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「何か申し開きはあるかヴォルントゥーリル」 王が問うと、森番は目をこすった。 「ふぁ…ぇ…あ…さよう…三たりの歌姫とは、島と言われる怪物の頭の先にある角というか…きれいなものですが…荷が大事ならあの航路は避けるべきでしたが、怪物も餌がなくては飢えます故な」
2022-12-01 02:09:56「な…貴様は怪物に餌をやるために大船を沈めたというのか!」 「いえ。私が寝ている間のことです」 悪びれずに応じる斑の男に、船手頭は尖った耳の先をひくつかせ、拳を固めた。 「あの大船はどれだけの大木を…」 「しかし水妖精は、我等火妖精にそこな男を押し付ける際に詳しい話はせなんだな」
2022-12-01 02:16:29ひときわ背の高い妖精が進み出る。 「前(さき)の鍛冶惣匠か。ヴォルントゥーリルは火妖精のところにも身を寄せたのか」 「どんな仕事も速く覚え、海の民ともやりとりのできる切れ者という評判で、もちろん…この男が打った剣はたった百年の修行でも、それなりのものでした…しかし百年のうち」
2022-12-01 02:21:46前の鍛冶惣匠は槌を握るのに慣れた強い拳を森番につきつける。 「どれだけ金床に向かっていたことやら。こやつは特に小人との取引で向こうと気が合うようすで、いくつかの仕事を任せました…初めはうまくいっているようでしたが…」
2022-12-01 02:24:08「こやつは小人の工房から帰らなくなり、探しにいけば奥にあるちっぽけな寝床でまるくなって寝こけていたのです」 「なんと…器用なことよ…」
2022-12-01 02:25:33少年王が感心したようすで、耳を傾ける。 「あるいは、ヴォルントゥーリルは夢見の力に長けるのやもしれぬ。よく眠るのには何かいわれがあるのではないか」 「いいえ王よ。そのものの身には王の血は流れておらず、夢見の力もありません」 きっぱりとした女の声が聞こえる。 「乳妹…いや…神祇官」
2022-12-01 02:29:07長い裳裾を引いた妖精があらわれる。 「卜部に確かめたところによると、そのものはかつてあまりよく眠るため、夢見の力があるのではないかと預けられ、調べたところ、何の力もないとして放逐されています。そのものは、ただ寝ているだけです」
2022-12-01 02:31:43「ただ…寝ているだけと…しかし乳妹よ…何故ヴォルントゥーリルに詳しい。予はまだそちに諮っておらぬ」 「夢見が告げました。ヴォルカーラリルの子ヴォルントゥーリルが、我等妖精の滅びを運ぶと…捨て置けば、妖精のみか、霧のこなたのすべてに滅びをもたらすと…大いなる戦によって」
2022-12-01 02:35:27神祇官の言葉に、さすがに宮廷は色めき立った。 とはいえ当の森番はといえば、すっかり飽きたようすで岩を抱いて頬ずりしながらぐっすり寝入ってしまっていたが。
2022-12-01 02:36:55