【ある冒険者の宝物】

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の宝物69】これは空飛ぶ靴などと呼ばれているが、正しくは『空を飛びたくなる靴』だ。飛行能力を持たない者が履けばどうなるか、その末路など想像に難くない。なぜそんなものを家宝として吹聴しているか、だと？ 欲に駆られた愚者が自滅する様を見るのが楽しくて仕方ないからさ。

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【ある冒険者の宝物70】「この呪術人形が相手の虚実を見極めてくれるおかげで僕は成功してきたわけだよ」 「そんなに人の心を暴きたいか？ お前のそういうとこ嫌いだわ」 《今の発言には嘘が含まれています》 「ふふん、口では何とでも言えるよね」 （嘘をついてまで主を守る人形か。こりゃ呪いだな）

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【ある冒険者の宝物71】「一口食べればたちまち不老長寿の果実！ どうだ、買わないか？」 「分不相応に長生きしたって権力や財力がなきゃいいこともないし、そんな凄いモノなら自分で食いなよ」 「はは、こりゃ手厳しい」 「やれやれ。500年くらい前は引く手数多だったが、これも時代の流れかね」

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【ある冒険者の宝物72】「随分と躊躇ないものだね。10年は書き続けてきた詩集だろう」 「誰も読まないものを燃やしたところで誰も気にしないさ」 「私は君の一番の読者だと自負していたつもりだが、そうではなかったかな？」 「知ってるよ。そして、今までの詩の全てがキミの頭に残っていることもね」

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【ある冒険者の宝物73】 「竜鱗を貫いた槍だ」 「邪精を打ち払った杖だよ」 「悪霊から身を守った盾さ」 「お、冒険者ごっこか」「懐かしいな、俺らもやったなあ」 「やはり体格が小さい種族は子供扱いか」 「この装備も見た目は木の棒や板だもんね」 「外見では判らない価値もあるってことさ」

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【ある冒険者の宝物74】『形見の外套』 ・それは非常に古い ・それは色褪せている ・それは金銭的価値が低い ・それは大きめに作られている ・それは着用者を冷気から保護する ・それは物を多く隠し持てる ・それは丈夫な素材で作られている ・それは着用者を鼓舞する ・それは大事なものだ

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【ある冒険者の宝物75】「よォ地図屋、まだ生きてたか」 「そう簡単にくたばってたら、この仕事はやってられんよ」 「精巧な地図目当てにいろんな武装集団に狙われるとか、命が幾つあっても足りんだろ」 「それだけ俺の地図の価値が認められてるわけだ。返り討ちにした数だけ箔が付くってもんさね」

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【ある冒険者の宝物76】店の前で男が剣に怒鳴っている。それは知性ある剣のようだ。 「俺を売る!? 誰のおかげで今までやってこれたと――」 「私の力だ。好奇心で貴様を使役したが煩わしいだけだったな」 「ああそうかい、ならお別れだ！」 「話が早くて助かる。――ご主人、奴隷を一人買い取ってくれ」

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【ある冒険者の宝物77】「あなたほどの聡明な術師が、なぜ禁術に、時間操作の魔術に手を出したのです」 「ただ、やりたいことがあったのさ。永遠不変を手にして、ね……」 「教会に追われ、命を狙われたとしても、ですか。何があなたをそこまで駆り立てたのです」 「キミが、くれた、花――」

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【ある冒険者の宝物78】異邦の町を訪れたら、まずはゴミを漁ろう。捨てられたモノを見て自分の価値観と差異があるかどうか確認しておけば、交渉も滞りなく行えるだろうからな。それに場合によっちゃ、あちらさんには無価値でも俺達にとっての貴重品が捨てられているかもしれない。ゴミ山は宝の山さ。

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【ある冒険者の宝物79】「ほら、このように砂浜にはいろんなものが打ち寄せられているんですよ」 「それが誰かの大事な失せ物かもしれない、とは思わないのかい？」 「思っても仕方のないことですよ。だから私が大事に使います」 （諦めていた物が目の前にあると、執着が戻ってくるものだね……）

