差別と闘い続けたウイルス研究者：共生ウイルス学の展開 第二回

ヨゴウヨシアキ @shingonkichi

㉖ ご了承の上、JCV亜型の地理的な分布を示す図５をご覧ください。赤い点は亜型が検出された地点を示します。同じ亜型が検出された地点を線で囲い、囲い線の脇に亜型の名称を記しました。読者への問題です。図５から以下の亜型ーEU-a/-b、Af1、Af2、B1-a、B1-b、B1-c、B1-d、B2、SC、CY、MYーの分布域

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㉗ をお確かめ下さい。〈日本列島におけるJCV亜型の分布〉JCV亜型の世界的な分布を解明するプロジェクトを進めながら、私たちは日本列島におけるJCV亜型の分布を解明することも試みました。北村先生は既に調査した首都圏と本州からの入植者の子孫が多い北海道を除き、日本列島の程よく分散した地点を

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㉘ 採尿地として選びました。北村先生から送られてきた粗ウイルスDNAを使って、北里大学大学院修士課程の院生が部分配列の解析を行いました。頃合いを見計らい、私は彼に解析の進行状況を尋ねました。彼はある地域のデータを私に見せるのを躊躇しましたが、私は「良いから生のデータを見せて下さい」

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㉙ と言って、生のデータを出させました。「これまで得られた結果から判断すると、日本人が感染している主なJCVはCYとMYだ。そういう目で見ると、このデータは変だ。CYでもMYでもない第三の亜型かもしれない！」と思って、院生にその正体を突き止めてもらいました。その答えは、EU-aというヨーロッパ系

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㉚ の亜型でした。このことが契機になって、JCV亜型の分布を調べる地点を大幅に増やしました。こうして、北村先生が中心になって、日本列島全域から約1,000のJCV陽性の尿検体を収集し、主に杉本智恵がJCVの亜型解析を行いました。その結果明らかになった日本列島におけるJCV亜型の分布を図６に示し、 pic.twitter.com/lakTwhRzUF

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㉛ その特徴を以下にまとめました。⑴ 日本列島には二つの主要な亜型（CYとMY）と三つの少数亜型（SC、B1-a、EU-a）が分布した。⑵ 検出された亜型の大部分（CY、MY、SC、B1-a）はアフリカ・アジア系のB型だったが、ひとつの亜型（EU-a）はヨーロッパ系のA型に属した。⑶ 主要な亜型の分布に著しい地域

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㉜ 差が認められた。すなわち、MYは東北地域に多く分布し、他方CYは西南地域に多く分布した。⑷少数亜型の内、EU-aは東北地方の日本海側に多く分布したが、西日本にも点在した。〈JCV亜型分布に基づく日本人の成り立ち〉JCVがヒト集団と共に分岐し、進化したことは旧世界におけるJCV亜型の分布パターン

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㉝（図５）によって示唆されたので、以下では、日本列島におけるJCV亜型の分布によって、現代日本人の成り立ちを考察します。⑴ CYまたはMYを持つヒト集団が主として現代日本人の形成に貢献したと推定された。この推定は、現代日本人は先住民族である「縄文人」と弥生時代に大陸から渡来した「渡来人」

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㉞ との混血で形成されたとする人類学界の定説と一致する。⑵ 少数亜型（EU-a、B1-a、SC）を持つ集団も日本列島に渡来して、現代日本人の形成に貢献したと推定された。以上の知見を報告する論文は日本人類学会の機関誌に掲載されました（Kitamura T et al. 1998. Peopling of Japan as revealed by

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㉟ genotyping of urinary JC virus DNA. Anthropol. Sci. 106:311-325）。〈日本を築いた人々の起源〉上記の論文を発表してから、日本列島以外の地域におけるJCVの分布に関する情報は著しく増加しました。以下において、日本列島で検出された主要なJCV亜型であるCYとMY、及び少数亜型のひとつである

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㊱ EU-aを日本列島に運んできた人々の起源を探ります。⑴ CYは中国北部に多く分布し、その他モンゴル、韓国にも分布する。CYを持つ東北アジアの集団が日本列島に渡来して、弥生人となったと言う推定は間違いないであろう。⑵ MYは日本と韓国では頻繁に検出されるが、他のアジア諸国では検出されない。

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㊲ しかし、後述するように、北極圏の先住民を除くアメリカ大陸の先住民からはMYが高頻度で検出される。さらに日本・韓国のMYとアメリカ先住民のMYは3万年前～1万年前に共通の祖先から分岐したことが示唆された。おそらく、東北シベリアに居住した、祖先MYを持つヒト集団が二つに分かれ、そのうちの

