今見ると異様な熱量があるド直球に露骨で猥雑な毒舌が一級の著作家から出てくるケースはわりと貴重になって、行儀よくナイフを袖口に隠して刺し合うようになったというか、政治的になったというか
2011-08-15 04:39:32「あいつ顔色が悪くてキモい! 書いてる小説もキモい!」とか、どストレートな外見disを初手にもってくる有名作家とか20世紀以降はあんまりいないからな
2011-08-15 04:43:3520世紀前半の作家の敵は作家や批評家ではなく読者に。厳密には「本を読む人間/本を買う人間」の二重性への対処をいろんなレベルで余儀なくされるというか / 「ベストセラーはつまり本の中の有名人なのである。ベストセラーが有名な理由は、まず第一に有名であるからだ」 D・J・ブースティン
2011-08-15 04:53:40