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【ある冒険者の宝物80】「前から思ってたんだけど、いつも同じ服着てない？」 「今さら気付いたのか！ これは俺が冒険者になるって決めたときにお前がくれた服じゃないか」 「え？ でもそれだいぶ小さかった頃の……」 「ああ、体に合うよう何度も直してるからな」 「もう原型残ってないんじゃ？」

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【ある冒険者の宝物81】『真実の鏡』それは相手の真実の姿を写し出す 「見えない邪精の討伐に必要なんだ。貸してくれ！」 「ちゃんと洗って返してくれよ」 数日後、冒険者の遺体と、ひび割れ血と泥に塗れた鏡が発見された。元から姿がなかった邪精は、真実の姿を映し出そうとも目に見えなかった。

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【ある冒険者の宝物82】「もう限界だ……食っちまおうぜ」 「目を覚ませ！ これ一粒で家が一軒建つんだぞ！」 「ちょっとだけ！ ちょっとだけだから！」 「他に食糧もない。売り飛ばす前に死んだら元も子もないだろ」 「……いや、あるじゃねえか。食えるものが」 「正気か？」 「僕も目は覚めてるよ」

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【ある冒険者の宝物83】「今日は外が賑やかだな」 「ギルドの見習い少年たちが、大事なものを収めた宝箱を埋める日ですよ」 「そうだったか。どうせすぐ現実を知るというのに」 「では私も行ってきます。引率役を務めますので」 「どうでもいい。適当に済ませておけ」 「はい。私の大事なお祖父様」

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【ある冒険者の宝物84】洞窟の奥には何かを守るように異形が佇み、辺りには骨が散らばっている。それは呪いで心身が変質した冒険者の、かつて友人だったものだ。自身の体から漏れ出る毒に蝕まれる友の様子に気付かなかった異形は、物言わぬ白骨と化した友人といつまでも共に在り続けることだろう。

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【ある冒険者の宝物85】「これは持ち主の術力に反応する炎の魔石なんだ」 「ちょっとあったかい」 「才能の証さ。いつか立派な魔術師になれるよ」 「ほんと？ ぼくがんばる！」 「幼子の成長速度は目まぐるしいものですよね」 「ん？ まあそうだな」 「ある日突然、弾けるように才能が開花して――」

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【ある冒険者の宝物86】「その蘇生薬、大事にしてたみたいだね」 「は、早く使って兄さんを」 「もし相性が悪ければ即死、運が悪ければ生ける屍。覚えているかい？」 「……」 「キミは兄さんを見殺しにしてもいいし、キミの手で死なせてもいいし、運任せでアンデッドにしてもいい」 「ぼ、僕は……」

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【ある冒険者の宝物87】「お前さあ、あの花が毒だってわかってたろ」 「好きな女の子が花冠を作ってくれたんだぜ？ んな冷めること言えるかよ」 「で、今もソレを肌身離さずってわけか。健気だねえ。いや、惚気かねえ？」 「星が落ちてくれば何もかも終いだ。最後の一日くらいカッコつけたいだろ」

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【ある冒険者の宝物88】「霊峰の湧水酒だ。最高級の――」 （……） 「これはただの干し肉じゃない。熟成を重ね――」 （……） 「お前が食えるようになったら、一緒に酒盛りしような」 （……） 「ふう、山小屋があって助かったぜ」 「お、食いモンに酒まであるぞ！ さっきの怪物が隠し持ってたんだな」

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【ある冒険者の宝物89】[ギルド通信]連続殺人事件発生。関係者の証言によると被害者は皆宝石を奪われており、犯人は金銭が目的と見られ―― 「10年前、宝石商の馬車が滑落した。あの事故、お前は覚えているな？」 「お、俺はやってない！」 「貴様で９人目だ」 「違う！ 出来心で――」 「……あと１人」

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【ある冒険者の宝物90】「ええ、あの人はきっと帰ってきますわ。一昨日は私が作ったお守りが、昨日はあの人の大事な剣が流れ着いてました。今日は中身の詰まった道具袋でしたし、そんな風にふらっと帰ってきます。いつもそうなんですもの」 水平線の向こうを眺める彼女は、頭を抱えながら呟いていた。