三国志こばなし集 関羽千里行編

三国志こばなし集 @omikanboy3594

関「塩が違ったのだよ、そこの飯屋は」 周「…塩が違う？」 関「何をどこで食っても、あの飯屋の味を思い出してしまうほど違ったぞ」 周「…とんでもねえ飯屋ですね、そこ」 関「そうだ」 周「大繁盛だったんでしょうね」 関「そう思うか？」 周「違うんですか？」 関「知る者しか知らぬ店だったのだ」

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周「初めての客お断り、っていう？」 関「それもまた違う。あの飯屋の本当の凄さが、分かる者にしか分からぬ、という意味だな」 周「…めちゃくちゃかっこいい飯屋ですね」 関「だろう？」 周「その飯屋の爺さんに教えてもらったんですか？」 関「爺さんが死ぬまで何も教えてもらえなかったよ、周倉」

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周「ええ…」 関「だが、一度だけヒントを教えてもらったと思ったことがある」 周「何ですか？」 関「塩が違うのかな、と呟いたことがあった」 周「はい」 関「その時の爺さんの顔を、今でもはっきりと覚えているのさ」 周「…なんと言ったらいいか」 関「久しぶりに思い出したな、爺さんのことを…」

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周「その爺さんの名前は？」 関「…知らないし、知るつもりもなかった」 周「なんで!?」 関「爺さんも、私の名前など知らなかったはずだ」 周「はあ…」 関「そんな関係が私には心地よかったのさ、周倉」 周「…大人な話ですね」

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関「いつしか私も、そんな塩を探し求めるようになっていた」 周「そうなりますよね！」 関「塩という塩を舐め尽くした自負があるからな」 周「それでも満足しなかったんですか」 関「しなかったのではなく、できなかった」 周「ええ…」 関「なぜそれほど塩に固執するのかも、周りから理解されぬしな」

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周「…それだけの過去があるんなら、俺にはよく分かりましたけどね」 関「誰にでも話すような話だと思ったか、周倉？」 周「…」 関「だがある時、手がかりを見つけることができた」 周「どこでです？」 関「今では私の仲間たちの居場所になっている店があってな」 周「はい」

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関「そこの吸い物の味に覚えがあったんだ」 周「例の飯屋の？」 関「ああ」 周「…」 関「店主は何も気にしてなさそうだったが、私は驚いたよ…」 周「でしょうね…」 関「そこの塩はヒマラヤのものを使っていることは掴めた」 周「…」 関「だがその時の私は、既存のヒマラヤの塩など全て知っていた」

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周「言ってましたね」 関「つまり、既存品では無かったということだ」 周「…それを探し求めたんですか？」 関「大変だったよな、ホー」 ホ「カンウさんがこの辺のあちゃこちゃでシオだけナメにきたんやで？」 周「わあ…」 ホ「ナメとんのかってオモうでしょ？」 周「？」

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関「だがある日、ホーに声をかけられてな」 ホ「ええシオありまっせって」 周「それが今回の？」 関「うむ」 ホ「カンウさんがトリヒキしてくれたおかげで、みんなハッピーになれてね」 周「はい」 ホ「アッチみて」 周「!?」 ホ「カンウさん、このへんのカミサマ」 関「…いつ見てもおもばゆい像だ」

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関羽…スタンドプレーでヒマラヤ岩塩を探し求め続けた結果、贈答用の塩として大貢献できたし、何より現地に莫大な貢献ができた。 周倉…帰ったら塩のことをもっと勉強しますね。 ホー…謎の現地ガイド。関羽が出張する時の相棒。

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劉備「…今日の吸物も最高だな、憲和」 簡雍「おうよ」 劉「本当にお前の吸物だけはどこの吸物飲んでも思い出しちまう」 簡「雲長も似たようなこと言ってたんだ」 劉「へえ？」 簡「あいつは塩と香辛料の達人だが、塩に関してあいつ以上詳しい男を俺は知らねえ」 劉「塩が大好きな奴だとは思ってたが」

