- kasajimajima
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ホームズ死す! 1893年12月、世界的名探偵シャーロック・ホームズは仇敵モリアーティと相打ちとなり、共にスイスはライヘンバッハの滝に落ちた! 民衆は英雄の死を嘆き、真の殺人者たる作者ドイルに誹謗中傷が降り注いだ。已む無くドイルは再びペンを取る。 「さて、どう辻褄を合わせたものか……」 pic.twitter.com/rY0lhtWaH3
2023-11-06 19:49:12エドワード・ウィリアム・バートン=ライトはインド生まれのイギリス人エンジニア。幾つかの職を経た後、招聘されて開国間もない日本にやってくるも、ここで彼は柔術と出会う。 「凄い! まるで魔法のように人が次から次へと投げ飛ばされていく。それも背が低くて痩せた男相手にだ!」 pic.twitter.com/F0unKOUAsL
2023-11-06 19:55:36背が低く、体格に恵まれない事をバネに柔術に励んできた柔術家で教育者、嘉納治五郎の講道館で短期間修行を積んだバートン=ライトは、これはイギリスで流行を巻き起こせると考えた。 バートン=ライトは元々武術や格闘技に関心が強く、ヨーロッパ人がまだ知らない東洋の神秘を持ち帰ろうと決意する。 pic.twitter.com/W4Gsca5n9c
2023-11-06 20:00:26こうして生まれたのがバートンとジュージツの名を組み合わせた、西洋と東洋の折衷的なスタイルを持つ新しい護身術、バーティツだった。 「イギリスのボクシング、フランスのサバットと杖術、そして日本の柔術を組み合わせた、いついかなる状況にも対応し得る紳士のための護身術だ」 pic.twitter.com/7bScCIcOhm
2023-11-06 20:04:31どちらかと言えば格闘技マニアであり、武術家とは言えないバートン=ライトがこのような護身術を作り、道場を開いたのには訳がある。彼は実業家として、こうした道場への大衆の興味が高まっている事を察知し、東洋の神秘を売り物として事業を興そうとしていたのだった 何せ当時は空前のスポーツブーム
2023-11-06 20:07:18その理由は意外と根深いところにあり、19世紀、絶頂を極めたはずの大英帝国は没落の足音に悩まされていた。 きっかけとなったのはボーア戦争で、南アフリカの小国2つにイギリスは全力を投射してなお苦戦し、なりふり構わぬ非人道的な作戦までやってようやく勝利を拾う始末。 twitter.com/elizabeth_munh…
2023-11-06 20:09:49ヴィクトリア時代末期、イギリスは最盛期を謳歌していた。七つの海を支配し、世界中に海外領土を抱えるイギリスは日の沈む事のない帝国と呼ばれ、名実ともに世界一の大国として君臨する。 1901年、その尖兵たる無敵イギリス陸軍は、南アフリカで民兵相手に壊滅状態に陥っていた。 pic.twitter.com/mYSRgWyALH
2023-05-04 21:43:42生きる事即ち戦いの日々を過ごした勇猛果敢なボーア人兵士達に対し、イギリス陸軍兵士の軟弱さが危機感をもって受け止められた。 「士官はともかく、今どき兵士に志願するのは痩せぎすの半病人である貧民だ! このままでは、イギリス人は『退化』し、他国に飲み込まれてしまう!」
2023-11-06 20:12:20この思考の背景には適者生存を説くダーウィン主義(進化論)を社会に適応した社会的ダーウィン主義がある。 不衛生な工場区で一日中働き、楽しみと言ったら酒くらいで、どんどん不健康になる貧乏人。そんなものが英国陸軍の根幹を担うようでは、この国の先は暗い。 そんな実感がイギリスに渦巻く。
2023-11-06 20:16:18かくしてマチズモが礼賛された。強靭な肉体、雄々しい筋肉、剛健なる精神こそが理想的なイギリス人 かつて貧民と富者の体格差は支配の正当性を示す物だったけど、『自然淘汰』の恐怖が彼らを極端な筋肉崇拝に駆り立てる 格闘技も持て囃された。逞しい筋肉はそれだけで賞賛に値した。ボディビルの元祖 twitter.com/elizabeth_munh…