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㊳ ひとつが日本と韓国に渡来し、他のひとつはベーリング陸橋（注：氷期にアラスカとシベリアの間に存在した地峡）を渡ってアメリカ大陸へ進入し、アメリカ大陸の南部まで拡散したと推定された。⑶ 東北地方の日本海側で発見されたEU-aは現在ヨーロッパで蔓延しているEU-aとは区別されることが全長塩基

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㊴ 配列の解析によって確認された（詳しくは後述）。したがって「東北地方の日本海側で検出されたEU-aは明治以降にヨーロッパ系の人々によって持ちこまれた」と言う説は否定され、太古において日本列島に渡来した白人系の集団も現代日本人の形成に寄与したと推定された。なお、西日本でもEU-aが散見

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㊵ されるが、これらは在日韓国人や朝鮮人が保有するものかもしれない。事実、韓国におけるEU-aの存在は私たちの他、二つのグループが報告している（Jeong et al., 2004;　Cui et al., 2004）。〈永井教授時代のまとめ〉永井教授のお陰で私はウイルス感染の助教授に昇進しました。企業に就職していた

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㊶ 杉本智恵は東大大学院医学系研究科博士課程に入学し、旧世界及び日本列島におけるJCV亜型の分布の解明に貢献しました。助教授の私は研究部内の人間関係で問題が起きないように、「朝回り」を実施しました。私は、「出張が多い主人は安心して研究室を空けられました」と教授夫人に感謝されました。

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㊷ ５．河岡義裕教授時代　医科研の組織が変わり、ウイルス感染は感染免疫大部門ウイルス感染分野に衣替えし、教授にはインフルエンザウイルスの研究で有名な河岡義裕先生を迎えました。形式的には私は河岡教授の部下となりましたが、出勤簿に印鑑を押すなど、事務的なことを教授秘書にお願いする以外

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㊸ 余郷グループは河岡グループから独立していました。〈系統樹解析の壁〉この時代、私たちの研究は大きな壁にぶつかっていました。これまでJCVの塩基配列のデータを使って分子系統樹を作成するとき、塩基置換が比較的多い領域（610塩基対のIG領域）を用いて系統樹を作成していました。このやり方でも

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㊹ コンピューターはデータに合致した系統樹を推定してくれます。ところが、コンピューターに「推定が正しい確率は何％ですか」と問いかけますと、コンピューターは、系統樹において「各クラスターが形成される」確率―ブートストラップ（BP）値―を求めてくれます。BP値は普通パーセントで表示され、

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㊺ 一般にBP値が90％以上だと信頼できると判断されます。610塩基対のIG領域を使って作成された系統樹に対してこの検定を行うと、ほとんどの亜型に対するBP値が50％以下という悲惨な状態でした〈長谷川政美先生に面談〉私と杉本智恵は、この状況を克服するためにどうすべきかを話し合いました。彼女は

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㊻「統計数理研究所の若い先生が丁度、医科研の講習会に来ているから、その先生に相談したらどうか」と言いました。私は「ここは、系統樹解析のナンバーワンの研究者である長谷川政美博士（統計数理研究所教授)に教えを乞うべきではないか」と言って、二人で長谷川先生にお会いすることを杉本に了承

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㊼ してもらいました。９月のある暑い日に、二人は統計数理研究所の長谷川教授の研究室を訪ねました。自己紹介もそこそこにして、杉本は「私たちは610 bpの配列で系統樹を作っていますが、BP値が低くて困っています。4800 bpの全長配列で系統樹を作成したら、BP値は上がりますか」と長谷川先生にズバリ

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㊽ 尋ねました。先生は「上がります」と断言しました。私は「世界中に分布する代表的な株の全長配列を用いて近隣結合法で系統樹を作ってみます。結果が出ましたら、データを他の方法でもご検討して頂けますか」と尋ねました。長谷川先生にはご快諾いただき、今後はメールで連絡することになりました。

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㊾「全長配列を使えばBP値は上がる」と言う長谷川先生の一言で、杉本の頭は全長配列を基にした新た研究へと切り替わったようでした。杉本は、部分配列を用いた従来の解析を確認するために、先ず全長解析の総論を書くべきだと言いました。私は彼女の考えは尤もだと思い、彼女の考える通りにやってもらい

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㊿ ました。〈全長解析、総論〉早く結果を出すため、杉本は既に報告されているJCVの全長配列も利用しました。他グループが報告した全長配列が20配列、私たちの仲間が報告した全長配列が７配列、杉本が新たに決めた全長配列が38配列、計65の全長配列を使って、近隣結合法で系統樹を作りました。なお、