稲川淳二の『つぶやき怪談』(2022.11.29)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

私が、軽く相槌を打つと、その人、うれしそうに、続けました。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その面は、中国の古典的な面で、 面の下にはよだれ掛けみたいな感じの、 光ってる青いレース風のものが下っていて、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

肩には袖みたいのがついているという、 かなりの細工物の面でした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

材質は石でも、象牙でもない感じで、 ツルッとして、軽いんで、焼き物らしいんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

正確には分からないんですがね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それは、日本の面とはまったく違う感じの、 真っ白い顔の面でした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時の、本当にうれしそうな顔が、 ほんの数ヶ月後に･･･、変わったんですよねえ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その人の自宅は、東京から、ずっと離れているんですけど、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

仕事の中心は東京ですから、 自宅とは別に、都心にマンションを持っていて、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

仕事の都合で、 何ヵ月に何度かは、そのマンションに泊まるのが、常でした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その夜も、 その人は自分のマンションに、泊まりましてね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、夜中。 何か知らないけど、こう、すごいからだが重くって、熱っぽくて、うなされたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、 「ハァッ、ハァッ！」 という、自分の悲鳴で、ファッて、起きたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（一体何だ！？）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、思いながらも、ボーッとしてたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうしたら、窓んところからね、赤色がさしている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、よおく見たら、部屋の中自体が、すごく赤い。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（なんでこの部屋、こんなに赤いんだ？ まさか、近くに、でっかい広告塔でもできたんかなあ）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思って、窓を見たけど、 そんなものも見えない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（なんでだろうなあ。 何でこんなに赤いんだろうなあ）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

頭は、ボーッとしてるんですが、 とにかく、もう少し確かめようと、 フラフラと立ち上がり窓の方に行って、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

窓を見たら、やはり、なんにもなかった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時に、遠くの方で、 サイレンの音がしたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（あれ、消防車のサイレンだなあ････どっか、 火事なのかなあ）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そんなことを、ぼんやり思いながら、 また、フラフラとしながら、 とにかく布団に入った。