2023-11-06 20:19:49ヴィクトリア朝時代のイギリスではスポーツ熱が渦巻いていた。それまで農村の娯楽として行われていた物が急速にルールを整備され、普及して行く。サッカー、ゴルフ、ラグビー、クリケット。卓球なんかもそう。はいそこ民明書房禁止。 こうした中でスポーツと信仰が結びつく。それが筋肉的キリスト教。 pic.twitter.com/hiBbknlnHW
2023-04-30 16:23:44護身術が流行する理由はまだあった。近世以来の厳罰主義を改め、犯罪者の更生を主眼として刑罰が緩くなると、実際には治安が良化しているにも関わらず、体感治安は悪化し、暴漢があちこちにいるかの如くマスコミも書きたてる。切り裂きジャック以来このネタは売れ筋だった。 twitter.com/elizabeth_munh…
2023-11-06 20:23:25ヴィクトリア期イギリスの流行のファッション() これは襲撃者から首を守るためのアンチ・ガロッティング・カラー 19世紀中頃のイギリス、ロンドンは絞殺魔の恐怖に怯えており、物陰から物取りが忍び寄り、背後から首を絞めて殺害すると社会的なパニックになっていた。 pic.twitter.com/IC5mu7CT0w
2022-08-11 22:16:14このような社会的背景から護身術需要は高いとバートン=ライトは踏んでおり、そこに東洋の神秘と言うブランディングを施してバーティツ道場を開く。 現代で言う総合格闘技の走りとも言えるけど、バートン=ライトの実力はあまり高くなく、実態はサバットや柔術をバラバラに教わるだけだった。
2023-11-06 20:26:22残念ながらバートン=ライトはあまり商売が上手くなく、バーティツ道場は長続きせず、僅か5年ほどで維持できなくなった。彼はその後、パイオニア的な医学に進むものの、こちらもあまり上手くいかず、最期は貧困の中で亡くなる。バーティツも忘れられた。
2023-11-06 20:28:35バートン=ライトはツいていなかった。何せ彼がバーティツを諦めたその翌年に日露戦争が起こり、その更に翌年には日本がロシアに勝利したため、イギリス人の柔術に寄せる関心は遥かに高くなっていたのだから バーティツ講師として呼ばれた日本人柔術家はバートン=ライトの元を去り、自活するようになる
2023-11-06 20:31:09そして柔術に不慣れで、体格差から自らを侮る筋骨隆々のヨーロッパ人格闘家達を片っ端から投げ飛ばした。 「半分も体重がないような日本人が! これがロシア人を破った秘訣なのか!?」 かくして柔術はイギリス中から大きな注目を集め、東洋の神秘、或いは魔法のような武術と見なされる。
2023-11-06 20:33:50イギリス人にもマスターを得るような門弟が育ち、その中にはなんと女性すらもいた。 最も有名なのはイーディス・ガラッドで、日本に帰った師匠から夫婦共々道場を引き継いだ彼女は、その技を同じ女性達に伝授する。 「筋力で劣り、背が低くても大男を制圧できる。正に女性向けの武術ね!」
2023-11-06 20:37:15イーディスは弟子達と共に過激派女性参政運動、サフラジェットのリーダーであるパンクハースト母娘のボディガードとなり、寄せくる警官隊を片っ端から投げ飛ばす。屈強な警官隊は気がつけば宙を舞い、地面に倒れ伏す謎の体術に震え上がった。 「あ、あれが噂のサフラジツか!」 twitter.com/elizabeth_munh… pic.twitter.com/voeYxOPuLh
2023-11-06 20:40:421914年ロンドン、怒れる女達のデモ隊が、バッキンガム宮殿目掛けてまるで軍隊のような隊列を保ちつつ前進していた。 「Votes for women(女性に参政権を)!」 最前列の女性が声を上げると、周囲も一斉に叫んだ。 「女性に参政権を!」 彼女の名はエメリン・パンクハースト。 pic.twitter.com/lt3hQrotUX
2023-01-28 21:43:09