- rouillewrite
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主人のいない墓に花を添えて、あの子が好きだったシロツメクサを手に持って、マリンがそっと手を添える。 後ろに立つアシュリーは、何も言わない。
2022-05-12 21:06:06もはや、現時点で館の中に生き残っている少女は4人。 1人は館側に加担して行方知れず、1人は仲間を庇って大怪我を負った。 マリンも異能の影響で、徐々に指先の感覚を失い始めている。
2022-05-12 21:08:17探偵たちも、精神的にも肉体的にも元気とは言い難く、ガブリエルに至っては遊戯場での出来事から過呼吸を起こし、部屋に運ばれて行った。
2022-05-12 21:09:38さらに、エリィが死んでから様子のおかしいイーライ。 1週間ほど前に行方不明になったまま、未だに居場所の手がかりすら掴めないレオニード。 ようやく1人で歩くまでに回復したが、完全に元気を取り戻したとは言い難いギル。
2022-05-12 21:10:40渡り廊下に壁はなく、柱が立っているだけの簡素な作り。 柱の間から吹く風に晒されて、少女が風邪を引いてしまわないようにと、アシュリーは小さく声をかけた。
2022-05-12 21:12:23彼のその言葉に答えることはなく、マリンは彼の名前を呼ぶ。 風を避けるように覆っていた腕をおろし、細めていた目を見開くと、アシュリーは小さく応えた。 …ザァ、と吹く風に晒された木々の声が不気味に駆け抜ける中で、マリンはポツリと呟いた。
2022-05-12 21:14:37困惑の様子を見せるアシュリー。 いつもの張りのある明るい少女の声はなく、沈む雨のように。 言葉の意図を理解して、アシュリーは視線を下にずらし、「…はい」と絞り出すように応えた。
2022-05-12 21:17:28眉を寄せ、呆然と少女の背を見ていたアシュリーが見たのは…マリンの、 いつも明るい彼女の、恐怖の涙だった。
2022-05-12 21:19:58声にならない吐息が、アシュリーの口から漏れ出る。 風はマリンの心情を現すかのようにごうごうと、2人の横を叩いては去っていく。 1度出た感情は戻らない。マリンはそのまま、泣きながら叫ぶように彼に問いかけた。
2022-05-12 21:21:54「だってもういつ誰が死んじゃうかわからない!みんな一緒にいても、1人ずついなくなっちゃう! マリンいやだ!怖いよ!! マリンも死にたくない!!」
2022-05-12 21:22:43食堂で少女全員で寝ても、誰かが見張っていたとしても。 出来た隙を必ず的確に突かれる。 グリムに対して抵抗を示しても、アシェルやライクムのように惨殺される。目の前で見せられたあの光景がフラッシュバックしたのか、マリンは泣き喚いた。
2022-05-12 21:23:34当たり前だ。 彼女はまだ、齢12と年端もいかぬ少女で。 父に憧れて、立派な海兵になることを決意して常に明るく振る舞っていたその裏には、恐れを抱く子供としては当たり前の感情を持つ彼女がいたのに。 …それに自分は気づいていたのに、ずっと、こうして。
2022-05-12 21:24:25アシュリーはそっと前へ出る。 ……錯乱したように「怖い」と叫ぶ子供のために、自分が今できる、ことは。
2022-05-12 21:25:41