2021年8月17日

アフガニスタンは何故「アフガン」と呼ばれるのか?タリバンが生まれた「パシュトゥーン人」の遠い祖先はどこからこの地にやって来たのか?

言語学の2017年の論文に驚くべきことが書かれていました!
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巫俊(ふしゅん) @fushunia

アフガニスタン政府軍が総崩れになって、タリバンが首都カブールに進駐したことで、ツイッターの画面がその話題で埋まったりしてますが、「アフガニスタンの「アフガン」とはどういう意味の言葉で、いつの時代に誰が名付けたのか?」

2021-08-17 00:17:07
巫俊(ふしゅん) @fushunia

アフガニスタンは多数派のパシュトゥーン人が南部を中心に広く分布してますが、1747年にパシュトゥーン人のアフマド・シャーがアフガンの君主に推戴され、イランから自立してアフガニスタンに王朝を建国し、イランやインドを攻めて領土を広げたことに由来があります。

2021-08-16 18:37:13
巫俊(ふしゅん) @fushunia

この18世紀の時点で、「アフガン」という地域名称や「パシュトゥーン人」という山岳地帯を中心に暮らす人たちの名前が定着していて、パシュトー語(印欧語族のイラン語派の東語群に属する言語)を話していたので、それ以前からあったはずの彼らの「起源」が気になってました。

2021-08-16 18:50:15
巫俊(ふしゅん) @fushunia

タリバンはアフガニスタンの多数派のパシュトゥーン人の中から出てきた政治勢力ですが、ジョニー・チャンが2017年に書いた言語学の論文によると、パシュトゥーン人の祖先集団は匈奴に追われた大月氏がバクトリアのギリシア人王国に襲い掛かったときに、ともに侵入した遊牧民だった可能性が高いそうです

2021-08-16 03:13:32

※アフガニスタン政府のガニ大統領もパシュトゥーン人でした。

90年代のタリバン政権は、イスラム思想とパシュトゥーン人の生活習慣の「パシュトゥーン・ワリ(掟)」を根拠にして、戦乱のアフガニスタンからパキスタンに逃れたパシュトゥーン人の神学生の組織から生まれた政権でした。

巫俊(ふしゅん) @fushunia

ただ、そのパシュトゥーン人の祖先の遊牧民パシアノイ(Pasianoi)は、ギリシア語と接触した形跡が無くバクトリアの都市からギリシア人が追放された後になってから、この地に入ってきたとありました。そのことは現在のパシュトゥー語の中の外来語を分析することで確認できるとのことです。

2021-08-16 03:21:39
巫俊(ふしゅん) @fushunia

パシュトゥー語の中の外来語を分析すると、パシュトゥーン人の祖先はスキタイの子孫の言語とされる「オセット語」(グルジアの少数派集団オセチア人の言語)や、新疆西部のオアシス都市の言語「コータン・サカ語」と接触してたことが明らかだとのことで、かつては北方の草原にいた人たちでした。

2021-08-16 03:30:07
巫俊(ふしゅん) @fushunia

「コータン・サカ語」はサカ人とも呼ばれたイラン系の遊牧民が話してた言語に由来し、最初は遊牧民だったけどオアシス都市を制圧して仏教王国のホータン王国を建国した人たちの言語です。なのでこうした接触関係は別々の遊牧民が互いに連携しながらバクトリアに南下したことを裏付けています

2021-08-16 03:36:34
巫俊(ふしゅん) @fushunia

バクトリアを支配した大月氏は中国西北部から移動してきた「トカラ人」の集団ですが、イラン系の遊牧民を従えるためにイラン東部方言のバクトリア語を話すようになりました。「アフガン」はそのバクトリア語で現在のアフガニスタンとパキスタンの国境山岳地帯を「遠い土地」と呼んだ言葉に由来してます

2021-08-16 03:47:01

※バクトリア語は、ギリシア文字を使用していますが、ギリシア語とは別の言語です。この地域に広く展開した「イラン系」の言語で「大月氏」(との後継王権のクシャーン朝)が使用していた言葉でした。「大月氏」の侵入以前にギリシア人の王国がこの地にあったのは、紀元前4世紀にアレクサンドロス大王がこの地を征服したからです。

アレクサンドロス帝国と秦帝国の中間に存在した「遊牧/農耕」の両方を行う国家が「大夏」(トカラの音訳=月氏)でした。「大夏」は新疆北方の草原を本拠地とする遊牧国家でしたが、遊牧民もオアシス都市に住む農耕民も同じ言語を話す「トカラ人」だったので、遊牧/農耕は必ずしも対立的関係では無かったことが明らかになっています。

「項羽と劉邦の時代」の中国の内乱期にシルクロードが途絶し、前漢の張騫がそれを「再開」させたのですが、『史記』を書いた司馬遷はそうしたことが理解できず「大夏」はオアシス都市だと思っていたので、匈奴に追われて西遷した大月氏が征服したアフガニスタン北部の農耕都市が「大夏」に違いないと司馬遷は誤解して『史記』を書いてしまいました。

raven @raven2020

@fushunia 数千年前の人骨でもDNAを採取して現代人と比較できるにしても、情勢が悪すぎて調査できませんよね……。研究者が行けるなら考古学でも興味深い地域ですけど。

2021-08-16 19:08:10
巫俊(ふしゅん) @fushunia

匈奴に追われた大月氏(トカラ)が西遷してきた後、大月氏支配下のバクトリアが「トカラ」と呼ばれるようになります。中世にはトカリスタンと呼ばれ、玄奘の『大唐西域記』にも出てくるのですが、これが原因で近代言語学の「トカラ語」論争に発展して、たいへんなことに… twitter.com/fushunia/statu…

