著者自身が語る、佐藤俊樹『社会学の新地平』(岩波新書)

11月17日に発売となった『社会学の新地平――ウェーバーからルーマンへ』(岩波新書)について、著者の佐藤俊樹さんによる投稿をまとめました。
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佐藤俊樹 @toshisato6010

その特別な出生地になった合理的な経営資本主義」(木全訳178頁、1/19 S.284)と述べていますが、(a)そこでいう「工業」は、大塚史学のいう17-18世紀イングランドの農村の小生産者たちではなく、14世紀イタリアの内陸の工業都市フィレンツェなのです。

2023-10-23 01:05:32
佐藤俊樹 @toshisato6010

そして引用してきたように、(b)1889年の『商事会社』から1920年に亡くなる直前まで、ウェーバーは複数の著作で一貫して、そのように書いています。

2023-10-23 01:05:58
佐藤俊樹 @toshisato6010

したがって、ウェーバーは近代資本主義を複数の、かつ出現時期がそれぞれ異なる要因群の重なりあいによって成立した、と考えていたことになります。倫理論文はそのなかの一つの要因をあつかったもので、他の著作では他の要因をあつかっています。

2023-10-23 01:07:12
佐藤俊樹 @toshisato6010

言い換えれば、ウェーバーの近代資本主義論や「ウェーバーの分析」は、そうした著作群全体で成立しています。だから、倫理論文やそれを収めた『宗教社会学論集1』などの宗教社会学だけで、ウェーバーの近代資本主義論を読み取ることはできないのです。

2023-10-23 01:07:46
佐藤俊樹 @toshisato6010

一つ、重要な論点をあげておきます。倫理論文でウェーバーは、大きな富の蓄積や活発な経済活動それ自体が近代資本主義を生み出すわけではないことを指摘した上で、では何が近代資本主義を成立させる要因なのか、という問いを立てています。

2023-10-23 01:08:33
佐藤俊樹 @toshisato6010

この問い自体が、物象化論をふくめた経済決定論に対する、ウェーバー自身の反論になっていると私は考えていますが、同じ問いは実はこの14世紀の出発点にもあてはまります。富の大きさや経済の活発さでは、ヴェネツィアやジェノバ、さらにはローマの方が優位です。

2023-10-23 01:09:01
佐藤俊樹 @toshisato6010

そして、ここには宗教のちがいもありません。カトリックかプロテスタントかといえば、全員がカトリックです。そして都市か農村かといえば、全員が都市の人間です。 では何がここを近代資本主義の出発点にしたのか? 『商事会社』はそういう研究であり、

2023-10-23 01:09:34
佐藤俊樹 @toshisato6010

ウェーバーはこの問いから研究を始めた人でした。そして、マリアンネ・ウェーバーの伝記にもあるように、終生、その問いを持ち続けた人でもある、と私は考えています。 倫理論文では、禁欲倫理にもとづく生活でも富の蓄積が生じることを述べていて、それが

2023-10-23 01:09:59
佐藤俊樹 @toshisato6010

経済活動の一部になりうることを論証しようとしていますが、禁欲倫理にもとづく生活によって初めて、近代資本主義を成立させるに足りる富が蓄積される、と主張しているわけではありません。私はそのように考えています。

2023-10-23 01:10:39
佐藤俊樹 @toshisato6010

(なお日本語圏の著作でも、「古代における農地関係」でウェーバーが、近代資本主義の出発点を中世の都市経済に見出していたことは、すでに指摘されています。例えば住谷一彦「GdS編纂者としてのマックス・ヴェーバー」(『マックス・ヴェーバー研究』岩波書店、

2023-10-23 01:11:52
佐藤俊樹 @toshisato6010

1965年)がそうですが(212-13頁と注11、たぶん他の研究もあるでしょう)、その一方で住谷は、【1】でもふれた倫理論文に出てくる唯一の経営事例をめぐって、驚くほどの誤解と誤読をやっています(196頁と注10)。

2023-10-23 01:12:25
佐藤俊樹 @toshisato6010

そのため、少なくとも結果的には、この指摘も大塚史学の補完になっています。ですので、『社会学の新地平』の第一章と読み比べてももらえば、大塚久雄『社会科学の方法』(岩波新書、1966年)のような読解とどうちがうのかも、具体的にわかりやすいと思います。)

