人質救済に関するユダヤ教の倫理観とイスラエルのジレンマ

直立演人 @royterek

ハマスとイスラエルの極端に非対称的な戦闘はこれまでにも何度も繰り返されてきたが、今回の事態はイスラエルにとって過去の事態とは比較にならないほど困難な状況に追い込まれている。これだけたくさんのイスラエル人が人質になったからには、無制限の空爆をすれば事足りるとすることは到底できない。

直立演人 @royterek

イスラエルは、いかなる手段を講じてでも捕虜の奪還を史上命令としてきたユダヤ教のエートスを曲がりなりにも継承しているので、捕虜交換で通常では考えられぬような妥協を見せることも珍しくなかった。それどころか、イスラエル兵の遺体の奪還のために何十人ものパレスチナ人を解放したことさえある。

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ハマス側もこのことは知り抜いているので、イスラエル人の捕虜の命と引き換えにタフな要求をしてくることは当然予想される。ネタニヤフ政権は強力な報復を宣言してはいるが、これまでにない規模の軍事行動を採れば人質の命の保証がないので、これまでとは比較にならないほど難しい選択を迫られている。

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イスラエルは2011年、ハマスとの捕虜交換交渉で、ガザ検問所付近で拉致されたイスラエル兵ギルアド・シャリートただ一人を奪還するためにパレスチナ人1027名の解放に同意したことさえある。これに鑑みると、今回の事態はイスラエル建国以来最悪の事態と言っても過言ではない。 en.m.wikipedia.org/wiki/Gilad_Sha…

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ハマスの戦闘員がイスラエル人を生け捕りにして狂喜乱舞しているのは、単に野蛮だからというのではなく、イスラエル人の捕虜一人がパレスチナ人1000人ほどの価値をもつということを経験的に知っているからだと思われる。

直立演人 @royterek

イスラエルがロシアで、ネタニヤフがプーチンだったら、人質の命等お構いなしにガザを徹底的に空爆してハマスを完膚なきまでに叩いているだろうが（何千人もの市民を巻き添えにして）、イスラエルという世界の半分のユダヤ社会を代表するネタニヤフが人質の命を一顧だにしない行動に出るとは思えない。

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もちろん、ネタニヤフとネタニヤフの命令に従う国防軍が人質の命をほとんど顧みない形で無差別かつ無分別な報復に踏み切ることも十分考えられる。しかし、それで捕虜の命を失うことになれば、2000年来のユダヤ的伝統に背を向けることになる。もっとも建国の時点で相当脱ユダヤ化が進んだのではあるが。

直立演人 @royterek

BBCによると、ハマスが人質にとったイスラエル人は53名とのこと。これは間違いなくイスラエル建国以降における最悪の事態の一つである。死傷者の数の上ではもっとひどい事態はいくらでもあったが、逆説的ながらも、イスラエルにとっては、死者よりも捕虜を生み出す事態の方がはるかに始末が悪いのだ。

直立演人 @royterek

兵士一人に1000人以上のパレスチナ人囚人の交換というシャリートの件もインパクトがあったが、これに匹敵するインパクトがあったのは、2004 年に成立したイスラエル兵３名の遺体（2000年にガザ検問所付近で死亡）タンネンバウムという国外で活動していたイスラエル人犯罪者と340名の囚人の交換だった。

直立演人 @royterek

おそらく他の国家や民族ではおよそ考えられないことだが、イスラエルでは兵士の遺体ですら捕虜交換（遺体の交換ではなく）の対象になってきたのである。これは、遺体への敬意（Kavod hametim）というユダヤ教で極めて重視されてきた戒律の伝統に裏打ちされたエートスの影響であることは明らかである。

直立演人 @royterek

ユダヤ人にとって人質が昔からいかに身近な問題であったかを知るためには、中世から近世にかけてのユダヤ人の間で語られてきた説話集の類を紐解けば、難なく理解できる。ユダヤの民間伝承には、人質にとられるか、濡れ衣を着せられて幽閉された同胞のユダヤ人を共同体を上げて救出する物語が頻出する。

