昨今のインフレーションおよび円安におけるMMT的な一考察

Keywords: コストプッシュインフレ、スタグフレーション、利潤主導インフレ、価格決定力、金利政策の問題点、Job Guarantee, Targeted Spending、ハイマン・ミンスキー、高金利政策による金融・為替不安、MMTの国際経済におけるインプリケーション
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

Nikoforos & Grotheのレポート ineteconomics.org/perspectives/b… も非常に興味深いです。 彼らによれば、2020-23の物価上昇においては、名目賃金の変動は比較的小さく、ほとんどが利潤に起因しており、国民所得に占める利潤の割合が増加したため、profit-led / seller’s inflationと俗称されているようです。

2023-11-05 14:46:37
リンク Institute for New Economic Thinking Markups, Profit Shares, and Cost-Push-Profit-Led Inflation To what extent is profit-led inflation compatible with what we know about the price-setting behavior of firms and income distribution? 113
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

Structuralist/Kaleckianの一般的仮定では、企業は生産コストに対してマークアップを加えて価格設定すると考えます(フルコスト原則)。 利潤シェアは循環的変動があり、不況期に減少した利潤シェアが後に反跳する傾向にありますが、直近のインフレでは一本調子に利潤とマークアップが増大しました。 pic.twitter.com/lUxTulv7QX

2023-11-05 14:51:23
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

背景としては、労働者の立場の低下のため、企業は賃金の上昇をあまり伴わずに、材料費の上昇を転嫁できるようになり、さらなるマークアップによる利潤の積み増しすら起きていることが挙げられています。(このメカニズムは、マークアップとフルコスト原則を分かっていないと理解しがたいでしょう)

2023-11-05 14:54:14
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

さて、「インフレ/スタグフレーションによってMMTは"オワコン"になった」という主張が巷間に目立ちますが、MMT設立史における最重要人物の一人:ハイマン・ミンスキーは、まさに1970年台当時のアメリカのスタグフレーションの渦中真っ只中にいた人物であり、上記主張はあまりに無学文盲に過ぎます。

2023-11-05 14:59:39
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

参照: levyinstitute.org/pubs/wp_900.pdf ミンスキーは少なくとも1968年の時点で、純粋な総需要の全般的な増加で完全雇用を達成するのは不可能であると考えるようになっていました。 その理由としては、民間部門支出の刺激を経由することで金融不安定が高まってしまうこと、及び

2023-11-05 15:00:24
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

高度化した部門でコストが上昇し、雇用増加に先行して高インフレが惹起されてしまうことを挙げていました。そこからミンスキーのEmployer of Last Resort(現代におけるいわゆるJob Guarantee)の発想が出てくるわけです。 もし仮に「呼び水」政策によって一時的に

2023-11-05 15:01:01
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

完全雇用に近い水準に達したとしても、それは「多幸症」的な投資ブームによるものであり、長期的に持続可能とはなり得ないとミンスキーは考えていました。 プレーンな形での機能的財政論と呼び水政策を放棄したという点のみにおいては、機能的財政論を唱えたあのアバ・ラーナーも似た道を辿り、

2023-11-05 15:01:48
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

stop-go-stop政策を繰り返すことで、相対的高失業とインフレーションの併存が生ずることをミンスキーもラーナーも懸念しました。 ラーナーは最終的に、ミンスキーと大きく異なり、反循環的財政政策の全否定、均衡財政の徹底、賃金物価に対する統制、中央銀行による集計的需要管理の徹底を主張し、

2023-11-05 15:02:23
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

均衡財政主義・物価規制つきのマネタリズムに移行してしまいました。 ミンスキーとラーナーの主張の相違は、本質的には金融不安定性への懸念の程度と、カレツキー型の利潤方程式アプローチを受け入れたか否かに起因していたように思われます。

2023-11-05 15:02:53
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

金融不安定性を考慮すれば、反循環的財政は放棄不能であり、利潤方程式によるインフレへのミクロ的分解は、かつてのミンスキーが(マネタリズムではなく)targeted spendingを目指す根拠となったわけです。 (なぜか一部の人はMMTと財政的ファインチューニングを同一視しますが、実際には逆です) pic.twitter.com/BrTks0lxmp

2023-11-05 15:04:57
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

さて、関連して、直近の円安に関しても触れます。 最近、QQEの中止(実質的利上げ)によって円安を解決せよという主張が増えてきたように思います: shikiho.toyokeizai.net/news/0/705370 hokende.com/news/blog/entr… しかしながら、