2020-07-05 15:38:50
巫俊(ふしゅん) @fushunia

欧米の研究者や、先秦時代の文献に詳しくない日本の遊牧国家の研究者は、先秦の「大夏」について知らないので、アフガニスタンこそがトカラ=司馬遷の書いた大夏であると、ずっと誤解したままで、月氏の出自についても、イラン系のバクトリア人が東方の中国に移動したもの(出戻り説)とされてしまった

2020-07-05 15:44:30
巫俊(ふしゅん) @fushunia

「大夏」は『呂氏春秋』などの秦代の史料にも登場し、新疆・甘粛・寧夏にまたがる大勢力を形成したと考えられてます。大夏はギリシア史料に「トカロイ」(トカラ人)と記述される遊牧国家で、漢代に月氏と呼ばれてたのは彼らであることが考古学的にも確認されています。

2021-08-03 01:55:49
巫俊(ふしゅん) @fushunia

最近の同時代史料の研究では、秦代以前に「匈奴」が価確実に存在した証拠が無いとされ、司馬遷などが遊牧集団の記述を「匈奴」と解釈した可能性が指摘されてます。そうすると秦の始皇帝が立てた碑文「琅邪台刻石」に、秦の領土の境界が「大夏」と接してるとあるように当時の敵は匈奴では無かったのです

2021-08-03 01:53:51
巫俊(ふしゅん) @fushunia

『史記』でも匈奴は弱小な国で、冒頓単于が月氏を打ち破って遊牧国家を建設したと書かれてますから、匈奴は月氏の従属してた集団を吸収して遊牧国家になった訳で、そして月氏の言語は印欧語であることが確認されてるので、匈奴の言葉(単語)の中には印欧語から借用した言葉が少なからず確認されました

2021-08-03 02:00:03

調べるきっかけになった最初のツイート

𓃦 ちぐ。𓃥 @uesugi_dewa

アフガン/アフガーンの語はペルシア語の faghān(嘆き悲しむ)に由来すると。 なんとも皮肉な🤔 鈴木均「アフガニスタン国家の特質と対周辺国関係」 ir.ide.go.jp/index.php?acti… pic.twitter.com/ipz9WWJUDA

2021-08-15 16:59:26
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𓃦 ちぐ。𓃥 @uesugi_dewa

"アフガニスタン研究の古典的な参考書であるデュプリーの『アフガニスタン』はその序論の部分で「アフガニスタンは単純に『アフガンの土地』を意味する」としたうえで、「アフガン」という言葉が「嘆き悲しむ」を意味するペルシア語の faghān に該当するとし、

2021-08-15 17:02:52
𓃦 ちぐ。𓃥 @uesugi_dewa

そして「アフガン」が特定の民族への呼称として歴史上初めて使用されたのは紀元前3世紀のササン朝ペルシアの文献においてであるとしている"

2021-08-15 17:03:47
巫俊(ふしゅん) @fushunia

@uesugi_dewa ペルシア語は全くの専門外ですが、とても好きな話題でわくわくしながら読みました。調べたところジョニー・チャンという研究者の2017年の論文がありました。 「用語"アフガン"と"パシュトゥーン"の起源について」 Johnny Cheung (2017), “On the Origin of the Terms "Afghan" & "Pashtun" (Again)”

2021-08-15 19:01:11
巫俊(ふしゅん) @fushunia

@uesugi_dewa 論文はネットで見つかりましたが、論文は英語で長い内容でした。そこで辞書サイトのウィクショナリーの「Afghan(英語)」の項目を見ると、バクトリア語の出典を示す最近の証拠が出てきたとありまして、アフガンはバクトリア語の「遠い土地から来た人々」に由来するそうです en.m.wiktionary.org/wiki/Afghan#En…

2021-08-15 19:06:14
巫俊(ふしゅん) @fushunia

@uesugi_dewa ウィクショナリーのペルシア語「afğân」のページはこちらです。こちらのページには、ペルシア語「アフガン」のバクトリア語由来説とソグド語由来説が併記されていました。ソグド語由来説の方が最初に出てきた「嘆き悲しむ」の方の意味のようです。 en.m.wiktionary.org/wiki/%D8%A7%D9…

2021-08-15 19:10:24
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コメント

上野 良樹@コロナワクチン接種完了 @letssaga3 2021年8月17日
ここで大月氏が出て来ますか。覚えて置きます。
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巴投 @pooh3_oyasumi 2021年8月17日
deepLの有料版の使用もご検討してみてはいかがですか? 大変興味深い内容でした。
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鶏肉 @Jem_appelle_ 2021年8月17日
アフガンで思い出したんだが アフガンハウンドは世界最古の犬と言われており、旧約聖書に出てくるノアの方舟に乗った犬でもあるらしい ちょっとロマン
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殻付牡蠣 @rareboiled 2021年8月17日
故中村氏はどう思うんだろうな?
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田中幹生 @maniaxpace_mt 2021年8月17日
アフガン航空相撲 殺されたのもずいぶん前の話だ
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ゆゆ @yuyu_news 2021年8月17日
中央アジアに多い「~スタン」の国名を考えると「アフガン人の国」でアフガニスタンなんだろうなと漠然と思うけど(昔のキルギスタンが今はキルギスなのと同じ)
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上野 良樹@コロナワクチン接種完了 @letssaga3 2021年8月21日
『三国志』に出て来る大月氏王の波調は、クシャーナ朝のヴァースデーヴァ1世。のちサーサーン朝イラン(ペルシア)に敗れて属国に追い込まれる。サーサーン朝は後にイスラム帝国に滅ぼされるが、皇帝の遺児が唐に亡命して波斯都督に任命され、トカラ(アフガニスタン北部)に駐屯したという。東西の大国の最前線になる時代が長い印象です。
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