- rouillewrite
- 2116
- 2
- 0
- 0
*リネットの日記 【明日は、エリーゼと本を読みに行くの。その後お菓子を食べる。 エリーゼ、いつもおなじ顔してるけど 笑うとすごく可愛いから エリーゼが楽しいと、 リネットも楽しい】
2022-03-10 21:35:07けれど彼女が死んだ今となっては、これが今こうして自身が死んだ後 エリーゼを元気づけるために書いたようにも思えるのだ。 …たとえ 何気ない、明日の予定を綴るものだったとしても。
2022-03-10 21:40:07「……っ……、うぅ……っ」 エリーゼは、泣いた。 あの夜枯れるほど泣いたのに、乾いてしまったはずの涙が溢れ出した。零れた透明な雫が、パタパタと紙の上に落ちては滲んでいく。
2022-03-10 21:41:49「……きっと…リネットも、エリーゼのせいだ…なんて、思ってないよ…。 な、泣くな…とは、言わないし……僕も、よく泣いたり落ち込んだりする、けど……。 ………少し、散歩だけでも、してみよう……?」
2022-03-10 21:43:06エリーゼは大粒の涙を流しながら、必死に声を押し殺してこくこくと頷いた。 この悲しみから放たれるには、今よりずっと長い時間がかかるだろう。 それでも…生きる気力は無くさないで欲しい、とライクムは勇気を振り絞って持ってきたのだ。
2022-03-10 21:45:22「ありがとう、ライクム」 「ぼ、僕は何も……ぁ、ご、ごはん、食べてくる……?」 「おう、それじゃあ俺は行こっかなぁ。エリーゼ、後でご飯持ってくるから」
2022-03-10 21:46:27エリーゼはその言葉に、何度も頷いた。 ライクムが落ち着くまで見てくれる、というのでイーライは部屋を後にする。
2022-03-10 21:47:31パタン、と閉じた扉の向こうでまた声を上げて泣く少女の声とそれに慌てている青年の声を聞いて、イーライは苦笑いをこぼした。
2022-03-10 21:48:57イーライが食堂へ向かうと、既に全員が食べ終わっていた様子だった。 端に寄せられた朝食を見ていると、デアダームが「食べたいものがあればお作りしますよ」と声を掛けてきた。 あるものでいいか、とイーライはその問いに首を横に振り、余ったものを皿に取り分ける。
2022-03-10 21:51:56しかし朝食後だと言うのに、やけに人が残っている。誰も彼もあまり表情は明るくないが、何かを待っているかのようだった。綺麗なカトラリーもそのままに、席順も入れ替わっていて振り子時計の前にはナタリア、アシェル、ユースティア、ルーシャンが並んで座っていた。さらに横に数人の少女たちがいる。
2022-03-10 21:52:51アシェルの左隣にはマリンがおり、その隣にいる親友の姿を目にすると、イーライは朝食の皿を持ってそのまた左隣に座った。
2022-03-10 21:53:49「なんだこれ、何待ってんだ?」 「来るの遅いですよ。……使用人の2人が、アップルパイを焼いたらしいです。元気が出るように、だそうですけど」 「だーれのせいだと思ってんだかなぁ」
2022-03-10 21:55:19イーライは軽く毒づいて厨房の方を見つめた。 どうやらガブリエルが見張りながら一緒に作っているとのことだった。 ならば変な画策がされているわけでもないのだろう。 出てきたら何のつもりだと問い詰めようと考えたが、“大先生”が見張っているならいいか、とイーライは自分の朝食を口にする。
2022-03-10 21:57:15同時に、ガチャリと厨房の扉が開いた。 ホール状に形作られた大きなアップルパイを持ってガブリエルが出てくる。 その奥から、デアダームが片手で紅茶の入ったトレーを持って来た。 ジャックは手持ち無沙汰なのか、美味しそうな匂いのするアップルパイをじっと見つめている。
2022-03-10 21:58:41「ほら、出来たわよ。 言い出しっぺがこの人たちっていうのもアレだけど、ずっと暗くちゃ出来るもんも出来なくなるってのは賛成だからね」 「おいしそう……」
2022-03-10 22:00:18顔を下に向けたままあまり元気のなかった少女たちが、その香りに誘われてゆっくりと顔を上げる。 香ばしい香りと甘い林檎の匂い。 しっかりと焼き目のついた網目状のそれはツヤツヤと輝いていて、光に照らされた宝石のようだ。
2022-03-10 22:01:21