「国内法優位説」が招いた「ガラパゴス解釈」とその帰結・・・「元首」の意味

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Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

ゼレンスキー大統領の国会演説について。まず、「大統領」と「首相」の違いで、大統領は国家元首であり、政府首脳の首相とは異なり、国民を代表しています。ですので、日本で言えば天皇のお言葉を、外国の内閣が一定の制約をするということはありません。

2022-03-18 01:51:34
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

他方で、要人の演説原稿を事前にその国の政府に伝えるのはある意味では自然なことであり、その原稿の中でセンシティブな文章があれば、それについて指摘することは当然ありえます。私が問題にしたのは、「国会演説の前に「首脳会談・共同声明」が絶対条件」だという、「条件」提示です。

2022-03-18 01:51:35
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

国家と国民を代表とする国家元首の演説内容について、事前に原稿についての内容に日本政府としての意見を提示するのは自然だが、「絶対条件」として「首脳会談・共同声明」を突きつけることは外交儀礼として失礼なこと。日本の総理の演説や天皇のお言葉が相手国の「条件」提示で制約されべきでない。

2022-03-18 01:51:35
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

他方で、日本は主権国家であるので、国会の判断でゼレンスキー大統領の演説の要請を拒絶する権利は当然あるし、日本国として首脳会談を要望することも可能。もちろん拒絶した際は、国際社会に説得的になその理由を提示する必要がありますが、その判断は可能です。その判断は立憲民主党として自由。

2022-03-18 01:51:35
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

だけれども、それとは別に、相手国の国家元首の発言を日本の国内事情にあわせて制限し、「絶対条件」を突きつけるとしたら、あらゆる国の政府首脳や国家元首の外国での発言は、その国の国会や閣議などの「絶対条件」に合わせないといけないし、それは主権概念の前提を踏み躙るもの。

2022-03-18 01:51:36
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

繰り返しますが、外国首脳の演説内容の事前の確認と、それに対する受け入れ国の要望の伝達は、当然なこと。それと、受け入れ国がその国の国内事情に合わせて「首脳会談・共同声明」のような演説の可否や内容への「絶対条件」を突きつけることは大きな違いがあります。私が問題にしているのは後者です。

2022-03-18 01:51:36
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

結局は、毅然たる態度で国民の利益を守ると豪語しながら、それが外交問題に発展してから当初の方針を撤回せざる得なくなるとすれば、まさに普天間返還について「県外は当然」と豪語した民主党政権の鳩山首相の発言と論理構造が一緒。外交問題になってから「学べば学ぶほど抑止の意義がわかった」と。

2022-03-18 01:57:03
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

それによって、相手国との信頼を損ない、一部の国民の希望を裏切り、ポピュリズム的な国民迎合的発言によって日本の国益を損なったことを忘れてしまったのかもしれません。どのような方針を提示しても、それは野党の自由ですが、外交には一定のルールやマナーがあります。なんでもできるわけではない。

2022-03-18 01:57:03
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

強い言葉で、あたかも相手国に強い「条件」を突きつけたパフォーマンスを示すことは、実際に責任ある政府の立場になったときに方針を撤回することで国民の信頼をうしなることを想定すれば、よりいっそう立憲民主党が外交を担う準備ができていないという不信感に帰結すると考えます。

2022-03-18 01:57:03
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

外交についてより深く学びたい方がおられれば、ハロルド・ニコルソン『外交』(東京大学出版会)や、拙著『外交』(有斐閣)をお呼びいただければ、その歴史的な背景や、基本的な慣習、規範などをご理解いただけると思います。通常の人間関係と主権国家間の行動規範を規定する外交では、違いがある。

2022-03-18 02:00:07
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

大変に僭越であることを承知で申し上げると、日本で「外交学」という学問分野をこれまで20年ちかく研究してきた数少ない研究者の一人だと考えておりますので、日本国内で外交学的に「外交」とは何かについて、理解していただけないであろうことはやむを得ないかもしれません。

2022-03-18 02:05:02
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

ただ国際社会には一定のルールやマナーがあり、それを遵守することから平和的な国際関係や、摩擦や対立が避けない国家間関係で協調を維持することが可能となるのです。すべての国家が、国内的論理だけで自己主張をすれば国際協調は不可能で、軍事力が支配する世界になる。それを避けるのが外交の使命。