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簡「あいつがこの店に初めて来た時によ」 劉「おう」 簡「俺の吸物一口飲んだ時の顔を忘れらなくてな」 劉「どうなったんだ？」 簡「怒涛の質問攻めさ」 劉「関さんらしいね」 簡「…でも不思議なことがあると思ってさ」 劉「ああ？」 簡「俺が大好きな飯屋の爺さんがいてな」 劉「初めて聞く話だな」

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簡「俺はその爺さんの吸物が大好きで通ってたんだが」 劉「おめえの師匠か！」 簡「…そんなもんかな」 劉「んで？」 簡「雲長の奴はその爺さんの塩に惹かれてたらしいのさ」 劉「マジかよ」 簡「確かめたことはねえがな」 劉「いい話だねえ」 簡「…雲長が帰ってきて次来た時にゃ、聞いてみようかな」

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劉備…えらいところに出張してるらしいからな、関さん。 簡雍…あの爺さんの飯をもう一度だけでいいから食いてえもんだよ。

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関羽「やあ、みんな」 民「カンウさん！おひさしぶり！」 周倉「大人気ですね」 ホー「カミサマだから」 関「長はいるかな？」 ？「関羽殿。よくぞお越しいただきました」 関「今年もお世話になります、シュー殿」 シュー「はい。集落で一番大切なお取引ですからな」 関「では早速…」 シ「関羽殿」

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関「なにか」 シ「今宵だけは仕事の話を抜きに、我らであなた方を歓待させてくだされ」 関「なんと…」 シ「いかがかな？」 関「喜んで、お言葉に甘えさせていただきます、シュー殿」 シ「そちらのお若い方も、お腹が空いているでしょう？」 周「はい。腹ペコのクタクタです…」 シ「正直でよろしい」

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ホ「ほいじゃ、カンウさんとシュウソウくんは宿についてきて」 関「ありがたい」 周「…移動しかしてないのに、この俺がこんなヘトヘトになるなんて」 関「スタート地点に着いただけだ」 周「…」 関「宴までには間に合わせろよ」 周「はい！」 ホ「ジュンビOK！」 関「行くぞ、周倉！」 周「はい！」

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シュー「遠い国からお越しいただいた、関羽殿と…」 周「周倉です！」 シ「周倉くんを歓迎する宴を始める！」 周「見たこともない食い物ばっかりだ！」 関「郷に入れば郷に従えるな？」 周「はい！」 シ「それでは村の皆、杯を片手に」 周(…これは酒？) 関(郷に入ったなら仕方あるまい) 周(やった！)

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シ「二人の遠方の朋に乾杯！」 関「乾杯！」 周「!?」 関「さすがに強かったか！」 周「…なんの酒ですかこれ」 ホ「このムラでツクったおコメのサケね」 周「初めて飲む酒だったんですよ…」 関「強烈な出会いだな、周倉！」 周「…酔っ払ったら、助けてくれますよね、関羽殿」

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関「それが上司の仕事だ！安心して楽しめ！」 周「はい！」 ホ「オレとおいでよ、シュウソウくん」 周「お願いします！」 関「…」 シ「気のいい若者ですな」 関「ああ。いい奴だと思っていたが、こんなにもすぐに村の皆と仲良くなれるほどとは」 シ「…仕事の話は抜きにと言いましたが」 関「はい」

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シ「実は、新しく来た者どもが不躾な商いを目論んでいましてな…」 関「なに？」 シ「私たちの住まいから遠くの者たちですが、理不尽な商いを強制されているという噂がございます」 関「…やはりそうだったのか」 シ「何かご存知なのですか、関羽殿？」 関「実はな、シュー殿」 シ「聞かせてくだされ」

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関「おっしゃる通り、塩や香辛料の質と価格があまりにそぐわないものが、こちらでかなりの量流通しているのですよ」 シ「なんと…」 関「趙累に調査させていたのですが」 シ「お懐かしい名だ」 関「回答を得る前に出張することとなりましたが、その事実は間違いないでしょう」 シ「…悲しいことです」

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関「サンプルをご用意しておりますので、明日からご協力をお願いします」 シ「もちろんです」 関「劉焉という男を代表とする大手商社の品でして」 シ「劉焉…」 関「そのような商いをする者とは思えなかったのですが」 シ「しかし、よくぞ気づかれましたな」 関「趙累の調査のおかげですよ、シュー殿」