岩田規久男『「日銀理論」の検証」』を批判的にレビュー

ベースマネー原理主義のロジックとその敗北を考察する。
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

ボルカーFRBの過激な引き締めは、準備預金を節約しようとする銀行のインセンティブを強く刺激し、具体的には資産をオフバランスしシャドウバンキングを拡大する決定打となった。故にレイやミンスキーは、銀行間市場での流動性融通に一定の抑制をかけ、中央銀行貸出を通じて監督する必要性を強調した。

2021-12-12 17:48:00
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

pp.137-139で岩田は、ある金利に対する準備預金需要の関係は線形的であり、したがって特定の金利に誘導するのはある準備預金水準を目指すのと同じ、と豪語しているが、準備預金需要が日々変動しており、その一定価格での供給を行うと言う金融調節の実態を軽視しすぎた暴論としか言えない。

2021-12-13 06:44:34
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

おそらくこの想定の裏では、ある政策金利に対する経済全体の投融資水準が線形的であり、したがってそこでの必要準備も線形的であるという前提が暗にある。 しかし、特定の金利においても市場の資金需要は極めて流動的だし、また政策金利が長期投資に与える影響は限られる。 twitter.com/motidukinoyoru…

2021-12-13 06:49:09
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

p.144-147においては、岩田は珍しく良いことを言っている。 預金準備率を引き上げても、短期金利を固定するように受動的な日銀信用の調節を行うなら、受動的な準備供給になるので、金融引き締め効果を持たないと岩田は言う。 この点に限ればまさにその通りで、準備率操作それ自体は意味をもたない。

2021-12-13 06:53:59
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

p.148-149では「極端主義」の弊害 と題して、岩田は短期的な現金需要によるHPM調節の必要性を認めつつも、2-3ヶ月のレンジならHPM水準をコントロール出来るはずだと主張する。しかし、何らかの原価ショックなどで四半期〜数年の波及的影響が出る場合は、

2021-12-13 11:11:38
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

やはり2-3ヶ月単位のHPM水準目標というのは非現実的だし、それならまだ適宜の利上げをする方が(流動性需給の安定の面から言っても)理にかなっている。 岩田の主張が奇妙なのは、金利によって経済の信用需要は操作できるというヴィクセリアン的な想定を表面的には受け入れていながら、

2021-12-13 11:14:12
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

正道の金利調節ではなく(この点なら日銀と一致可能なはずである)、何故か無用な混乱の源になり得るHPM目標に拘る点である。 金利調節で足らず、HPM目標が(ある意味)効果的な状況があるとすれば、それはやはりアコモデーションを部分的に放棄し短期金利を急騰させる状況に他ならない。それは、

2021-12-13 11:17:01
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

HPM目標が金利政策に比して有効なケースは、HPM目標か金融恐慌を人為的に惹起できるという点においてである、と実質的に主張していることになる。岩田はもちろん非自覚的であろうが、これはかなりラディカルな思想である。 尤も、政策金利によるヴィクセリアン的な調節すら、実証的には不明瞭である。

2021-12-13 11:18:57
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

今更留保しておくが、岩田がこの本を書いた当初は、コールレート>公定歩合の時期であり、2000年台に入るにあたってこの関係が逆転して公定歩合>コールレートとなり、準備預金の調達はもっぱらインターバンク市場で行われるようにシフトしていく過渡期であった。

2021-12-13 20:50:09
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

今ではピンと来ないかもしれないが、当時のコール市場は、ありていに言えば、日銀貸出を通じない逃げ場として存在してやや高めのレートでやりとりされていた。 今はむしろ、インターバンク市場で調達不十分な場合に日銀を利用するという形でレートが逆転している。 twitter.com/motidukinoyoru…

2021-12-13 20:51:42
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

上記を理解しておけば、p.151-153の岩田の主張の奇妙さも分かる。 岩田は黒田(1988)を引用しながら、HPM需給操作を通じてコールレートに影響を及ぼすレジームAと、コールレートを直接コントロールしてHPMが受動的に定まるレジームBを区別して前者を称揚するわけだが、現代の我々にとっては、