2022-03-18 02:05:03
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

外交は相手の立場に立って考えることが重要。日本の首相や天皇陛下が韓国や中国で演説する際に、中国政府や韓国政府が日中首脳会談や日韓首脳会談で合意した共同声明に書かれていること以外を話してはいけないという「絶対条件」を突きつけた際に、泉代表の発言に同意する方は当然と考えるでしょうか。

2022-03-18 02:13:07
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

立憲民主党の現在の外交や安全保障についての認識についてのツイートは、私自身が政党政治が専門ではないこともあり削除しました。どうぞご了承くださいませ。

2022-03-19 01:34:13
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

これで関連のツイートは最後にしますが、the head of stateとthe head of governmentの違い。国際政治はパワーの大小で大きく行方が異なりますが、法的には主権平等原則として、大国も小国も対等な関係となります。なので、アメリカとウクライナの首脳会談も、両国の大統領が会談する。

2022-03-19 09:55:06
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

たとえば国連総会での演説の順番や、日本での天皇の即位の礼、あるいは英国でのウィリアム王子の結婚式など、海外から多くの来訪がある場合に、当然ながら順番や席次など決めねばなりません。これが外交儀礼(プロトコル)の世界です。その場合は、head of stateが最優先で、次がhead of govenment。

2022-03-19 09:55:07
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

ただし国家により政体が異なるので、それにより国家元首が規定される。例えば外務省のホームページを見ると、ルクセンブルクの場合は「国家元首(head of state)」がアンリ大公、英国の場合はエリザベス2世女王、米国の場合はバイデン大統領と書かれています。同格の国家元首同士は在位、在職順。

2022-03-19 09:55:07
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

ですのでエリザベス女王が多くの国際的な儀礼の席で席次が高いのは、国家元首であり、在位期間が長いから。他方で日本の場合は、毎年のように首相が変わり、しかも対外的には首相は国家元首でないので、席次は高くなりません。もしも天皇が国家元首でなければ、海外の王族の結婚式で席はないか、末席。

2022-03-19 09:55:08
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

ゼレンスキー大統領という国家元首が日本の国会で演説する際に、政府の一機関の国会や、行政府の長の首相は、大統領と同格とはいえないことがお分かり頂けるはず。ですので外交儀礼上、首相や国会が外国の国家元首(head of state)に「演説内容」の範囲を決め、「絶対条件」を課すのは外交上失礼。

2022-03-19 09:55:08
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

国家元首は、国家主権を代表します。なので国家元首に「演説内容もあくまで両国合意の範囲にすべき」という「絶対条件」は、野党党首が述べるべき言葉ではありません。エリザベス女王という国家元首が日本で演説する際に、事前に「演説内容」を「両国合意」の範囲にするべきではないのと同様です。

2022-03-19 09:55:10
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

「国家元首」とはあくまでもその国家の政体により規定され、大統領の場合も、国王の場合も、大公の場合も、首長の場合もあります。私が述べているのは、外交儀礼的な「国家元首」への敬意をもった接し方です。ただし、国家元首だからといって、演説を受け入れる義務はない。受け入れる場合のマナー。

2022-03-19 09:55:10
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

外務省に入省すると、若手の外務省員は、外務省研修所で外交儀礼のプロトコルを学びます。他方で、国会議員の先生方は、おそらくは、議員外交などさまざまなかたちでいわば日本国民の代表として外交に携わると思うのですが、そのような外交儀礼を学ぶ機会がないのかもしれません。それが気になります。

2022-03-19 09:55:11
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

日本は国内法優位説に立つ方が多数で、国内法の類推で国際法を理解する方が多いと思いますし、個人間の交渉と主権国家間の交渉とを混同して同一視して論じる方が多い印象です。また「主権」の意味を適切にご理解いただかない場合に、その代表である国家元首の持つ特別な地位がおそらく理解されてない。

2022-03-20 10:04:44
Yuichi Hosoya 細谷雄一 @Yuichi_Hosoya

「元首は国家の威厳を代表する者として,外国に滞在する場合には,儀礼,不可侵権 (名誉,身体,住居など) ,治外法権 (裁判権,警察権,課税権からの免除) など,広い特権を享有する」(ブリタニカ百科事典)。これをご理解頂かず、head of the government間の交渉と、同一視する問題が所在する。

2022-03-20 10:04:44