2023-10-23 01:14:41

新著について3

佐藤俊樹 @toshisato6010

【新著の宣伝です3】 このような考え方にもとづいて、『社会学の新地平』では❶プロテスタンティズムの禁欲倫理もふくめて、これらの著作群にでてくる複数の要因をとりあげて、どんな方法論の下で、どのような因果的な関連で近代資本主義が成立したとウェーバーが考えていたのか、

2023-10-24 05:29:24
佐藤俊樹 @toshisato6010

を再構成し、その上で、❷現在の社会科学と歴史学の水準からみて、彼の主張、いわば「ウェーバー仮説」のどこがどの程度妥当だといえるのか、をあらためて検討した。❸それが最終的にはニクラス・ルーマンの組織システム論に繋がっていく、という内容になっています。

2023-10-24 05:29:45
佐藤俊樹 @toshisato6010

その、どう繋がっていくのかがあとの2つの主張点になるわけですが、ここではその道筋だけ、簡単に述べておきます。――よく知られているように、ウェーバーは近代資本主義の決定的な特徴を「(形式的に)自由な労働の合理的組織」などの言葉で言い表しました。

2023-10-24 05:31:52
佐藤俊樹 @toshisato6010

それゆえ、近代資本主義を成立させた複数の要因も、この「合理的組織」に関わってきますが、ウェーバーはそこで「合理的組織」の理論モデルづくりに失敗します。ウェーバーの「合理的組織」としては、いわゆる「支配の社会学」や「支配の類型学」にでてくる階統型の組織モデルや

2023-10-24 05:32:49
佐藤俊樹 @toshisato6010

それと裏表になっている規律化論がよく言及されますが、このような階統型モデルは、ウェーバー自身にとっても失敗だった、少なくとも十分に良いモデルにはならなかったと私は考えています。 なぜならば、近代資本主義の要因論のなかでウェーバーは、階統型モデルとは両立しない

2023-10-24 05:36:14
佐藤俊樹 @toshisato6010

「合理的組織」の特徴にはっきり言及しているからです。1919-20年の「経済行為の社会学的基礎範疇」(富永訳『世界の名著61 ウェーバー』所収、1/23)や『一般社会経済史要論』で、「労働組織」の特性として述べられています。それをふくめた「合理的組織」の定義論もここでなされています。

2023-10-24 05:44:45
佐藤俊樹 @toshisato6010

『要論』の日本語訳者の青山秀夫や、英訳者のF・ナイト(経済学で企業理論の創始者として知られる、あのナイトです)はこれに気づいていて、例えばナイトは”specialization and co-ordination” (p.169)のように訳しています。シュルフター前掲(→【1】)にも出てきます(^^。

2023-10-24 05:46:37
佐藤俊樹 @toshisato6010

それゆえ、近代資本主義の複数の要因を適切に関連づけるためには、原因を同定する方法論を整備したり、ウェーバーが言及した事例や対象を正確につきとめたりするだけではなく、因果の結果にあたる「合理的組織」の方も、より適切な形でモデル化する必要があります。

2023-10-24 05:47:58
佐藤俊樹 @toshisato6010

そのために『社会学の新地平』ではルーマンの組織システム論を使ったわけですが、最初に述べたことに戻ると、複数の、出現時期が異なる要因群を原因におく場合には、厳密には、ただ一つの「〇〇から近代資本主義が始まった」という言い方自体ができません。

2023-10-24 05:48:34
佐藤俊樹 @toshisato6010

ですから、「あえていえば」という限定つきになりますが、近代資本主義の起源、というより出発点は西ヨーロッパの中世の都市、より具体的に特定すれば14世紀イタリアの工業都市に見出される。複数の時期に書かれた複数の著作で一貫して、ウェーバーはそう述べているのです。

2023-10-24 05:50:03
佐藤俊樹 @toshisato6010

したがって、その研究の全期間を通じて、ウェーバーは「近代資本主義がプロテスタンティズムの倫理から始まった」とは考えていなかった、という結論になります。近代資本主義という社会的事象に対する彼のとらえ方はこのようなものだった、と私は考えています。

2023-10-24 05:50:40

新著について4

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