著者自身が語る、佐藤俊樹『社会学の新地平』(岩波新書)

11月17日に発売となった『社会学の新地平――ウェーバーからルーマンへ』(岩波新書)について、著者の佐藤俊樹さんによる投稿をまとめました。
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岩波新書編集部 @Iwanami_Shinsho

[11月の新刊本日発売 1] 佐藤俊樹『社会学の新地平――ウェーバーからルーマンへ』 ウェーバーとルーマン――産業社会の謎に挑んだふたりの社会学の巨人。彼らが遺した知的遺産を読み解くことで、私たちが生きる「この社会」への問いを更新する。社会学の到達点がここに! iwanami.co.jp/book/b635084.h… pic.twitter.com/lE3hmklPpN

2023-11-17 14:02:51
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佐藤俊樹 @toshisato6010

【新著の宣伝です1】 11月に岩波新書から『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』という新刊を上梓します。以下はその宣伝です。「宣伝」というのは、現時点ではこれは私の主張であり、他の人による検証をへていないからです。そのつもりで読んでください(^^。

2023-10-22 01:07:21
佐藤俊樹 @toshisato6010

基本的な内容を簡単に紹介すると、序章と第一~三章に終章という章構成で、主な主張点は4つです。順に紹介するとーー M・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(以下「倫理論文」)は今なお日本語圏の多くの著作で、

2023-10-22 01:07:42
佐藤俊樹 @toshisato6010

大塚久雄による読解とその延長(物象化論などもふくめて)にもとづいて解説されています。例えば最近の岩波新書から引用すると、「近代イギリスでは、ピューリタニズム……が、堕落している人間関係を完全に否定して、現世の生活の組織的・方法的改革をはかり、

2023-10-22 01:08:06
佐藤俊樹 @toshisato6010

「内面的品位の倫理」となりました。これが「魔術からの解放」(旧来の封建的陋習からの脱却)を促して、禁欲的・合理的に経済的余剰の最大化と再生産の拡大を目指す「経済人」の人間類型を生んだ、というのがヴェーバーの分析です」

2023-10-22 01:08:29
佐藤俊樹 @toshisato6010

(小川幸司・成田龍一編『シリーズ歴史総合を学ぶ① 世界史の考え方』(7-8頁、2022年)。といった読み方です。 しかし、[1]こうした読み方はウェーバーの近代資本主義論全体だけでなく、倫理論文そのものの内容からも外れている、と私は考えています。

2023-10-22 01:08:46
佐藤俊樹 @toshisato6010

第一章では、ウェーバーが論文中にあげた実際の経営の事例にもとづいて、それを具体的に示します。その上で、第二章では、[2]ウェーバーが採用した適合的因果という方法論にそって、ウェーバーの主要な著作群を位置づけます。

2023-10-22 01:09:09
佐藤俊樹 @toshisato6010

これはウェーバーの近代資本主義論と比較社会学を再構成することでもあります。そこから出てくる命題の一つは、「その研究の全期間を通じて、ウェーバーは「近代資本主義がプロテスタンティズムの倫理から始まった」とは考えていなかった」

2023-10-22 01:09:35
佐藤俊樹 @toshisato6010

(←「いなかった」です、おまちがえなく)というものです。 日本語圏では新奇にみえるかもしれませんが、これは特に驚くような新説ではありません。専門的な学説研究でもすでに指摘されています。例えばW・シュルフターは

2023-10-22 01:09:53
佐藤俊樹 @toshisato6010

「ウェーバーは……特に西洋資本主義の発展に関して……中世盛期の文化史的意義を見逃したりはしていないし、中世では主として制度的な転換が生じたことと、宗教改革後の時代には主として心情上・動機上の転換が生じたこととの間に矛盾もない」と述べています

2023-10-22 01:10:11
佐藤俊樹 @toshisato6010

(田中紀行監訳『マックス・ヴェーバーの比較宗教社会学』517頁、風行社、2018年、原著は1988年刊、S.422)。実際にウェーバーはこのように書いているので、こう考えるしかない、と私も(は?)考えています。