直立演人 @royterek

ユダヤ人はことあるごとに誘拐されては人質にとられたが、そのたびに共同体を上げて法外な身代金を払ってきた。そうしたことが常態化すれば、当然、身代金も吊り上るわけだが、同胞の命を救済できるものなら、つねにできることはやり尽くすのが通例だった。そのことで後で文句を言う者もいなかった。

直立演人 @royterek

「一つの魂を破せば、あたかも全世界を壊したかのようにみなされる。一つの命を救えば、あたかも全世界を救ったかのようにみなされる」（タルムード「サンヘドリン」４：９）

直立演人 @royterek

異教徒の権力に文字通り生殺与奪の権を握られたディアスポラという条件にあって、ユダヤ人はこのタルムードの教えを忠実に実行しようと努めてきた。捕虜奪還のための尋常ならざる妥協に見られるように、この教えの残滓は、自分たち限定であるとはいえ、今日のイスラエル社会にも息づいているのである。

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ハマス「人質処刑」警告、イスラエルにジレンマ jp.wsj.com/articles/israe… 「ハアレツ」も含めてイスラエル紙が人質の問題というセンシティヴな内容について軒並み沈黙する中（箝口令でもあるのか？）、WSJが現時点では極めて包括的で重要な記事を発表。

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「ハマスの軍事部門カッサム旅団の…報道官はアラブ系衛星ニュースチャンネルで放送された声明で、「今後、事前の警告なしに民間人の住宅が標的にされれば、残念ながらその度に、われわれが拘束している敵の民間人人質のうち1人が処刑される。われわれはそれを放送せざるを得ないだろう」と述べた」

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「軍事作戦が続く中、人質の家族はネタニヤフ氏に対して人質の命を守るよう強く求めている」

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「囚人・人質交換合意を結ぶという選択肢は、イスラエルにとって受け入れ難いプロパガンダ上の勝利をハマスに与えてしまう恐れがある。イスラエル人を取り戻すのと引き換えに数百人、数千人もの拘束中のパレスチナ人を解放することにつながりかねないためだ」

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「イスラエルの退役准将…アリエル・ヘイマン氏は、「われわれは人質のことを心配している。今回は一般市民、とりわけ女性や子どもだ。しかし、今こそハマスと戦うべき時であり、全てのイスラエル人がそれを支持している」と述べた。「今はどんな判断が下されたとしても、双方が敗者となる状況だ」」

直立演人 @royterek

「ネタニヤフ政権はハマスから人質を殺害し始めると脅される前から、あらかじめ人質解放を勝ち取るための譲歩に踏み切ることなく軍事作戦に着手するよう、極右の有力閣僚から圧力を受けていた」

直立演人 @royterek

「ベザレル・スモトリッチ財務相は7日夜の閣議で、「人質のことをあまり重要視せず、容赦なくハマスを攻撃する」ことをイスラエル軍に求めた」 ↑これは明らかにユダヤ教の精神に悖る。少なくとも2千年近くの離散を通じて培われてきたラビ・ユダヤ教の精神とは正反対とも言える姿勢である。

直立演人 @royterek

「イスラエルでは建国以来、たとえ少人数の人質であってもその命運が深刻な国家的トラウマをもたらしてきた。歴代政権は人質事件に際し、交渉によって解放を実現したり、軍事的常識に反するような大胆な救出作戦を展開したりしてきた」

直立演人 @royterek

「ネタニヤフ首相の兄のヨナタン・ネタニヤフ氏は1976年、パレスチナ人率いる武装集団によって航空機がハイジャックされた後、ウガンダのエンテベ空港で人質となっていたイスラエル人106人を救出するという特殊作戦を指揮していた中で死亡した」←ネタニヤフ人気の理由の一つ。

直立演人 @royterek

「人質4人とネタニヤフ氏を除く全員が無事に救出された。だが、ガザ地区ではより多くの人質が分散して拘束されており、同じような救出作戦が行われる可能性は低い」

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「ハマスによると、イスラエル人の人質の一部は武装勢力が使用するガザ地区の地下トンネルに収容されている。それ以外は、面積約365平方キロの同地区全域でさまざまな武装グループによって拘束されているという」