2021-12-13 20:55:30
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

レジームAだからといってHPMの量的コントロールの道が開かれたかと言うと、そんなことは一切なかったし、あり得るわけもなかった、というのは自明のように思われる。 AだろうがBだろうが、金利を決めれば量が、量を決めれば金利が受動的に動いてしまう。彼の引用元も含め、不毛な議論に思える。

2021-12-13 20:57:58
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

p.154から岩田は本格的にマネタリーターゲットを称揚する論調を強め、1980年代の実体経済とMSの安定を実体経済→MS安定と捉えた吉川と植田の(妥当な)見解を指して「実証的という点で不十分であり、余りにも大胆」と批判してみせる。 しかし、

2021-12-13 22:28:13
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

実際には、1970-80年代の一過的なマネタリーターゲット・”ブーム”は、MSとインフレ率との余りにも大きな乖離という形で破綻し、極めて短い金融政策ムーブメントとして終わったのが史実である。 また、それこそ実証的に、MSとインフレの関係性は乏しいのである econ101.jp/%e3%83%aa%e3%8…

2021-12-13 22:30:06
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

この論点はいわゆるハイパーインフレの議論にも通じてくる。 togetter.com/li/1580184 で検討したように、ジンバブエのハイパーインフレは、まず物価高騰が起きて、その後にマネーサプライの増幅が生じた。 実は、政府の放漫財政がMSを過剰供給してインフレを起こしたわけではないのである。

2021-12-22 14:47:40
まとめ ジンバブエのハイパーインフレについて printing moneyかLand Reallocationか 結論から言うと、printing money、というか、財政拡大それ自体をハイパーインフレの主要因として位置付けるのはかなり誤謬含み。 3814 pv 54 1 user
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

dallasfed.org/~/media/docume… より引用した下記のグラフに示すように、ジンバブエのハイパーインフレは、CPI上昇・通貨安が先行し、マネーサプライの増幅はそれに対して遅行している。 これは内生的貨幣供給理論的には当然の話だが、貨幣数量説にとってはちんぷんかんぷんとなるであろう。 pic.twitter.com/9OMuH9w9UN

2021-12-22 14:50:34
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

p.172-174で岩田は、鈴木・黒田・白川の主張:『利上げによる信用収縮は、粘着的な市場短期金利と、迅速に引き上げられるインターバンク金利との間のギャップによって、銀行収益が圧縮されることで生ずる』という主張に対し、市場金利が連動型であれば、むしろ市中の投融資需要を変化させるので、

2022-01-01 20:34:01
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

鈴木らの説明は誤りであり、連動型金利においてこそむしろ利上げによる信用収縮はロバストに生ずる、と主張する。 しかし実際のところ、投融資が増幅する局面での利上げの効果は(ラディカルな利上げでない限り)正直限定的である。これは金利が損益分岐点に与える影響が限定的なのと、

2022-01-01 20:35:48
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

金利が(代替効果だけでなく)所得効果を持つこと、国債金利の裁定的上昇が、実質的には財政拡大効果を持ってしまうこと、といった点が挙げられる。反直観的で不思議に思われるかもしれないが、マイナス金利の世界においても、鏡合わせのように似たメカニズムで信用抑制が生じたと実証された。

2022-01-01 20:37:42
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

この辺りの論点は、twitter.com/motidukinoyoru… で整理しているのでご参照あれ。

2022-01-01 20:38:18
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

Modern Monetary Theory (MMT) と主流派の齟齬と一致を解剖する / An Analysis of Difference and Coincidence between MMT and Mainstream Economics @SSRN papers.ssrn.com/sol3/papers.cf… とりあえずSSRNに上げておいたので、お手隙の方はご覧ください。

2021-04-12 08:08:53