2023-10-22 01:10:23

新著について2

佐藤俊樹 @toshisato6010

【新著の宣伝です2】 いくつか引用します。 「古代における農地関係」(『古代農業事情(第三版)』1909年)では、「全ての特異に近代的な資本主義的発展、すなわち産業的資本主義の発展はまさにあのような「工業都市」によって創り出された法形態を受け継ぐものであり、

2023-10-23 00:51:21
佐藤俊樹 @toshisato6010

古代都市にはそれが欠けていた」と述べています(渡辺・弓削訳463頁、『全集』1/6 S.695)。「あのような」は直前の「中世の工業都市」(S.694)をさします。この文がある節全体が、西欧中世の都市と古代のポリスを比較したものです。

2023-10-23 00:51:55
佐藤俊樹 @toshisato6010

つまり、近代資本主義の出発点は西欧中世の工業都市にある、とウェーバー自身は書いているのです。「古代における農地関係」は山之内靖『マックス・ヴェーバー入門』(岩波新書、1997年)で彼の「中期」の代表作とされ、その社会学の鍵となる著作ともされて、

2023-10-23 00:52:52
佐藤俊樹 @toshisato6010

日本語圏でも知られるようになりましたが、そこでは実際には、近代資本主義の成立過程がこのように述べられています。ウェーバーは複数の、異なる時期に出現した要因によって近代資本主義が成立した、と考えているのです。他の著作でも同じです。

2023-10-23 00:53:39
佐藤俊樹 @toshisato6010

『一般社会経済史要論』(1923年)は1919-20年学期の講義録を編集したもので、1920年に亡くなる直前の研究の様子を知ることができますが、そこでも「資本主義が誕生したのは西洋の内陸の工業都市において」(黒正・青山訳『下』237頁、3/6 S.383)とあります。

2023-10-23 00:54:15
佐藤俊樹 @toshisato6010

こうしたとらえ方は、博士論文で教授資格論文でもある1889年の『商事会社』まで遡ります。ウェーバーはここで、構成員の共同責任と法人固有の財産(=「特別財産」)を特徴とする近代的法人会社の起源を14世紀イタリアの内陸の工業都市、フィレンツェに見出しました。

2023-10-23 00:54:55
佐藤俊樹 @toshisato6010

最もまとまった論述は1910年代前半の「経済と社会」原稿群の「ゲマインシャフト」にあります。ここでウェーバーはやはり中世のフィレンツェをあげて、次のように述べています(厚東訳589-591頁、黒正・青山訳『要論下』59頁、1/22-1 S.152)。

2023-10-23 00:58:08
佐藤俊樹 @toshisato6010

「決定的な契機は、「家」と「経営」の「会計帳簿的」および法的な分離と、この分離にあわせた法の発展:商業登記簿、商会Firmaや会社組織Assoziationの家族的拘束性の撤廃、合名・合資会社の特別財産、それに応じた破産法の形成などである。

2023-10-23 00:59:00
佐藤俊樹 @toshisato6010

これら根本的に重要な発展が西欧に固有であること、そして西欧でのみ、今日でも通用している商法の法的形態のほぼ全てがすでに中世で発展していたこと……は、近代資本主義への発展の質的独自性をきわめて明瞭に指し示す、多くの事象の一部となっている」。

2023-10-23 01:00:00
佐藤俊樹 @toshisato6010

さらに、このような家政と分離された経営の下で働くことを、ウェーバーは「職業Beruf」と呼んでいます(S.151)。倫理論文の中心的な概念とされてきた「Beruf」も、プロテスタンティズムの禁欲倫理によって初めて生み出されたものではないのです。

2023-10-23 01:00:33
佐藤俊樹 @toshisato6010

もちろん、だからこそ、2つの「職業Beruf」が近代資本主義の成立にどのように関連してくるのかなどの、複数の要因の付置をあらためて考える必要があるわけですが、そうした点については後であらためてふれるとして(【その3】など)。

2023-10-23 01:03:15
佐藤俊樹 @toshisato6010

『一般社会経済史要論』では「こうした分離は14世紀初めのフィレンツェで見出される」と、時期と場所をより明確に特定しています(黒正・青山訳『下』49頁、3/6 S.281)。 『宗教社会学論集1』の「儒教と道教」(1920年)でウェーバーは「西洋では工業が

2023-10-23 01:05:06
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