2023-11-05 15:10:13
リンク 保険市場TIMES 野口 悠紀雄氏コラム「円安に対してどのような政策が必要か?」 - 保険市場TIMES 著名人の人生経験や知識から豊かな人生を送るためのエッセンスを提供したい「一聴一積」コラム。野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)さんによる『円安が日本を滅ぼす』第3回は、「円安に対してどのような政策が必要か?」。 9
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

利上げによる円安対策/通貨高政策は諸般の問題があると考えます: ・ そもそも利上げが総需要抑制効果を持つかが不透明。 ・ コストプッシュインフレ/スタグフレーションに機械的に緊縮策を取ることが不適切。 ・高金利政策はむしろ対外負債を増幅して金融・為替の不安定化を招く(後述)。

2023-11-05 15:10:35
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

過去に拙著で述べたように、金利政策に関してMMT/MMTerは、効果の不確実性(インフレに働くか緊縮的に働くか分からない)、不安定性(仮に効くとしても程度が不安定)、不平等性(金利所得者の所得を保護する一方で失業者を増やす)という3つの軸で批判を加えています。 pic.twitter.com/Aoy0OZ31ZS

2023-11-05 15:12:19
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

また、仮に利上げが主流派の想定通りの緊縮効果を持ち得ると仮定した場合でも、コストプッシュ・インフレ/スタグフレーションに対して機械的に適用すべきではないと考えます。 というのは

2023-11-05 15:13:07
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

生産コスト上昇に対する利上げは、貨幣性生産サイクルを”賄おう”とする(=返済資金等を確保しようとする)企業を滅ぼしてしまうことになり、結果として不況を惹起し、却って生産能力を毀損してしまうからです。これは実は過去のハイパーインフレ国で価格統制政策が企業にトドメを指すのに似ています。

2023-11-05 15:14:11
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

また、先述したように、高金利政策が逆説的に金融・為替不安を増幅しうる機序もあります。 順を追って説明します: 多くの途上国・新興国では、インフレ抑制や通貨安抑制のために大幅な利上げ、高金利政策が施行されていますが、こうした利上げや高金利により、当該国の民間企業の利潤が抑圧されます。

2023-11-05 15:16:12
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

この場合、中途半端に資本移動の自由があると、より金利の低い先進国から資金調達するインセンティブが生じてしまいます。こうした外貨借入(→自国通貨購入)自体は、どちらかといえば自国通貨の価値を高め、安定化させる方向に働くので、

2023-11-05 15:16:29
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

国際経済が安定している場合は為替レートが安定したままとなり、外貨借入に歯止めがかかりません。 その結果、国際経済不安で一気に資金回収されると、大規模な外貨債務不履行が生じてしまうのです。 参考: crowdcredit.jp/blog/entry/301/

2023-11-05 15:18:03
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

関連するポストとしては、是非下記の拙note記事をご参照ください: 日本は本当に財政危機? ―世界各国の財政破綻例を見てみよう|望月慎(望月夜) @motidukinoyoru #note note.com/motidukinoyoru…

2023-11-05 15:19:09
リンク note(ノート) 日本は本当に財政危機? ―世界各国の財政破綻例を見てみよう|望月慎(望月夜) 以前、なぜ日本は財政破綻しないのか? というnoteで、大まかな(通俗的)財政破綻論の批判的検討と、実際の財政破綻パターンの確認を行いました。 今回は、より一層深く「財政破綻」の実像を知るために、世界各国のこれまでの財政破綻をピックアップして分析してみることにします。 目次は以下の通りです。 ①アルゼンチン、トルコ ②ロシア ③アジア通貨危機 ④そもそも何故、途上国・新興国は外貨建て債務を積み上げるのか? ⑤ギリシャ、アイルランド ⑥ジンバブエ、ベネズエラ ⑦自国通貨建て国債破綻全般について ⑧まとめ 関 3 users
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

ちょっと脱線しますが、よく「MMTは国際経済を考慮していない」、「為替・国際経済を考慮すればMMTは無効になる」という、正気・・・・・・じゃなかった本気かどうかを疑う言説をよく目にします。 pic.twitter.com/LhzpE9YYqB

2023-11-05 15:25:39
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

むしろMMTは、固定的な為替制度の不安定性や、経常収支赤字がむしろ財政赤字を”必要”とする構造(そうでなければ却って金融不安定性が増悪する)など、国際経済的に重要な知見を提供しています。 これらに何かしら反論するのであればまだ理解できるのですが、はなから無視するのには得心しかねます。 pic.twitter.com/4YPnXCXbYc

2023-11-05 15:32:20
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